事例1 境界性人格障害のケース

主訴:対象者は高2男子A。平成11年11月中旬、友達づき合いがうまくいかず「友達を殴りたくなる」と養護教諭経由で来談。

 面接結果、全身の凝りやストレス障害がひどく、応急措置としてストレス解消法により全身の身体症状の解消が先決で、その後に心理療法を行うことにした。

 週1回のペースで2・3回の面接で全身の凝りはなくなり、投薬による治療効果(病名不明だが睡眠薬・抗けいれん剤・精神安定剤を精神科から貰っていたが自分で勝手に薬を飲むのをやめていた)と相まって急激に症状は改善され、2ヶ月後やっと心理療法が可能な状態となった。冬休み後に母親との面接ができ、Aの症状の根本原因が徐々に明らかになった。生育歴上の問題点として父母の離婚による幼少期の母親への愛情欲求不満があったこと、その後遺症としての異常行動(自傷行為・他傷行為)が現れ(病名不明)、しかも発症の時期が「冬季の、みぞれ混じりの寒い日」に集中することが明らかになってきた。そこでカウンセラーはAの診断を(1)衝動的自傷他傷行為、(2)依存と攻撃を繰り返す不安定で激しい対人関係(対母親や対友人関係)、(3)極端な感情易変性などから境界性人格障害と一応の仮説を設定し、担任や学年主任、教育相談係等に「特に注意して対応して欲しい」、特に養護教諭には「授業参加よりも睡眠をとらせること」とお願いし、「もしAが薬を貰いに病院に行かない場合は、学校の車で通院をさせる便宜を図ってでも薬を飲ませる手段を講ずる必要がある」と強く主張した。

 その学校側の一致した対応によって、Aは自分から病院に行き、2ヶ月ぶりに薬を飲みはじめ徐々に症状の改善がみられ、暴力行為などの異常行動もなくなり、3月の期末テストを受験でき、級友との対人関係も改善され、当面の危機状態は回避することができた。しかし更にAへの継続的なカウンセリングが必要と思われるが、1年後の現在、Aに特に目立った問題行動は見られない。


(2002年8月加筆)
 その後Aは、問題行動を見せることなく、大学に合格し無事通学しているとの事である。


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事例2 自信喪失が原因によるトイレに落書を繰り返すケース

主訴:「男子トイレの個室に落書を繰り返す生徒がいるので、カウンセリングをして欲しい」と高2男子Kと学年主任とが来談。

(事実関係)

 6月中旬から下旬にかけて、男子トイレの個室に、特定の教員を名指しで「H死ね」「なめんじゃねぇぞ」などの名指しのマジックペンによる落書が、消してもまた繰り返されるということが3回続いた。様々な目撃から「2年男子のKではないか」ということになり、担任と学年主任が直接Kに聞いたところKがその事実を認めた。Kはその動機を「何人かの先生の態度が頭に来たが、相手に言えないのでむしゃくしゃしていた。トイレに入るとそれを思い出して書きたくなった」と言う。学校側は今回の「落書事件」を処罰の対象にせず、教育相談の対象にすることになったとのこと。

(面接経過)

 7月6日にK一人での面接では、「試験の監督に来たH教員が教室の後ろの席に居た自分に「お前の席はここだ」と大勢の生徒の前で何回も言ったので恥をかかされて頭に来た。トイレに入るとそれを思い出し持って入ったマジックペンで落書きした」と言う。自尊心を傷つけられたことへの攻撃行為として、密室での「落書」らしい。発見された後に書いたクラスの友達への落書きは、「その日教室の前の方で私の悪口を言っていたので癪に障ってトイレで書いた。他人の前では言えないのでトイレの密室でこっそりと書く」と言うようにKは小心者で自信のなさを小さい声で答えた。教室や廊下の隅でこっそりとしか歩けない彼の行動から、神経質な自信のない様子がうかがえた。クラスでの対人関係をもてない結果、周囲に気を使いすぎストレスが溜まっている。これは彼の生育歴で母がいなく、大工の父との二人暮らしによる社会性の欠如の結果かもしれない。

(診断)

 密室での陰湿な「トイレでの落書事件」は、自信を喪失した神経質な小心者Kが教員や級友から自尊心を傷つけられた場合の攻撃行動としての反撃の手段方法として選択された行為である。従って、落書行為の原因である自信喪失を解消しない限り落書きは繰り返される虞れがある。そこでその対策としてKに自信をつけさせる一つの方法として、Kの得意な「物真似」をクラスや大勢の人の前で発表する機会を与えることを提案した。この提案が直ちに学校側に受け入れられ、担任や学年主任が中心となって毎日放課後20〜30分間物真似やKの話を聞くことになり、11月6日の文化祭の舞台で物真似を披露する機会が与えられた。その結果Kは落書きの心配は全くなくなり、自ら話し相手を求めて職員室やカウンセリング室を訪れるまでに成長した。しかし、まだ周囲の目が気になり、授業に出られない時があり、その時にはカウンセリング室に飛び込んで来る。Kは「この室に来ると精神的に落ち着く」と言う。もう暫くカウンセリングの継続が必要でありそうである。


