フリマの行方 その4(2000.5.10)


 

 「フリマはナメられたら終わりである」そう胸に刻み込んだ私であった。段ボールからせっせと洋服達を出し、丁寧にディスプレイ。普段、オウチではやらないような丁寧さでもって、シャキシャキとシャツを畳んでいくのであった。「ナメられたらおわり」「ナメられたら終わり」「ナメられたら気持ちいいかも」などといっている間にディスプレイ完了。あとは値札をペタペタと貼るだけである。

 昨日用意した値札シールを貼って貼って、貼りまくる。どれもこれも100円から500円位のもので、ジャケットとかジーンズには1000円という、高値を付けてみた。いよいよ出店である。しかし先ほどのブルマ将軍、「スタートの号令がかかるまでは売らないでください」と叫んでおる。さらに「それ以前に売ったら、即、退場ですからねえ」ちょっと、穏やかではない。結局、準備完了から出店までの間、30分ほど待つはめになった。

 それにしても暑い。私の区画はちょっとした木陰になっており、まだ良かったのであるが、それでも背中に汗がにじむ。となりの人などはもう、首筋、真っ赤である。いや、よく見ると単にビールを呑んでいるだけであった。私にも少しください。心地よい風が、例のアンモニア臭を私の区画とは反対の方へと運んでいく。「何とかなりそうだ」そう思ったのもつかの間、私はここにきて初めて木陰の恐ろしさを知ることになる。心地よい風が吹く度に、上の方から木の葉だの、謎の実だのがパラパラ落ちてくるのである。パラパラア・・パラパラアきれいなディスプレイが台無しである。1分後、私の洋服達は「森の妖精いたずら仕立て」とでも名付けたくなる有様となった。泣きながら1つ1つ、払う。出店はまだだ。あと15分。

 ここで、刺客が登場した。30代半ばと思われる2人連れの女性が、私の商品達をジロジロと眺め回し、デニム生地のジャケットを手に取ると、黙ってそれを着用し始めた。「これ、私にぴったし。いいわあ。これ」「お兄ちゃんこれいくら?」出店の号令はまだである。まだ、売ってはいけないのである。売ってしまうと、私は退場になるのである。黒眼鏡と黒のスーツが似合う、身長2mの黒人男性2人に、囚われの宇宙人のように、ひょいと持ち上げられ、店の外に放り出される光景が私の頭をよぎった。いやなのである。勘弁して欲しいのである。「号令があるまでは売れませんので・・」「あ、そう。じゃあ、後で買うからこれ、とっといて?」「はあ、まあ」そう言うと、彼女たちはさっさとその場を立ち去った。このジャケット、メンズとはいえXS である。その後ろ姿は、どうやって着たんだろう?と首を傾げずにはいられないものであった。果たして、前ボタンは無事、留まるのであろうか?

 永遠に解決しないであろう謎に困惑しつつ、一服していると例のブルマ将軍、「予約販売もダメですからねえ、予約販売したら即、退場ですよう」ヤバいのである。今のは歴とした「予約販売」なのである。退場である。そういうことは早く言って欲しいのである。黒眼鏡と黒スーツが迫ってくるのである。勘弁して欲しいのである。既にして私は客にナメられているのである。フリマはナメられたら、おしまいなのである。


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