第6話 波乱
「気を落とすなよ、マイン」
ヴァンがマインの肩を叩く。
「落とさずにいられるか・・・」
マインは陸戦型ガンダムから降りている。
敵の部隊は撤退し、全員基地に戻ってきた。
基地の人員の70パーセントはシェルターに避難し助かった。
これはマインが抵抗して時間を稼いだためである。
基地の施設はほとんど崩れ落ち、基地としての機能は望めない状態である。
「全部、オレの責任だ・・・」
マインが呟く。
「いや、全員の責任だ。」
ザストが近づきながらこう続けた。
「前回の戦闘で囮を使ってきた相手だと言う事を忘れていた。」
「・・・チッ・・・」
ゼラはマインから最も離れたところで自分の陸戦型ガンダムの足によりかかりながら一人でその光景を見ていた。
結局、全員は近くにある基地に向かうことにした。
そこは重要な基地で、戦力を必要としている。
HLVやシャトルの打ち上げができる基地である。
そのため、重要物資や、補給物資の受け入れが多く、ジオンに何度も狙われている。
それでもその基地が墜とされないのは、そこのMS隊が優秀だからである。
その基地は、マイン達のいた基地に最も近い。
おそらく、3機のグフの部隊、グレス達が次に狙うところはそこであろう。
戦略的に考えても、先にその基地を墜としにかかると、マイン達に背中を見せることになる。
それを考慮した場合、マイン達の基地を先に墜とした方が良いのである。
基地にあったホバートラック等を使い、移動していく。
1、2日でつける距離である。
MSパイロットはMSの中で周囲を警戒しつつ進んでいく。
「次、また相手が同じだったら、オレはどうすればいいんだろう・・・・。」
その答えは1つしかない。
相手を討つことである。
しかし、それはマインが最も嫌っている事であるのに変わりは無い。
いつかぶつかる問題であることはマインの考え方を理解している人は知っていた。
マイン自身も解っていた。
いつまでもその考えで戦えぬことは解っていた。
マイン自身が克服しなければいけない問題である。
次、グレス達と戦う時までに克服しなければ取り返しのつかないことになるであろう。
マインは悩んでいた。

翌日、その基地に着いた。
「ザスト・ウェイン中尉だね?」
その基地の司令官、ガース・ウィルが司令室に入ってきたザストを見て言う。
「はい、ここに来るまでの経緯は報告書の通りです。次に狙われるのはこの基地だと思われます。」
「うむ、私もそう考えていた。この基地は貴君の基地により守られていたようなものだからな。」
ザスト達の基地が減ったことでこの基地にジオン軍が侵攻してくる回数は増えるはずである。
「この基地の守備隊に加えさせていただきたい。」
「そう言ってくれるか・・・よし、この基地に配属してくれ。」
「わかりました。部屋は・・・」
ガースが基地内の地図のコピーをザストに渡した。
そこには空き部屋が人数分より多く記されている。
「自由に使ってくれて構わない。」
「ハッ!」
ザストが司令室を出て格納庫にいる部隊の者に伝えに行く。
格納庫では、既にマイン達は、ここの基地の人たちと打ち解けていた。
「へぇ、コレが陸戦型ガンダムかぁ!」
ここのパイロット、シエル・ファイスがマインの陸戦型ガンダムを見上げて言う。
明るい性格のようである。
「高性能機に乗れるって事は腕、いいんでしょ?」
微笑みながらマインに話しかける。
「いいのは階級だけ・・・戦争には向いていないんだよ・・・」
基地を墜とされたことが尾を引いている。
「階級は腕が良くなきゃパイロットの場合、上がんないよ?」
「マインは今、落ち込んでるんだよ。」
シエルに対し、ヴァンが言った。
「甘すぎんだよ。」
ゼラがすれ違いざまに嫌味を言う。
マインには言い返すことができない。
「どういうこと?」
事情を知らないシエルにヴァンが説明する。
「なるほどねぇ・・・」
「オレがなんとかできていれば・・・・」
マインが言う。
「それは違う。もし、アンタが普通のパイロットだったとして、ベテランパイロットのグフ3機と戦って勝てる?」
マインがやっと顔を上げた。
「本気で戦って、グフ3機とまともにやりあえるのはニュータイプぐらい。アンタはニュータイプじゃない。」
ニュータイプ。
宇宙に適応した進化した人のことである。
地上で半分以下しか使用していない脳が宇宙という違う環境で使用していない部分を使う事で勘がするどくなったり、反応が早くなったりする。
戦闘において、ニュータイプは敵の攻撃を先読みしたり、相手の心を読むことで脅威的な戦闘力を持つと言われる。
「自分を責めても時間は戻らないんだ。過ぎた事を悔やむより、これからの事を考えた方がいいと思うけど?」
「・・・そう・・・だな・・・」
マインが立ち上がる。
「ありがとう、立ち直れそうだよ・・・・」
「あとはアンタが克服することだよ。」
シエルが微笑みかける。
そこにザストが入ってきて、部屋のことなどを説明した。
各自、自分の部屋を見に行った。

「基地を墜としました。」
「よくやったグレス中尉!」
「次は・・・ここですね。」
グレスが指差した所はザストの予想通り、マイン達が移動した基地である。
グリエス司令はうなずく。

マインはベッドに仰向けに寝て考えていた。
次、侵攻してきた敵を討つことができるかどうか、を。
いつか克服しなければならないとは頭で解っていても、実際にできるかどうかが問題なのである。
しばらくして、喉が渇いたマインはリフレッシュルームに向かった。
そこで飲み物が飲めるからである。
ゼラが格納庫へ向かうのをマインは見つけた。
そして、数分後。
「ゼラ!出撃命令は出ていないぞ!」
基地内に響き渡る声。
マイン達はすぐに格納庫に向かった。
「隊長!何があったんですか!?」
マインが陸戦型ガンダムに乗ろうとしているザストに訊く。
「ゼラを止める。お前たちもMSで待機してしてくれ。」
ザストがゼラ機の前に出る。
「ゼラ!何のまねだ!?」
ゼラから返ってきた応えは少し遅れていた。
「疲れた・・・」
急にゼラが言った。
ゼラの陸戦型ガンダムの動きが止まる。
「・・・何・・?」
ザストが言う
「付き合いきれないと言っている。」
凄みがきいている。
「ジオンにこの機体を持っていけば英雄だ。ここで腐るより、ジオンのエースパイロットになる。」
ゼラはこう続けた。
「死ね。隊長・・・いや、ザスト!」
ゼラはザストのコクピットにマシンガンを向ける。
そして、引き金をひいた。
「隊長!!」
ザストの部隊全員が叫んだ。
マインが飛び出す。
「ゼラ!!」
「マイン。キサマはオレが殺す!」
そう言ってマインの機体を蹴り、ゼラは去っていった。
「隊長・・・・」
マインはザストの機体を抱え、格納庫に戻った。
「・・・ゼラ・・・」
無意識のうちにマインは呟いていた。
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第7話 動き出した歯車