第2話 撤退戦
11月12日 オデッサ後方鉱山基地オデッサ方向5Km地点
 彼らブラッディローズは基地のオデッサ方向5kmの所にいた。
 彼らのMS適当な岩陰にうずくまらせて隠された上から迷彩の偽装シートが被せられ、コンプレッサーが空気を循環させて、周囲の地面の温度と偽装シートのそれが同じになるようにしていた。
 偽装シート自体、よほど接近しなければ周囲の地形との見分けはつかないし、航空機偵察で、赤外線で捜索しても見つかる事は無かった。
 今回の彼らの任務は任務とは言えないようなものだった。来るかどうかでさえわからない敵に対して迎撃体勢をとっているだけである。実際、今はシートと地面の間にテントを張り、そこで生活しているだけ。言うなれば単にキャンプをしているだけである。
 何故彼らがこんな事をしているかというと、それは11月10日、彼らが俗に「格納庫」と呼ばれる後方鉱山基地 に辿り着いた時までさかのぼる・・・

11月10日 オデッサ後方鉱山基地「格納庫」
 この「格納庫」と呼ばれる基地にブラッディーローズが到着したのは10日の朝方の事だった。
 この基地は戦争初期に連邦軍から鹵獲したミデア輸送機やフライマンタ航空爆撃機などが多数置いてあった。つまりここは連邦の兵器を置いておく為の基地なのである。
 初期の頃は邪魔なだけだったフライマンタやミデアもオデッサが陥落した今は立派なオデッサ脱出の要となっていた。
 しかし、敵の兵器を使うとなれば当然問題も起こる。この基地の全てのミデアが今までろくに整備もされていなかったのもその一つだ。
 敵の兵器を整備する能力を持っている兵士は当然ほとんどいない、しかもそのミデアが十数機あるのである。整備に時間がかかって当然だろう。そして、そのために彼らはこの基地の機動防衛を行う事になったのである。
 任務自体の内容は大した事は無い、さっき言った通りに来るかもわからない敵が9Km地点にばら撒かれた敷設方センサーに引っ掛かるのを待って、もし敵がきたらMSで戦えばいい。それだけだ。
 さらに彼らのいる5Km地点の到達するまでに敵は2つの地雷原を突破しなければならなかった。
「地雷ってのは兵器自体に仕掛ける兵器じゃないんですよ、こいつは敵兵の心に仕掛けるもんなんです」
 工兵隊の隊長はジャックにこういった、最初はいまいち意味がつかめなかったが、なるほど地雷原の説明を受けた今ならその意味が理解できる。
 工兵隊はまず8〜7Km地点の間に普通の地雷を敷設した。ありふれた、まさに「普通」の地雷で構造が簡単なので数も多い。その代わり赤外線や地中レーダーなどのセンサーで簡単に見つかってしまう。しかし、この地雷はそこに狙いがあった。
まず深く穴を掘り地雷を埋めて、土をかけてまた地雷を埋める。上の地雷を撤去して安心していると下の地雷であの世行き。そういう寸法だった。
 しかもその中には大量の偽者が混ざっていた。重さも外見もよく似ているが爆発しない。それをあたかも本物のように敷設しているのである。連邦兵が神経をすり減らしながら撤去した地雷が偽者だと判った時のストレスはシャレにならないものだろう。しかも、上の地雷しか撤去していなければ味方はしたの地雷でお陀仏だ。
 さらに地雷が二重に敷設されていることに気づいて両方撤去したはいいがどちらも偽者だったとなれば、かなりの精神的苦痛を味わう事になるだろう。
 普通ここまで周到な敷設の仕方をすればもう地雷は無い物と思うだろう。ここで連邦軍には「もう地雷は無い」という先入観が生まれる。しかし、工兵隊はさらに7〜6Km地点の間にも地雷を敷設していた。今度の地雷は構成部品に一切金属を使っていないため、発見するのは容易では無かった。
 さらに厄介な事にこの第二地雷原に敷設されている地雷は全て時限式だった。つまり戦車やMSがそれを踏んでからしばらくして爆発する。これなら敵のいひょうを突けるし、味方の真っ只中で爆発した地雷によって敵は前進も後退も出来なくなる。そして連邦軍では予期し得なかった地雷によりかなりの大混乱起こるだろう。こういう時は過度の大兵力はかえって不利を招く。
 地雷の恐ろしい所はもう一つある。それは一つ見つかれば一体幾つの地雷が敷設されているか判らないということである。もしかしたらそれ一つかもしれないし、もしかしたら味方を全滅させうるほどの量が敷設されているかもしれない。それが軍の前進を遅らせる。 このような事を考慮すれば、はっきり行って敵がセンサーに掛かってからコーヒーの一杯も飲んだ後出撃しても十分敵は殲滅できた。しかしこれはあくまで第一波の話である。第二波が来るころには地雷もほとんど残っていないのだろうから敵の進軍ももちろん速い、それになんといってもMS三機で敵を迎撃しなければならないというのはかなりシビアな話だった。
 ともかく、こうして彼らは機動迎撃を行うことになったのである。

