ゴミに大阪五輪は浮かばない
−会場の舞洲、夢洲は環境ホルモンの巣−
私たち、大阪オリンピックいらない連は、98年2月に出版した「2008大阪オリンピック・名誉ある辞退を・・・」という小冊子で、すでにゴミの島でのオリンピック開催に警告を発していました。(「名誉ある辞退を・・・」の12〜14ページ)
その心配が現実の問題となり、ゴミの埋立地の夢洲、舞洲での2008年大阪オリンピックは、開催不能のピンチに立たされています。
現在、オリンピックに立候補した都市は、IOCとUNEP(国連環境計画)に対し、オリンピック開催での「環境条項」を結ばねばなりません。IOCが決めた「オリンピック招致都市に課す条件」は次のようになっています。
●オリンピックに関係する組織の業務は、全て都市計画や環境保全のための規制を満足している旨の保証書を出すこと。
●人間と自然の調和の理念に基づき、環境影響評価が実施されたか、またそれは公共機関等によって実施されたものかを示すこと。
●地域の環境NGO(非政府団体)とオリンピックの開催に関して相談したか、またこの場合、NGOからの意見について示すこと。
以上のように「環境基準」は厳格なものです。
現在、競技場などが8割方完成している2000年夏のオリンピック会場のシドニーで、2008年オリンピックが吹っ飛んでしまいそうな事態が進行中であることが、毎日新聞(98年8月19日、夕刊トップ)で大きく報じられました(別掲)。
それによると、五輪開催用地760ヘクタールのうち160ヘクタールは、一般廃棄物や産業廃棄物の処分地だった。2年がかりで土壌と水質を調査した結果、約900万立方メートルに及ぶ土壌の処理を決めた。すべての土を特別管理地域に移した上で、汚染物質が見つかったエリアは緑地帯としての利用に限った。98年末完了で総額1兆3700万豪ドル(日本円で約118億円)という世界最大級の土壌改良事業となっている・・・と伝えています。シドニーは160ヘクタールもの埋立地のゴミ処分土を全部取り払いました。さて、それから8年後の2008年オリンピックに立候補している大阪市はどうするんでしょうか。
IOC、UNEPと契約させられる「オリンピック環境条項」は、さらに厳しくなることはあっても、シドニーより緩和されるとはまず考えられません。となると、大阪市があくまでゴミの島の舞洲、夢洲をメイン会場や選手村としてやるのなら「シドニー並み」の環境対策が最低の条件になるはずです。
舞洲225ヘクタール、夢洲390ヘクタール、合計615ヘクタールに深さ20数メートルにわたって積み上げられたゴミを、シドニーのように全部撤去するなんてことは不可能に近いし、とんでもない巨費のムダ遣いになります。
これまで、ダイオキシンの巣といわれているゴミの焼却灰が舞洲に290万トン、埋め立て中の夢洲には95年9月末で396万6000トンが埋められています。まさにダイオキシンの巣の上でのオリンピックでは、IOCもUNEPもOKは出しかねるのではないでしょうか。
私たち大阪オリンピックいらない連の要求で、大阪市は、当初は「問題なし」としていた舞洲の10万人分収容のメインスタジアムとメインプールの位置を、生ゴミと焼却灰が埋まっている第1工区から、主として浚渫土砂で埋め立てた第2,第3工区に移すことをしぶしぶ決めました。メインスタジアムなどが半分ひっかかる第1工区は「管理型」埋め立てと呼ばれます。それを移すという「安定型」の第2,第3工区にもダイオキシンに劣らないほどの環境ホルモン物質が埋まっているのです。
それはダイオキシンに匹敵するほどの毒性を持つといわれる有機スズ(TBT)とご存知のPCBです。
環境庁が1985年から毎年実施している生物モニタリング調査の1995年分では、魚類14地点70尾、それにムラサキイガイ、イガイ、ムクドリ、ウミネコの貝や鳥も調査しています。
大阪湾のスズキがダントツの汚染度を示しています。TBTは10年前に製造も使用も禁止された化学物質です。船の船底塗料や漁網:養殖用ネットの防汚剤として広く使われていました。
つまりその猛毒性がじわりと長期間、海中に溶け出すので、船底に貝がついてスピードダウンすること、養殖ネットでは貝や海藻で網の目づまりを防ぐのに有効だとして全世界で使われてきました。
このTBTがダイオキシンなみの環境ホルモンで、日本各地でメスのイボニシにペニスが生えるという異変の犯人といわれています。国立環境研究所の研究では、わずか1ppt(ピコグラム=1兆分の1)の濃度のTBT溶液でペニスがメスに生えてきたそうです。大阪湾のスズキのTBT汚染の平均値の0.41ppm(ppmは100万分の1の単位)は、ピコグラムにすると、なんと41万pptということになるわけです。このスズキは2〜4年のハネ級だそうですが、とっくの昔に製造も使用も禁止されたTBTが今も魚や貝を汚染しているということは、海底にたまったヘドロからと考えられます。もちろん水質も疑われています。
