第5話 基地防衛
「甘いんだよ!」
マインの襟をゼラが掴む。
全員が格納庫に戻り、MSを降りる。
ゼラは帰還する途中、撤退するグフを見つけたのである。
それがマインと交戦したのだということは機体自体はガタガタなのに、ボディは無傷だったことで判った。
「相手だって人間だ!」
マインがゼラの腕を振り払う。
マインはさっきの戦闘のため、汗だくである。
「逃がした相手はまた来るんだぞ!」
マインを殴らんばかりの勢いである。
「戦争だからって人を殺していい理由にはならない!」
マインも張り合う。
メカニックは修理や整備をしながら耳を傾けている。
言い争う2人の周りに人が集まる。
ザストもいる。
「おまえそれでも軍人かよ!?」
「オレはやりたくて軍人やってるんじゃない!」
「何ぃ!!」
ゼラがマインを殴る。
マインが倒れ、上半身だけ起き、ゼラを睨む。
「ゼラ!」
アクスが仲裁に入る。
「アクス!?おまえはどう思ってるんだ!?」
「オレは・・・」
アクスが戸惑う。
「オレはマインにつく。」
真っ先に言ったのはヴァンである。
マインとは親友だが、それ以上に、マインの考え方のがヴァンをそう言わせた。
「私も、人を殺すのは悪いことだと思う。例え戦争でも。」
次に言ったのはルーンである。
考え方の違いは人それぞれだが、マインとゼラはほとんど正反対で、そのため、このような言い争いは何度かしてきた。
が、殴るまでには至らなかった。
今回の言い争いは、ゼラが本隊を見抜けなかった苛立ちもあるのだろう。
ゼラは今までエリートコースを進んできた。
士官学校も成績はトップだったし、シミュレーターの成績も同様。
この部隊に配属する前も1人でも任務は完璧にこなしてきた。
戦闘においても現実的な考えで戦ってきた。
MSの弱点はコクピット、そう考え、エネルギーは弾を節約し、戦ってきた。
マインの考えは逆である。
「ゼラ、自分の大切な人が目の前で死ぬとこを見たことがあるか?」
マインはうつむき、そう言った。
「・・何?」
「例え敵でも家族や大切な人がいる。悲しむ人を増やしたくない。」
目の前で家族や友人が死ぬのを見たマインにはコクピットを狙うことができない。
「ただの偽善じゃないか。」
愚痴をこぼすゼラ。
ヴァンとルーンはマイン側についたが、あとの者はどちらにもつかず、見ているだけである。
逆に言えば、自分がどちら側なのか判らず、どちらにもつけないのだ。
「ああ、そうさ、偽善だよ!オレの独善さ!」
どうせゼラには解らないだろう。
マインの言うように、ゼラは友人と呼べる者もいないし、家族もいない。
ましてや、そういう者が目の前で死ぬ等、見ていない。
「ふん・・・」
鼻で笑うとゼラは出て行った。
「マイン、大丈夫?」
ルーンがマインにかけよる。
「確かに、両方意見は間違っていないんだけどなぁ・・・」
アクスが呟く。
「とにかく、あのとき、マインが本隊を見つけていなければ基地はやられていたのは確かだ。」
ザストが言う。
それは運が良かったからである。
ザストが全員に休むように言った。
マインはヴァン、ルーンとともに格納庫を出て行った。
「そういや、朝飯、食ってないな・・・」
起きてそうそうの出撃で朝食を取っておらず、腹が減っていたのにマインは気がついた。
ゆっくりと3人は食堂に向かった。

「3人とも、無事だったか・・・」
司令室に入ってきたグレス達3人をみてグリエスが言った。
「はい・・・MSの修理をお願いします。」
「もう一度、行ってくれるか?」
「敵部隊の弱点を掴みました。多めの囮が必要です。」
「わかった、君たちが思った行動ができるように指示しよう。」
「ハッ!」
グレスが敬礼すると続いてカタス、ブライが敬礼し、司令室を出ていく。

マイン、ヴァンが司令室に呼び出された。
司令室に入る2人。
「2人とも昇格だ。マインは本隊を見つけ、基地を守った功績だ。ヴァンもだ。MSもGMから陸戦型ガンダムを使え。」
ザストにそう伝えられ、マインは少尉、ヴァンは曹長に昇格し、部屋をでる。
ヴァンは喜んでいるが、マインは浮かない顔をしている。
「マイン?どうした?」
「え?・・いや、オレも軍人になっちまったんだな・・・って思ってさ・・・」
マインは初め、軍が嫌いだった。
それでもMSパイロットをやっていたのは生きるためだった。
その時もコクピットだけは狙わなかったが。
「こんな時代だしな・・」
一定感覚で設けられている廊下の窓から外を眺めながら、部屋に向かう2人。
外は戦争しているとは思えない程綺麗な青空が広がっている。

