夕暮れ時の西日が、真の顔をオレンジ色の染めていた。物憂げな表情で夕陽を見つめる彼の横顔に、澪は思わずほぅ、と溜め息を漏らす。
結局、来てしまった。
何時の間にか届いていた、携帯のメール。
何度も何度も行くまいと心の決めたのに、何時の間にか家を出て、近所にある小さな公園に足が向かっていた。
まだ幼い頃、よく一緒に遊んでいた、小さな小さな公園――。
そこで待っているから、と、真はメールで伝えてきた。
「あ………」
澪がやってきたのに気付いたのか、小さく、真が声をあげた。
「…………」
無言のまま、澪は真の側まで歩み寄る。
長い、沈黙。
真の体がこわばっているのが、手に取るように分かった。
「澪……」
「………何?」
「その……昨日は……」
「昨日が、どうしたの?」
「ごめん……なさい……」
「………」
「その……もうすぐ、澪の誕生日だから……」
「誕生日だから、何?」
「澪の誕生日だから……そのプレゼントを選ぶのを、手伝ってもらっていたんです」
「………バカ。私、他の人に選んでもらったプレゼントなんて、欲しくない」
「………これは、違うんですよ」
「え……?」
はじかれたように顔をあげて、澪は真の顔を見つめた。
「これは違うんです。……さっき、私が自分で選んで買ってきたんです」
そういうと、真はスッ、と、澪に小さな包みを差し出す。
「本当に……?」
疑わしそうな目で見つめる澪に、真は小さくうなずく。
「少し、早いですけど……受け取ってください」
「……うん」
なおも疑いの目を残しながら、澪は包みを受け取る。
「開けても、いい?」
「ええ、どうぞ」
真がうなずくのを見て、澪は綺麗にラッピングされた包みの封を開ける。
中から出てきたのは。
「これ……」
中心に翡翠がはめ込まれた、銀の十字架のペンダント。
澪が駅前の専門店街で見つけて、ずっと欲しいと思っていたものだ。
「ずっと前から、欲しいと思ってたのに……どうして、分かったの?」
驚きの色を隠せない澪に、真はクスリ、と微笑む。
「前に駅前の専門店街を歩いていて、澪を見かけたものですから……。そのときも、そのペンダントをずっと見つめていましたよね」
そうなのだ。
専門店街を歩くたびに、澪はいつもその店の前に立ち止まって、そのペンダントを見ていた。
いつもいつも、見つめるだけ。
その値段たるや、ただの女子高生が手を出せるようなモノではなかった。だから、いつも見つめるだけ見つめて、最後には、溜め息を付いてその店を離れていた。
キラリ、と、十字架が西日の中で光る。
「……ありがとう。つけてみて、いいかな?」
真がうなずいて、澪は震える手でペンダントをつける。
「似合うかな?」
「ええ、とっても似合いますよ」
ニッコリと微笑む真に、澪は照れ笑いを浮かべる。
「真」
「え?」
「……大好き」
偽りのない、その思い。
改めて告白された真は、ただでさえ西日に当たって赤く染まっている顔を、さらに赤くした。
「もう、何照れてるのよ――」
そういうと、澪はいたずらっぽい笑みを浮かべて真の手を引き寄せる。
「うわっ!?」
思わずよろけた真を、澪はしっかりと抱きしめる。
そして、その二人の影は、一つに溶け合ったまま――。
しばらく、そのまま動かなかった。
- fin. - |