TBTだけでなくPCBも、環境庁のモニタリングでは大阪湾は最高値です。
その海底土砂をサンドポンプで吸い上げて埋め立てた「安定型」の舞洲第2,第3工区、さらに目下大阪港内の浚渫土砂で埋め立て中の夢洲は、まさにダイオキシン、TBT、PCBなど環境ホルモン”御三家”の上での「環境無視オリンピック」になりかねません。
大阪市もあわてて1998年10月14日から3カ月かけて舞洲と夢洲、その周辺海域を含めた計15地点で浸出水、処理水、放流水の水質、土壌汚染度、周辺海域の水質や海底の底質、舞洲北側のムラサキイガイの汚染度、舞洲の大気などを調べ、ダイオキシン濃度のほかTBT(有機スズ)やPCBなど重金属や環境ホルモンと疑われている化学物質の汚染度を調べることになりました。
1999年1月に結果を公表するといっていますが、広大な舞洲、夢洲では15地点では少なすぎるし、どんな地点を選んだかが問題です。
ユニバーサルスタジオの予定地の六価クロムやPCB汚染の際も、大阪市は再調査しましたが、調査地点はあまり問題のない廃棄物を埋めた所ばかり・・・と批判されました。夢洲、舞洲ではくれぐれも、そんなゴマカシ調査はゴメンです。
数年前に大阪府が産廃で埋め立てた堺第7−3区の処分場で、埋め立てが終わってちゃんと覆土した場所で、クレー射撃の競技中に10数人が倒れるという騒動がありました。恐らくメタンガスか、何か有毒なガスが地中から上がってきたためと言われていますが・・・。
ゴミの島を埋め立ててすぐオリンピック会場に・・・というのは、大阪市長さんは「当たり前」と考えているかもしれませんが、世界の常識からいうと「とんでもない非常識」ということになります。
私たちの公開質問に大阪市が回答した中に「ダイオキシンについては、焼却残さい等を埋立しているため、埋立地内に相応に含まれていると考えられますが、これまで埋立処分地内の浸出水のダイオキシン濃度を測定したところ、1.4ピコグラム/Lと、ごく微量であり、直ちに問題となるレベルではないと考えられます」としています。広大な舞洲のどの地点かを明らかにしない1地点だけの調査では、調査になっていません。
1968〜97年に淀川沖(まさに舞洲沖)で京大が底質を調査しましたが、6〜25ピコグラム/gと大阪市よりはるかに高い濃度のダイオキシンを検出しています。
ダイオキシンの許容値は、日本では牛乳や土壌についてはまだ決まっていませんが、焼却場の排出基準は0.1〜5ng/m3となっています。土壌については欧州各国はほとんどが規制しています。例えば、ドイツの場合は、ppt(ピコグラム/1グラム)で5以下が目標値、40以上で農業制限、100以上で子供の遊び場はダメ、1000以上で住居地域は不可、10000以上で場所を問わず浄化対策が必要・・・となっています。
舞洲の埋め立ては、1973年から87年にかけて、焼却灰は289万5000トン埋められています。大阪市は家庭から出るゴミは原則焼却して処理しているので、年間80万トンの焼却灰を、現在も、オリンピック選手村を予定している夢洲に埋めています。95年までに396万トン余りが夢洲にも投棄されています。ダイオキシンの埋まった「管理型」の部分をオリンピック施設が避けたとしても、その他のスペースは、TBTやPCBとダイオキシンに劣らない有害な環境ホルモンの巣の、大阪湾というより汚染が最も激しい大阪港内の浚渫土砂での埋立地です。
つまりシドニーなみの環境対策をとるならば、大阪オリンピックはメイン会場の舞洲、夢洲の埋め立てゴミをそっくり除去して、ゴミでない山土で埋め直さなければなりません。
シドニーは160ヘクタールですが、舞洲、夢洲はその4倍近い615ヘクタールもあります。シドニーは汚染土壌改良に118億円かけたそうですが、大阪では撤去するのは不可能で、そんなことをしたら兆のつく巨費が消えるでしょう。
この問題は、いくら大阪市が「環境は大丈夫です」と力説しても、決めるのはIOCやUNEP、そしてIOCの委員さんです。いま環境問題で大阪市長さんやお役人の”常識”は海外では”非常識”になっています。
自前のゴミで埋めた舞洲、夢洲をバブルがはじけて「テクノポート大阪」計画のハイテクタウン化の夢が破れ、それならオリンピックを・・・と、相変わらずのゼネコン開発型を志向した大阪市の前途は厳しいものになるでしょう。
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