司馬先生論 〜 with 中川先生



せいむ  様



彼がガン患者にこだわるのも
死にきれない患者にこだわるのも
死にきれない患者の親族を思いやるのも
チューブによって生かされて苦しんでいる父親をみて
希望もなく宙ぶらりんな状態で過ごした過去から
きているんだと思います

でNRDの購入ですがこれも石川先生のためというより
全てのガン患者って言う気がしますし
お金にこだわるのも父親がいなくて苦労した
少年期にかかってくると思います
(学生時代苦労したろうし、医大の学費普通自力で稼ぐか?)
ありがちな意見ですが
このへんが実の父親からきた行動です

司馬先生は第2の父性である中川先生に裏切られて
歪んでいきますが
中川先生も苦労したと思うんですよ
手術ミスした司馬先生(したの中川先生だけど)
かばっていろいろ苦労しただろうし
有名とはいえ40そこそこのペーペーの助教授が
たかが20歳の医学生を守るためには
それこそ血を吐くようなことをしたのではないかと
奇麗事だけでは自分たちを守れない
それこそ汚れたこともしなければいけない
さらに手術を失敗して司馬先生は非難されている
でもそれは本当は自分に向けられるべき非難で
罪悪感も発生する
あっさり司馬先生を切り捨ててしまえたら良いのに
それをしないしできないのが中川先生。
その理由は罪悪感、負い目もそうだし
同じ天才である司馬先生の才能に共鳴したでしょうし
自分を無条件に慕っている司馬先生を
捨てることはできなかった

そしてそんなますます豹変していく中川先生を見て
司馬先生も苦悩すると
彼をこんな風に変えるために
かばったのではないのにという後悔もあるし。
彼をこれから守るためには自分も汚れたことを
しなければならない。いっそ彼がやったことだと告発できれば
全てが楽になるかもしれない。でもそうすれば
たかが医学生の、そして駆け出しの医者である自分の
将来もつぶされかねないし、やはり父性である中川先生を
見捨てることもできない。

こうなることをどこかでわかっていた
でも、僕が貴方の願いをかなえないわけが無い
貴方と墜ちるのなら
それはそれで構わないかと思っていた
でもここまで貴方を苦しめることになるとは思わなかった

僕は間違ってしまったんですか?

あのとき貴方を拒めば・・・・それでよかったんだろうか

病院に移ってからの司馬先生はある程度
非難を自分に集中させるために
あんな「いやな奴」を演じていた面もあると思うんです
司馬先生がいやな奴であればるほど
中川先生には目が向かないし

それに中川先生がオペできない分
司馬先生がオペできる。
27の若造が最前線でオペができて
その天才性を磨けるのは
ほかならぬ同じ天才の恩師が
落ちてしまったから
同じ天才であった中川先生の心境は
心苦しいものがあったかもしれません

いつしか二人とも演技ではじめた
汚れた自分によって自分が
歪められていったのでしょう
弱い白は何よりも染まりやすいから
二人で墜ちていく
それは一種麻薬のような快楽もあって

あなたさえいなければ
こんな風にはならなかった
あなたがいなけらば
こんな風にはなれなかった
今の自分はすべて貴方ゆえ
憎しみに震えるほど貴方を愛しています

二人の間は打算と愛情と憎しみとでどろどろにつながっていたんでしょう

中川先生は
自分を守るためにゆがんでいく司馬先生を見て
白から黒へ変わっていくのを見て
どうしようもなくって途方にくれたと思います。
もうこれ以上そんなふうになるなと歪まなくていいんだと
叱責するのは簡単だけど
そうすれば自身と中川先生のいままで歪んでまで
守ってきたもの(地位もそうだし関係も)が
壊れてしまうでしょうし
さらに歪みが進行した司馬先生がわからなくなるし
二人して深みにはまっていくのだけど離れられない

司馬先生としてはホントは歪んでいく自分を
お父さんである中川先生に
叱って(止めて)ほしかった
同時に叱れない事も司馬先生はわかっていたんでしょう
中川先生が今この歪みを強制すれば
お互いの全てを失ってしまうことになりますから

でも、それでも止めて欲しかった
叱ってほしかった
自分を見て欲しかった
全てを捨ててて
自分のためだけに叱ってほしかった

そうされても僕自身それを受け入れられないって
言うことはわかっているんです
貴方を守るために受け入れることはできませんから

それでも…

そして司馬先生は
ますますゆがんでいく・・・
ゆがんでいく自分を止めて欲しいけど
でも中川先生では受け止められない
生まれる欠如
でそっから(欠如)司馬先生の中で侵食が始まって
壊れていき、崩れていくのを止めて欲しいんだけど
さびてぼろぼろの鉄みたいだから相手が抱きしめると
抱きしめた相手が傷ついてしまう
だからだれもぎゅっと抱きしめられない
自分が傷つくから
司馬先生(さびた金属)ますますぼろぼろ(風化)になっていく
で司馬先生最後に諦める
だれも自分が風化して変わっていくのを止められない
自分が消えてしまうかもしれない
自分を見ようともしなくなるかもしれない
せめて自分のほうを見ていて欲しいから
覚えていて欲しいから
自分の崩れたカケラで中川先生をを傷つける
「僕が守ってあげます(いやがらせばーじょん)」
「やめるときはあなたも一緒だ」
で、最後に風化が進んで何もなくなって、中川先生に記憶だけ残して
「死ぬまで黙っています」
っていなくなってしまったのだと思います。

崩れゆく
先のほうから
止めて欲しい
手を伸ばし、すがってみる
でも崩れた体は凶器になっていて
傷つけることしか出来ない

崩れたからだ
崩れた言葉
崩れた心

このままカケラになってとびちっていくのか
きえてしまうのか

せめて僕がいた証を
あなたにつける傷で





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こちらも、無理矢理もぎとった…いえいえ、いただいた中司馬レポートです。
もともとは中川先生と司馬先生の擬似親子関係について、せいむさんとメルでやり取りしていたのが始まりでした。私のどっか頼りない意見に、鋭く深い洞察力をもって何度も返事をいただき、そして毎回、毎回、目から鱗が落ちるような、的確かつ美しい文章表現で、堕ちていくしかなかった二人の悲しい関係を綴ってくださっていたので、「お願い、中司馬レポート、書いて〜」と…(笑)
中川×司馬というのは、シチュエーションとしては考えやすいんですが、実際にはかなり奥深く、葛藤や牽制やその他の複雑な感情が絡み合っていると思われます。私はその辺りを上手く言い表す言葉が見つからなくて苛々していたんですが、せいむさんの文章を読んで、「そうそう、こーいうことなんだよねぇ」と納得がいきました。
ご本人は「メルに書いた内容をまとめただけ」などとおっしゃってますが、それでこの素晴らしい美文になるんですからねぇ…この勢いで、是非、中司馬書いてほしい……


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