数日後。
「多数の敵影確認!MS隊出撃!」
ルーンが叫ぶ。
マイン達が格納庫から出撃する。

「行くぞ、今回は失敗は許されんぞ!」
グレスが言う。
グレスは都市跡を通らず、遠回りだが敵MSとの戦闘を避けるルートをとっている。

大勢のMSが囮だと知らないザスト達は多数のMSと交戦する。
「これが・・・ガンダム・・・」
マインはガンダムの性能に驚いていた。
そして気付いた。
マインの陸戦型ガンダムの頭部の広範囲レーダーの端に、またも3機のMSを発見した。
陸戦型ガンダムの頭部ユニットは頬の辺りの換装が可能で、遠距離通信パックと増加バルカンポッドの2つがある。
マインの機体には遠距離通信パックを改良し、レーダーを通常の倍ぐらいの範囲を表示できるようにしたものである。
「ヴァン、また囮だ!オレは基地防衛にまわる!」
「OK、こっちも少ししたら行く!」
「隊長とかにも言っといてくれ!」
ヴァンの応えを聞く前にマインは3機のグフに向かっていった。
マインは姿勢を低くし、林の中を進んでいく。
グフに向かって一直線に。
「こんな近くにグフが!?」
基地内では大騒ぎである。
戦艦ではブリッジにあたる部屋では接近してくるグフの姿を見てざわめいている。
と、急にグフの横の林が揺れたかと思うと、陸戦型ガンダムが飛び出し、1機のグフの左腕を斬りおとした。
3機のグフは散開し、個々で基地に攻撃を仕掛け始めた。
「オレ一人じゃ守りきれません!退避してください!」
マインの通信が基地内に響き渡る。
それを聞き、多くの人が逃げ始めた。
マインは攻撃を仕掛けている1機のグフの頭部をビームライフルで撃ち抜き、他に攻撃している機体の頭部を撃ち抜く。
マインの攻撃をグフは避けていない。
基地のみを攻撃し、マインを無視している。
普通は頭部のメインカメラを破壊すれば戦闘続行を諦め、撤退していく。
が、エースパイロットとなると話は違う、メインカメラを破壊されても任務を遂行してから撤退しようとする者もいる。
「何!?なぜ避けない!?」
マインが困惑する。
3機のグフはマインの攻撃で、頭部左腕を破壊され、右腕も破壊されているグフもある。
両腕を破壊されているグフは足で基地の壁を破壊したりしている。
グレスの機体に斬りかかるマイン。
グレスがヒートソードで受ける。
「なぜ撤退しない!?」
接触回線で訊くマイン。
そのグフは無言で左腕の機関砲で基地に攻撃を続ける。
マインがグレス機の頭部を破壊する。
しかし、グレスも、他の2機のグフも攻撃を続けている。
マインが3機全てのグフの両腕を破壊しても攻撃は続いている。
マインがグレス機のコクピットにライフルを突きつける。
「動くな!撤退しろ!」
スピーカーで外に向かって叫ぶマイン。
基地内にも伝わっている。
「おまえには撃てない。」
返ってきた声は冷静だった。
そして、基地のほうに歩き出す。
マインは凍りついた。
相手は自分がコクピットを攻撃しない事を知ってしまっている。
だから攻撃を続けてもパイロットは死なない。
ボディだけになっても体あたりで基地を壊せる。
マイン振り返った。
そこには半壊しつつある基地があった。
自分には攻撃を止めさせることができない。
マインは無力さを感じた。
そして、マインはグレス機を抱えるとバックブーストをかけ、下がった後、後ろに投げた。
他の2機もそうした。
精一杯の抵抗である。
が、自分たちが殺されないと知っている3機はすぐに基地に張り付いてくる。
ヴァンたちは多数のMSに囲まれ、都市跡からでられない。
基地の人間はシェルターに隠れている。
しかし、逃げ切れなかった者もいた。
「くそっ!やめろ!」
マインがグフの両足を切断する。
しかし、ボディだけになっても、基地に体当たりしていく。
やがて、基地が崩れ、ほとんどその機能を失った。
そして、撤退していった。
後には壊された基地のがれきがある。
マインはコクピットからその破壊された基地をただ呆然と見つめていた。
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第6話 波乱