2000年
3月18日(土)
PM 7:00
取材を開始。
取材…Binちゃん
まだ寒さを残す、大阪のJR天王寺駅の周辺。弾き語りが多く出没するスポットである。
まず歩道橋に一人でギターを持ってたたずむ人に声を掛ける。
「こんばんは…、すんません、ちょっとお話を聞かせて欲しいんですけど…」
いろいろと話を聞いてみる。
彼はナカムラ君、20才。
最近、大学を中退したようだ。
「するとプロの歌手を目指してるんですか?」
「いや、そういうわけではないんですよ。ここで演奏するのが生活の一部っていうか…」
「そうですか…」
彼は一年近くこの場所で演奏を続けているらしい。
歌うことが生活の一部。特に他には何も望んでいないらしい。
3月18日(土)
PM 7:28
日が落ちる頃からだんだんと、この歩道橋近辺に弾き語りが出没する。
相変わらず人の通行量は多い。午後7時28分。歩道橋を降りてみる。
その下にも弾き語りは多くいるのだ。
彼はフチグチくん、19才。すでに女の子何人かが立ち止まって聴いている。
「ちょっといいかな?」
「いいですよ」
「弾き語りをしてて何かいいこと、あった?」
「友達が増えましたね。他の弾き語りとか、見てくれてる人とか」
そうか、弾き語りは横のつながりもあるんだ。
俺はすっかりライバル心を燃やして競い合っているものだと思っていた。
みんなプロを目指して真剣に望んでいるものと思っていたのだが…。
意外とあっさりしているものである。
彼は言う。
「弾き語りは僕の遊びの一環で、一週間の中に組み込まれていて、生活の一部です」
またここでも出てきた。
「生活の一部」
歌うことは野望の手段ではなく、楽しむためだけに、ここへ演奏をしに来ているようだ。
3月18日(土)
PM 7:48
再び橋の上に戻ると、珍しい人を発見。
路上サックスソロ演奏のお父さん。
これは話を聞かなければ!と思い、演奏が区切れるのを待つ。
ジャズナンバーの即興演奏が繰り返される。しかし、演奏はそんなに上手くない。
この日、外はすごく寒い一日だった。手がかじかむ…。
だが、取材のためだ。ぜひともこのお父さんに話を聞きたい。
じっと寒空の中、待ち続ける。終わらない。なかなか終わらない。
ジャズの曲というのはこういうものなのか?
お父さんの息が切れるのが早いか、俺がトイレに行きたくなるのが先か?
うーん、ギブアップ。トイレに行く。取材中断。
トイレから戻ってきてもまだ演奏していた。
どんな肺活量をしているのだ?俺がトイレに行っているあいだに深呼吸&休憩をしたのか?
結局取材できず、その場を去る。