<<Prev.<<
6
 夕暮れ時の西日が、真の顔をオレンジ色の染めていた。物憂げな表情で夕陽を見つめる彼の横顔に、澪は思わずほぅ、と溜め息を漏らす。
 結局、来てしまった。
 何時の間にか届いていた、携帯のメール。
 何度も何度も行くまいと心の決めたのに、何時の間にか家を出て、近所にある小さな公園に足が向かっていた。
 まだ幼い頃、よく一緒に遊んでいた、小さな小さな公園――。
 そこで待っているから、と、真はメールで伝えてきた。
 「あ………」
 澪がやってきたのに気付いたのか、小さく、真が声をあげた。
 「…………」
 無言のまま、澪は真の側まで歩み寄る。
 長い、沈黙。
 真の体がこわばっているのが、手に取るように分かった。
 「澪……」
 「………何?」
 「その……昨日は……」
 「昨日が、どうしたの?」
 「ごめん……なさい……」
 「………」
 「その……もうすぐ、澪の誕生日だから……」
 「誕生日だから、何?」
 「澪の誕生日だから……そのプレゼントを選ぶのを、手伝ってもらっていたんです」
 「………バカ。私、他の人に選んでもらったプレゼントなんて、欲しくない」
 「………これは、違うんですよ」
 「え……?」
 はじかれたように顔をあげて、澪は真の顔を見つめた。
 「これは違うんです。……さっき、私が自分で選んで買ってきたんです」
 そういうと、真はスッ、と、澪に小さな包みを差し出す。
 「本当に……?」
 疑わしそうな目で見つめる澪に、真は小さくうなずく。
 「少し、早いですけど……受け取ってください」
 「……うん」
 なおも疑いの目を残しながら、澪は包みを受け取る。
 「開けても、いい?」
 「ええ、どうぞ」
 真がうなずくのを見て、澪は綺麗にラッピングされた包みの封を開ける。
 中から出てきたのは。
 「これ……」
 中心に翡翠がはめ込まれた、銀の十字架のペンダント。
 澪が駅前の専門店街で見つけて、ずっと欲しいと思っていたものだ。
 「ずっと前から、欲しいと思ってたのに……どうして、分かったの?」
 驚きの色を隠せない澪に、真はクスリ、と微笑む。
 「前に駅前の専門店街を歩いていて、澪を見かけたものですから……。そのときも、そのペンダントをずっと見つめていましたよね」
 そうなのだ。
 専門店街を歩くたびに、澪はいつもその店の前に立ち止まって、そのペンダントを見ていた。
 いつもいつも、見つめるだけ。
 その値段たるや、ただの女子高生が手を出せるようなモノではなかった。だから、いつも見つめるだけ見つめて、最後には、溜め息を付いてその店を離れていた。
 キラリ、と、十字架が西日の中で光る。
 「……ありがとう。つけてみて、いいかな?」
 真がうなずいて、澪は震える手でペンダントをつける。
 「似合うかな?」
 「ええ、とっても似合いますよ」
 ニッコリと微笑む真に、澪は照れ笑いを浮かべる。
 「真」
 「え?」
 「……大好き」
 偽りのない、その思い。
 改めて告白された真は、ただでさえ西日に当たって赤く染まっている顔を、さらに赤くした。
 「もう、何照れてるのよ――」
 そういうと、澪はいたずらっぽい笑みを浮かべて真の手を引き寄せる。
 「うわっ!?」
 思わずよろけた真を、澪はしっかりと抱きしめる。
 そして、その二人の影は、一つに溶け合ったまま――。


 しばらく、そのまま動かなかった。


- fin. -
<<Prev.<<
■ Library Topに戻る ■