Graffiti 7 −ほのか−
その娘は、さっき俺が助けた(?)めがねをかけたおだんごの娘だった。
「どうしここにいるの?あなた、北大の学生さんなの?」
転んだのが恥ずかしかったのか、それとも俺があまりにも怪しすぎたのか、少し険しい顔で俺に聞いてきた。
「いや、そうじゃないんだけど、ちょっと人を探してて。あっ、そう。さっきは大丈夫だった?」
俺はちょっと気まずい雰囲気を察知し、まずいと思ってそう付け足した。
「あっ、さっきはありがとう。助けてくれて。」
「いや、別に恩を売りにきた訳じゃないんだ。ごめん。」
「ううん。別に、そういう意味で言ったんじゃないんだけど。ここに何か用なの?」
「うん。沢渡教授を探してるんだ。」
「えっ、あなた、沢渡教授に用があるの?」
「うん、そうなんだけど、ここも広いからなかなか見つけられなくて。」
すると彼女はこう言った。
「驚いちゃうかも知れないけど、沢渡教授は私のパパだよ。」
「ほ、本当に!?」
「うん...。」
「じゃあ、ひょっとして君がほのか?」
「えっ、ほのかは私だけど...。どうして私の名前を知ってるの?」
「ほら、覚えてない?小学5年生の時、こっちに転校してきた...。」
すると彼女は少し驚いたように、
「えっ、あなたが、あの...?」
「でも、ほのかも随分雰囲気変わったね。」 と俺が言うと、
「あっ、そうか。だからさっきわからなかったのね。」
と少し笑いながらメガネを外し、おだんごを解いた。
するとどうだ。
あのスケッチそのものではないか!ということは、やっぱり...。
と考えていると、ほのかが俺にこう聞いてきた。
「でも、私のパパに何の用だったの?」
「いや、君の親父じゃなくて、ほのかに逢いたかったんだ。」
「えっ、わ、私に?」
「そう。あ、でも、急に訪ねて来て悪かったかな。」
「別に...そんなこと、ないよ。」
そういって、彼女は少し目をそらした。会話が止まり、また気まずい雰囲気になる。ここは何か言わないとまずい、と思った俺は、
「馬...、好きなんだね。」
するとほのかは、
「うん、馬は純粋な目をしてるし、それにウソをつかないから。あっ、でもあなたは馬は嫌いになっちゃった?」
と逆に問いかけてきた。
俺には、その意味がいまいちよく分からなかったが、とりあえずこう答えた。
「いや、好きだけど。」
「そう、よかった。」
またここで会話がとぎれた。が、俺が近くの馬の顔に手を伸ばし、触っているところをみたほのかは少し安心したような表情を見せて、その馬の話をしてくれた。「この子は私のパパがとりあげて、生まれたときから私もずっと一緒に面倒みてるんだよ。だから、この子は私の気持ちをよく分かってくれるの。」と。
それで話のきっかけをつかんだ俺は、いろいろと話をした、そして、こう切り出した。
「それでさ、また今度札幌に来ようかと思ってるんだけど、よかったら電話番号、教えてくれるかな?」
ほのかは、一瞬困ったような表情(だったと思う)を見せたが、
「うん、わかった。ちょっと待っててね。」 といって、バックから取り出したメモ紙に電話番号を書いて、半分に折って俺に渡し、
「はい、これ...。でも、ホントにまた訪ねて来てくれるの?東京からだと遠くない?」
と聞き返してきた。
俺も、今回はあの手紙の真相を聞きたいと思っていたが、会っていきなりその話を切り出すのはどうか(可愛いし、また会いに来たい)と思ったので、今回はその話は避けようと思った。
「うん、また必ず来るよ。暇ができたらね。」
「ホント!嬉しい。じゃあ、楽しみにまってるね。」
と意外にも嬉しそうにほのかは言った。
「これは聞けるかもしれない。」と思った俺は、あえてこう切り出した。
「あのさ、ほのか...。」
「な、なに...?」
「1週間前、たぶんと...」
と俺が言いかけたとき、間発いれずに、
「あっ、ごめんなさい。せっかく来てくれたんだけど、私、これから用事があるの。だから、ごめんね」
と言って俺の話を切った。
「うん、そ、そう。じゃあ、また今度電話するよ。それじゃあ。」
「うん、わかった。それじゃ、また今度ね!」
といって元気に走っていった。
久しぶりにほのかの顔を見て、俺も正直懐かしかった。
今回の旅の目的は、ほのかにあの真意を確かめることだったが、また逢いにくる口実ができた。
(どういう口実だ?)
ほのかも嬉しそうだったし、まあ、よしとしよう。
しかし、今回の旅は苦戦すると思ったので、バイトは春休み中休みを取っている。せっかくここまできたのに、このまま帰るのは口惜しいと思い、残りの休みは本来の目的+過去を思い出す時間に費やすことにした。
さすがに北海道に住んでたのは7年前。その後も東京に落ちつくまでに移動した土地は合計5ヵ所。さすがに当時の記憶も薄れている。
それに、最初はあまり思わなかったが、「あの暖かい冬」の理由も知りたかったし、直感ではあるが、その鍵をほのかが握っているような気さえしていた。
とにかく俺は、なにか重要なことを忘れている。そう思えてならなくなってきた。
ほのかかしか知らない俺の思い出。
きっとあるはずだ。
俺の思い出を俺が知らないというのも変だが、思い出せないのだからしょうがない。
まあ、もう少し時間をかけて思い出してみるか!
とはいうものの、さすがに2週間のホテル暮らしはは金銭的に辛い。現所持金では足りないのは目に見えている。
さて、この状況、どうやって回避すべきか。
そうだな、あの張り紙にでも頼ってみるか...。それとも帰るか?
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