翌朝。
「パパー!」
嬉しそうな声と共に、美弥子がトテトテと居間の方に駆けてくる。
「見て見て、サンタさんにもらったのー!」
満面に笑みを浮かべた美弥子はちょこん、と新聞を読んでいた葛城の向かい側に座ると、テーブルの上に綺麗に包装された箱を置いた。
「あら、よかったわねー。美弥ちゃん、何が入ってるのかな?」
「んー、わかんなーい」
騒ぎを聞きつけた母親が、苦笑いを浮かべている葛城にニッコリと微笑みながら、美弥子の傍らに腰をおろす。
「開けてもいいかな?」
「ああ。ちゃんとサンタさんに御礼を言ってからな」
「うんっ! サンタさん、ありがとー!」
元気な声でプレゼントをくれたサンタさん=葛城にお礼を言ってから、美弥子は包みを開ける。
でてきたのは。
「わぁ!」
美弥子がデパートのおもちゃ屋さんで欲しがっていたぬいぐるみであった。
「サンタさん、ありがとー!」
真新しいぬいぐるみをギュッ、と抱き締めて、美弥子が満面の笑みを浮かべる。
「よかったな、美弥子。……さぁ、朝御飯にしようか?」
相も変わらず苦笑いを浮かべたまま、葛城はちょっと複雑な心境で嬉しそうな愛娘の顔を眺めていた。
(やっぱり神社にクリスマスは……似合わないよなぁ……)
同じ頃。
いつもとは少し違う朝の日ざしを受けて、真は目を覚ました。
「んー………」
眠そうな目をこすりながら、ゆっくりと半身を起こそうとする。
が。
左腕がまったく動かないのに気付いて、真は何事かと振り向き、そして――
「…………は?」
と、間の抜けた声を出した。
目の前に、澪の幸せそうな寝顔がある。
左腕が動かないのは、彼女が真の腕をしっかりと抱き締めて眠っているかららしい。
何かおかしいと思ったら、彼が今いるのは、澪のベッドの中だったのだ。
「あー……え、えーっと……」
それに気付いた瞬間、真の顔が耳まで真っ赤に染まる。
(何で……私がここに……)
と。
「んー………あ、おはよー」
と、やはり朝日に目を覚ました澪が、「にこぉ」と笑みを浮かべる。
「あー、えーっと……」
「やだ、何照れてるのよ。昨日はあんなにすごかったのに」
「はぁ!?」
思いっきり「意味深」な発言に、真の顔がサッと青ざめる。
昨日。
昨日はパーティーの途中で刃が帰ってしまって、それから澪と二人でテレビゲームをして……それから?
「やだ、何も覚えてないの? ちゃんと責任取ってくれるって言ったじゃない!」
ぷぅ、と頬を膨らませる澪に、真はただただ顔を青ざめさせるばかり。
「あー……あの、一体……」
「だ・か・ら。昨日のゲーム、ちゃんとクリアしてよね!」
「あぁ……はははは……」
「ねぇ……一体何考えてたの?」
真が乾いた笑みと共にもらした安堵のため息に、澪がいぶかしげな表情で尋ねる。
「え? 別に、何も……」
「ホント?」
「ええ。本当に、何も」
「そう? それならいいけど……」
なんとなくうなずいた澪は、いまいち納得しきれない表情のまま半身を起こして、
「さむーい!」
と、再び布団の中に入るなり真に抱きついてくる。
「み、澪……?」
「ねぇ、もう少しこのままでいたいな……」
よほど寒かったのか、小刻みに身体を震わせながら、澪は甘えた声で真に迫る。
「ダメ?」
「わ、私は、別にかまいませんケド……」
顔を真っ赤に染めた真が、目をそらしながら答える。
「よかった」
ホゥ、と息をついて、澪がそっと真の頬にキスをする。
「メリークリスマス、真」
「……メリー、クリスマス」
消え入るような声で答えた真に、澪がクスクスと笑い声を上げる。
窓の外が一面真っ白に染まっていることに二人が気付くのは、まだまだ当分先のことであった。
- fin. - |