第9話 宇宙へ
一年戦争初期。
いつもどおりの朝を迎えた平凡な都市。
その都市に突如ザクUが現れる。
「ザクだって!?」
マインが叫ぶ。
そこには数機のザクUが都市に入ってきている。
逃げ惑う人々。
「マイン!?なにやってるの!?早く!」
通りがかった母親がマインの腕を掴む。
マインが振り返り、両親と共に走り出す。
途中から友人たちも走ってくる。
幼なじみのセリアの姿もあった。
ザクUは建物を避けて歩いているつもりなのだろう。
しかし、建物に腕や肩がぶつかっている。
と、セリアが転んだ。
「セリア!」
マインが近寄って抱き起こす。
セリアが走れそうなのを確認するとマインは手を引いて走り出す。
途中で、ザクUの2、3機がマイン達が逃げている方向にジャンプする。
マイン達の上をザクUが通過し、前方に着地する。
1機のザクUが建物の上に着地し、すぐにジャンプする。
その建物が崩れ、十数人が潰された。
後ろからザクUが歩いてくる。
と、大量の銃弾がそのザクUに降り注ぎ、爆発する。
「わあああ!!」
マイン達も爆風で転んだ。
陸戦型ジムが、逃げようとしていた方向に現れ、ザクUと交戦しはじめる。
ザクUが後ろにジャンプする。
着地したところには建物があり、建物が崩れ破片が降り注ぐ。
それでまたも大勢の人が死んだ。
握られている手に圧迫感がある。
見ると、セリアの目に涙が浮かんでいる。
その手はしっかりとマインの手を掴んでいる。
マインが周囲を見回す。
辺りには沢山の死体。
爆発や、崩れた建物の破片などでつぶされた人である。
友人の死体もあった。
その中にはマインの両親も転がっている。
「!?・・・母さん・・・!?・・・・父さん・・・!?」
マインは愕然とした。
両親の元に歩み寄り、揺すってみる。
反応はない。
「ねぇ、マイン、私たちここで死ぬの!?」
泣きながら訊いてくるセリア。
「わからない・・・けど、死にたくはないだろ!?」
マインの目から涙がこぼれる。
マインがセリアの腕を掴んでMSのいない方へ走り出す。
2人の横にある建物に銃弾が当たり、崩れ始める。
セリアが転ぶ。
破片に気付き、マインがセリアの上にかぶさる。
幸い、大きな破片は当たらなかった。
そこにザクUが倒れこんでくる。
破片が飛んでくる。
「ぐっ!」
マインはセリアにかぶさっていてその破片を肩に受けた。
左肩に激痛が走る。
「マイン!?なんで逃げないの!?なんで私を守るの!?」
セリアがそれを見て言う。
「もうオレの知り合い・・・セリアしかいないんだ・・・」
マインの視界がにじんでいる。
そこに、ザクUと陸戦型GMが飛んでくる。
ザクUがザクマシンガンを乱射する。
GMがシールドで受ける。
薬莢が飛んでくる。
「マイン!!危ない!!」
セリアがマインを横に突き飛ばす。
マインが倒れる。
セリアの頭に薬莢が激突し、セリアが倒れる。
「セリア!!」
マインが駈け寄り、セリアを抱き上げ、揺する。
セリアの頭から血が出ていて、反応がない。
「セリアーっ!!」
マインが絶叫する。
ザクUが右方向にジャンプして行く。
GMが近づいてくる。
そして、マインの前にかがみ、手を伸ばす。
「おい!どうした!?」
「うう・・」
そのGMのパイロットの質問に応えずに、セリアを抱いたままうずくまっているマイン。
そのパイロットが降りてマインに駈け寄る。
「ここにいたらおまえも死ぬぞ!」
パイロットがマインの右肩を掴む。
「もう、死んでもいい・・・」
「バカ言ってんじゃない!助けてもらったんだろ!?だったらその分生きろ!」
「知ったようなこと言うなよ!見てたんなら助けろよ!」
「できるならやっている!ここでおまえが死んだら彼女は何のために助けたんだ!おまえに生きてもらうためだろ!?」
その言葉でマインが動いた。
マインは優しくセリアを降ろすと、立ち上がった。
涙を拭き、そのパイロットの方に向き直る。
「行ってもいいか?」
「オレと来れば軍人にならざるをえないかもしれんが・・・。」
「生きることにする、セリアの分まで。」
「・・わかった、いいんだな?」
マインがうなずく。
マインがそのパイロットと共にGMのコクピットに入る。
「あんたは・・・誰だ?」
マインが訊く。
「ザスト・ウェインだ。」

・・・これがザスト隊長との出会いだった。
その後、基地に行き、パイロットにさせられた。
訓練やシミュレーターを何度もやった。
死なないように、強くなるために・・・。

色々なことがあった、とマインは回想する。
その記憶を知っているのは、隊長を含めマインの部隊だけである。
シエルはヴァンから聞いたようだが。
だが、ゼラは知らない。
ちょうど、その事情を話しているときにいなかったのである。
もう、宇宙である。
外をみつめるマイン。
漆黒の闇が広がっている。
「マイン、どうした?」
ヴァンが悲しげな表情で外を眺めるマインに話しかける。
「昔の事、思い出してちょっとな・・・」
マインが視線をそらさずに応える。
「昔か・・・」
ヴァンが呟く。
しばしの間沈黙が流れる。
そろそろガース司令の言った戦艦が収容に来る時間である。
数分後にそれは来た。
マイン達はその戦艦に収容される。
マインはブリッジに向かった。
「隊長は君か?」
この戦艦の艦長、ザスィル・キャスである。
「はい、マイン・ゼクロス中尉です。」
マインが応える。
「私はこの艦の艦長のザスィル・キャスだ。よろしく。」
「こちらこそ。」
マインとザスィルが握手をする。
「この艦のMS隊とも仲良くな、空いてる部屋はこの区画が人数分空いている。」
「わかりました。」
「あと、陸戦型ガンダムは宇宙では使えん。宇宙用に改造させるよう手配させる。」
「ありがとうございます。」
「そう硬くなるな、私も硬くなってしまう。」
ザスィルが微笑み、マインが出て行った。
人数分の部屋がある区画を教えるため、格納庫であるMSデッキに向かうマイン。
陸戦型ガンダムが既に改造され始めていた。
マインは艦長がいいんだなぁ、と思いながら仲間の待つHLVの前に向かった。
そこで、止まる方法が解らないのに気がついた。
「マイン!」
ヴァンが呼ぶ。
「わわ!止めてくれ!」
マインがヴァンに体当たりをする。
「何すんだよ!?」
「悪ぃ・・・」
しばらくして、体が慣れてくる。
部屋の位置を全員に教え、マインも含め、部屋に向かった。

「グレス中尉だね?艦長のゲイル・フロウだ。」
「艦長、陸戦型ガンダムを改造させてもよろしいでしょうか?」
「うむ、あの性能は使えるからな、君にはリック・ドムを用意した。」
ゼラは配属された戦艦で、陸戦型ガンダムを改造しているメカニック達を見ていた。
「宇宙に来ているかな・・・マイン・・・」
ゼラが不敵な笑みを浮かべる。
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第10話 人の心