(2002年8月加筆)
 2001年3月にカウンセラー自身が転勤を命じられたため、カウンセリング半ばで中断せざるをえなくなった。後任カウンセラーが配置されなかったためか、結局、Kは高校を中退したとのことである。


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事例3 引きこもり・不登校のケース

主訴:「入学式にも出られず、全休している生徒のカウンセリングをお願いしたい」と担任が来談。対象者は高1男子S。保護者は呼べば来てくれると思うとのこと。

(面接経過)

 先ず保護者面接の結果、家族は母子二人でアパートに居住。母の話によると、生徒Sは中学2年からいじめが原因で引きこもりになり、2年1学期より現在まで全休の不登校。高校入試も保健室で受験し、合格したが入学式にも出席できなかった。入試の時も生徒昇降口前まで自動車をつけても自動車から降りられず、30分間催促を続けてやっと受験できた。これまでの対応は、中学校のスクールカウンセラーに1回自宅を訪問して貰い、児童相談所の精神科医に診断を受けたが、「精神病ではない」と言われたという。

 その後2週間毎に保護者面接を続けたが、生徒Sとのかかわりは、カセットテープにカウンセラーの質問の回答を吹き込んで貰う方法に頼らざるを得なかった。Sの声は小さく、一問一答のひと言の会話しかできなかった。1ヶ月かかってやっと、Sの学校に行けない理由は「学校には大勢の人がいて不安であり、不安が高まると足が動かなくなる」との返答が得られた。保護者面接と合わせて、「不登校のきっかけは中学校時代の級友から”根暗”と言われていじめをうけたことにあるが、登校への不安・恐怖心は2年間の間に増幅し、心理的に足が動かなくなるという身体症状となっている」ことが判明した。

 Sの日常生活は、朝は母の出勤時には起床し、昼には母の作った弁当を食べ、自分の部屋に閉じこもっている。日中は何をしているか不明だが、あまり勉強はしていない様子。時々日曜日に母の自動車で本屋に行き、「何か雑誌みたいな本」を買っているが、母には見せないので母もどんな本か不明。夜は10時頃には寝ている、という。生育歴上の問題点として、Sが小学1年生のとき父母が離婚し、母に引き取られ以後母子2人生活。父の住所も不明で父子の交流は全くない。母の性格もSに似て無口・消極的で対人関係は少ない。そのためSの対人関係の発達障害の一因になっているとも考えられる。

 Sには趣味は何もないというが、Sの実父の父から将棋を習ったことがあるとのエピソードから、「将棋をカウンセラーとしよう」と話しかけ、Sがカウンセリング室に来ることに成功した。その間、Sに対し、文章完成法テストや、人前に出る訓練のために母の自動車で駅前の群衆を一緒に見に行くなどの行動療法等の事前準備を行った上、将棋盤を抱えて、生徒昇降口からではなく狭い横階段からカウンセリング室へ誘導した。カウンセリング室でのプレイセラピーが可能になったことでSの心理療法は急速に進み、今では職員室の担任ともゲームができるようになり、3ヶ月以内に「教室に入れるようになる」という最終目標の約束をとりつけられるようになった。


(2002年8月加筆)
 2001年3月にカウンセラー自身が転勤を命じられたため、カウンセリング半ばで中断せざるをえなくなった。Sの、その後の状況は不明である。

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事例4 中学生の不登校・家庭内暴力のケース

主訴:中3男子Nの事例。2年生の後半より不登校中。現在母親などに対する家庭内暴力で困る。

(面接経過)

 先ず母親に面接し、不登校になった理由などを調査し、家庭訪問をした。家族(父を除く)全員とのトランプゲームや、生徒Nとの将棋をしながら家庭環境を調査。母を通じNに対しベック不安評価表、うつ状態チェックリストなどでNの心理状態を知る。親子関係診断テストにより両親の子どもに対する接し方の矛盾を指摘し、両親に対する助言を続けた。

 その結果、家庭内調整が進み、暴力はおさまり、夏期宿泊研修(不登校児のみ対象)の参加を契機にNの対人恐怖傾向は急速に減少。校内実力テストの受験・マラソン大会の練習などカウンセリング室登校もできるようになった。そして、自宅で高校受験に向けて猛勉強し、無事公立高校に合格した。



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事例5 中学生の家庭内暴力・頻繁な欠席のケース

主訴:家庭内暴力と頻繁な欠席。中2男子Bの事例。

(面接経過)

 母親によると、Bはクラス1番の巨漢だが、性格は几帳面で神経質。毎朝トイレ後はシャワーを浴びないと気持ちが悪い。そのため朝起きするのが遅れると欠席(遅刻は選ばない)。学校ではおとなしいというが、家庭では短気で、両親や中1の弟に暴力を振るう。両親は子どもの前で派手な夫婦喧嘩をする。母は離婚を考えているという。そこで母親面接で、両親の不和がBの欠席や家庭内暴力の原因になっていると指摘。母親には離婚に揺れる心を支えながら、子どものために離婚を考え直すよう助言。他方Bには、昼休みの面接を繰り返し、落ち着かせた。

 その結果、ようやく夫婦間の調整が進み、それまで交互に欠席していたBと弟の欠席が少なくなり、主訴はほぼ改善された。




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