第2話 地球連邦
 地球は今やエリートかスラムの人間しか住まない土地になっている。
 シャアの反乱によって落とされた隕石の影響で、地球はかつてない程に過激な気象となった。大気中に散った塵の影響で太陽光はより遮られ、寒冷化が進んだ。さらに各地で異常気象が発生し、農作物に二重のダメージを与えた。
 地球は、そこに住む人間の食料を賄う事ができなくなったのである。
 食糧難は、物価の上昇を招いた。さらに追い討ちをかけるように地球経済は戦後不況の影響で頓挫し、失業者が町中に溢れかえった。にも関わらず、地球連邦政府が執った政策は、雇用の充足や金融政策ではなく、福祉事業を名目とした増税だった。
 もはや完全に体力を失った貧困生活者はスラム化し、町は更なる悪化を続けた。治安は悪化し、それに呼応するように警察権だけがのさばる。失墜しきった権威に縋る警察の監視の前に、市民生活は発展の兆しすら見せようとしなくなった。
 だが、宇宙ばかりか地球すら見る事を忘れた地球連邦のエリートたちは、市民から巻き上げた税金によって裕福に暮らした。彼らの住む別荘には寒冷化の影響もないかのように南国の木々が生い茂り、同じエリートたちを招いては、宴会ばかりを催すようになったのである。
 すべては、シャアの反乱に勝利したと錯覚し、腐敗と驕慢の中に堕落した地球連邦政府の傲慢であった。
 地球連邦の傲慢は、地球ばかりでなく宇宙にまで及んだ。
 まずはネオ・ジオン派と見られるコロニーに対しての制裁。スウィートウォーターは言うに及ばず、ジオン共和国を掲げるサイド3に対しても行われた。
 スウィートウォーターは本当に入れ物でしかなくなった。地球連邦による資源の供給は行われなくなり、浄化しきれなくなった水や空気は、そのままの状態でコロニー内を循環するという状況になったのである。
 その腐敗した連邦の触手は、一年戦争以来中立を唱え続けたサイド6すら絡めとった。ネオ・ジオンを潰し、宇宙の不平分子を一掃したと認識する地球連邦にとって、中立を維持するサイド6は仮想敵でしかないのだ。
 サイド6宙域周辺における地球連邦軍の大軍事演習は、地球連邦の威嚇行動である。軍事力など見る影もないサイド6は、正式に連邦軍の駐留を認めなくてはならなかった。強圧的な地球連邦の軍事力に屈する形であった。
 どこのサイドもそうであった。月面都市群もそうであった。威嚇と強圧だけですべてを支配しようとする連邦の傲慢を許すだけであった。
 シャアの純粋すぎる稀有な世界も住みづらそうではあるが、これほどまで濁りきった世界は、人間がまともに生活できる状況ではなかった。だが、人々のその認識を汲み取ることすらできぬほど、地球連邦は腐敗しきっていたのだった。
 人類を律しようとしたシャアの反乱より、たったの一年の出来事であった。

 そんなある日、地球連邦軍の幹部の手に一つの報告書が届く。
 ネオ・ジオンの残党が再結集し、近いうちに決起するという内容であった。
 だが、連邦政府の腐敗を受けた連邦軍の中で、その話を信じようとする者はほとんどいなかった。彼らの認識からすれば、ジオンは一掃し、もはや地球連邦に逆らう存在はない。あるとしても、それは各コロニーに配備された精強を誇る駐留軍の敵ではないと心底思っていたのである。
 また仮にそれを信じた者がいたとしても、大半は連邦政府や軍需産業と結託し、戦争で新たな利益と利権を貪ろうとする者だった。
 それに、たとえ今ネオ・ジオンの再決起を予見する者がいるとしても、腐敗した政府と軍部の中で意見を通すのは賢明とはいえない。ジオンが目の前に現れてもその存在を否定しそうな連中に諫言しようものならば、逆に自分の首のほうが危ないのだ。
 だが、いかに連邦軍の頭脳が腐敗しているからといって、手足となる末端組織までが腐敗しているとは限らない。彼らは、自分たちを縛り付ける官僚制度の中で、懸命に職務を遂行しているのだ。
 現に、提出された報告書の内容は、かなり詳細かつ正確に記載されていた。
 地球連邦はシャアの反乱の時と同じく、またしても自らの無能さから、新たなる敵の出現を関知する事が出来なかったのである。
 腐った頭脳では、事の重大さを処理できなかったのである。やがて頭脳はその事実自体を忘れ、反応を示さない頭脳に手足は愚鈍と化した。もはや彼らに、水面下で活動するそれらネオ・ジオンの動きを察知する事は叶わなかった。
 彼らが再びこの事実を知るには、それから四年の月日が経つ事になる。
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第3話 クィーン