 機動迎撃と言ってもはっきり言って「機動」の「き」の字も無かった。完ぺきにキャンプである。テントからシェラフを引っ張り出してきて、外で星を眺めながら寝てみたり、「どうせ脱出の時処分するもんだから」と言って食料補給部隊が持ってきてくれた肉でバーベキューしてみたり。と完全に遊んでいたわけである。
 しかし、全てのミデアが整備を完了し、あとはブラッディーロズを待だけとなった最後の夜にそれは起こった。
「隊長、[格納庫]より入電、敵部隊が接近中だそうです」
 彼らが丁度遅めに取った夕食後のお茶を飲んでいる時にその通信が入った。あと1時間も経たないうちに脱出の準備が整うと言うときにだ。
「わかった、全員に告ぐ、各パイロットはすぐに搭乗、それ以外の兵員はホバートラックで先に基地に戻っていてくれ。脱出準備完了までもう大した時間かかるまい」
「「了解!」」
 こうして全員が自分の持ち場に着いた。

(阿保だ・・・)
 いつもはそんな事はあまり考えないジャックもさすがに呆れていた。
 敵はまんまと地雷原に引っ掛かり、兵力の大多数を失っていた。さらに、混乱のせいでやけになった戦車が適当に乱射を始めたりしたもんだからさらに被害が広がっていた。そのくせ事態は一向に終息せず、混乱が混乱を呼ぶ悪循環にはまっていた。
「たいちょー、これ俺らが攻撃しなくたって全滅するんじゃないですかぁ?」
 ウィルからかなりやる気の無い通信が入るが実際そのとうりなので咎めたりはしない。「まぁ、そう言うな、それならそれでラッキーだったってことで帰ろうじゃないか」
「でも隊長、そういうわけにもいかなくなったみたいですよ」
「どうしてだ?ライザ」
「今、レイカから通信があったんです。敷設センサーに新たにMSの反応があったそうです」
「なるほど・・・」
 彼は呆れるのを通り越して戦車兵たちを哀れに思った。つまりトラップなどにより兵力価値の高いMSを失わない為に戦車を先行させトラップの有無を確かめたのだろう。それにもしトラップがあっても戦車が引っ掛かってくれると言うわけだ。
 こうして敵のMS隊は戦車によってならされた安全なはずの道を通って進撃してきた。しかし、彼らの読みは甘かった。
 戦車隊はまだ第二地雷原の半分までしかきておらず、まだいくつかの時限式地雷が残っていたし、発動までのタイムラグを極端に大きくとった地雷もいくつか踏まれていた。さらに、二重に設置していた地雷もいくつか下の地雷が残っているものもあった。
 彼らの前で敵のMS隊の後衛の一機が各座した。どうやら地雷の残りを踏んだらしい。それに気づいた前衛の一機が立ち止まる。しかし、それがまずかった。
 そのMSは時限式地雷の中でもタイムラグが小さく、爆発力の高い地雷の上にいた。そのためそのMSは両足を木っ端微塵に吹っ飛ばされる。残った上半身も自由落下で地面にたたきつけられる。間違いなくパイロットは即死である。
 そんなこんなで最初は10機以上いた敵MSも今となっては5機を残すばかりである。 あとは簡単だった。ジャックが両手に持ったMMP−80で弾幕を張り、ウィルが足止めをする。後はライザが90ミリARで一機一機しとめていく。
 5分とかからずに敵MSは全滅した。
「よし、俺たちも撤退するぞ」
「「了解」」
 こうして彼らは基地に戻って、ミデアに乗り、一路、キャルホルニアベースへ向かう。
 そして・・・新たなる戦いの地へ・・・
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第3話 運命の変動、ジャブロー降下作戦 前編