掃除を終え、墓前に花束を供えて、葛城は無言のまま、手を合わせた。
あれから、既に十三年の月日が経っている。
それでもなお、あの夜の出来事は、まるでつい今しがた経験してきたことのように、葛城の脳裏に焼きついて離れない。
この十三年間――結婚もしたし、子供も生まれた。そして、孝の再来かとまで言われるほどの、腕利きの退魔士へと成長した。
それでも、なお。
孝の姿が、鮮烈なまでに、葛城の意識のうちに、焼きついている。
人は、孝を超えたと言う。
けれど、本当にそうなのかは、葛城には分からない。
人には得手不得手というものがある。孝が得意でも葛城は苦手としていることがあったし、その逆もまた然りだ。
何より、孝はもう、この世の人間ではない。
本当に孝を超えたのか、ということについては、もはや、確かめる術がない――あらかじめ、その答えが失われた問題なのだ。
「………?」
ふと、背後に気配を感じて、葛城は立ち上がった。
「あ、あなたは………」
後ろには、妙齢の女性が一人、佇んでいた。
十三年前と、変わらぬ姿。
かつて、孝が「姫」と呼んでいた女性。
そして今は。
「咲夜……さん」
「……お前も、毎年ここに来ていたのか」
何時になく沈んだ声で、彼女はそう問いかけた。
「ええ。日は前後しますが、毎年この頃には」
「私もそうだ。十三年もの間、一度もすれ違わなかったのが不思議だが」
そう言って、彼女は微かに笑った。
「……そういう顔をしてくれるな。私とて、望んでああいう結果になったわけではない……」
そう言うと、彼女は墓前に座り、持っていた花束を添える。
「帰るのか?」
気配を察したのか、咲夜は立ち去ろうとした葛城に、声をかける。
無言のままうなずく、葛城。
「そうか……」
しばし考えるようなそぶりを見せて、彼女は一度、立ち上がった。
「日を改めて、会わないか」
「日を改めて?」
尋ねた葛城に、咲夜はうなずく。
「お前とは一度、ゆっくり話をしてみたかった」
「……わかりました」
「そうか。では、また連絡するとしよう」
そう言うと、咲夜は背を向け、墓前に手を合わせる。
その姿は、声をかけるのをはばかられようで――葛城は、無言で会釈をして、その場を後にした。
「今日も、暑いな……」
ふと、上を見上げて、木々の間から差し込んでくる木漏れ日に目を細める。
十三年前のあの日も、こうした、日ざしの強い日だった。
鬱蒼と茂った木々のはるか向こう。
わずかに覗いた空は、陽光をさえぎるものは何一つなく――ただただ、澄み切っていた。 |