←↑→ 基礎知識(1)性って何だろう

■■■性って何だろう
ひとくちに「性(sex)」といっても私たちはいろいろな事を言っています。

まずは男性(男の子)か女性(女の子)かという「性別(gender)」があります。
それから性的な興奮を得るためにする「性行為(lovemaking)」があります。
そして私たちが生物として子供を作るための「生殖(reproduction)」があります。

学校の「性教育」は保守的な人たちの抵抗が強く、しばしば「生殖」の説明だけになってしまいがちです。しかし思春期の人がいちばん強い関心を持つのは「性行為」です。そしてしばしばそういう問題に関する知識不足から悲劇的なことが起きたりしていることに、私は心を痛めています。

この小さな文章は特にそういう世代の人たちのために、そして特に、自分の性別に違和感を持っていたり、性的なコンプレックスを持っている人たちのために、できるだけ正確な知識を伝えるために書いたものです。

■■■男と女の違い
さて性といえばまずは性別なのですが、男性(男の子)と女性(女の子)は何が違うのでしょうか?

髪が長くてスカートを履いてたら女性、髪が短くてズボンを履いてたら男性。

とっても大雑把な見方ですが、これは案外一番正解に近い答えかも知れません。

実際に、私たちが人に会った時に相手が男か女か判断している時の基準はいくつかあります。

  背の高さ・歩き方の雰囲気・髪の長さや髪型・
  ズボンを履いてるかスカートを履いてるか・
  服装のタイプ・顔の雰囲気
  バストが膨らんでいるかどうか
  お化粧をしているかどうか

実際には男の子であっても、身長が160cm代で髪が長く、ショートパンツなどを履いて内股ぎみに歩いていたら、まず女の子と間違われます。逆に実際には女の子であっても、身長が180cmほどあって髪も短くしていて、ジーパンにTシャツで大股で歩いていたら、まず男の子と間違われます。

このように、社会生活上私たちが感じている「性別」もありますが、性の区別には、もう少し原始的なものもあります。

赤ちゃんが生まれた時、その子が男の子か女の子かを判定するのにはたいていお股の所(陰部)に、陰茎(ちんちん)があるかそれとも陰裂(割れ目)になっているかどうかで判定されています。

陰茎(ちんちん)が付いてるかどうか。これはひじょうに象徴的に、男の子と女の子を区別するものです。

では、男の子から陰茎(ちんちん)を取ってしまったら女の子になるでしょうか?

答えはノーです。

男の子女の子
外から
見えない
性器
精嚢
前立腺
卵巣
子宮

陰核
外から
見える
性器
陰茎
陰嚢
陰唇
女の子の性器は実は大半がからだの中に埋もれているのです。しかし男の子の性器は半分くらいが外に出ています。なぜそうなっているかは「性交」のためにそうなっていることが必要だからなのですが、それについては、もう少し後で詳しく説明します。

ですから、男の子から例えばハサミでチョキンと陰茎(ちんちん)を切り取ってしまったとしても、それで女の子になる訳ではありません。男の子でも女の子でもない状態になってしまうだけです。ただし「性転換手術」の話はまた別途、後で説明します。

■■■性別の基準
現在、性別を考える場合、次のような基準が整理されています。これらの基準全てで完全に「男」あるいは完全に「女」になる人は必ずしも多くはなく、実際にはかなりの人が自分の中に性別の矛盾を抱えていたり、どれかの基準自体が曖昧あるいは微妙だったりするものなのです。

 男性女性
染色体の性XYXX
性器の性睾丸・陰茎・精嚢・前立腺卵巣・陰核・子宮・膣
股間の形状陰茎・陰嚢陰唇・陰核
ホルモン男性ホルモンが多い女性ホルモンが多い
二次性徴喉仏が出て肩が張り、ヒゲがあって体毛が濃い乳房が発達しなで肩、ウェストがくぼみ体毛は薄い
心理的な性自分が男と思っている自分が女と思っている
恋愛志向女性が好き男性が好き
社会的な性男性的な服装をして男性として生活している女性的な服装をして女性として生活している
戸籍上の性男性として記載されている女性として記載されている

ここで少し紛らわしい言葉を整理しておきましょう。

半陰陽(intersex)
染色体の性・性器の性・股間の形状・二次性徴などの基準の間に相違があったり、あるいはそれ自体が曖昧な例をいいます。

もっとも多いのが、染色体や性器はほぼ男性であるのに股間の形状が女性型の人で、男性型半陰陽といいます。多くの場合は本人も周囲も気づかずに女性とばかり思って成長し、そのまま女性として結婚して一生を送ってしまうといわれています。ただし性器が男性なので子供は産めません。

同性愛(homosexual)
心理的な性が男性で恋愛の対象も男性、または心理的な性が女性で恋愛の対象も女性、というケースを同性愛といいます。この場合、性器の性や股間の形状は問題にしません。逆に心理的な性が男性で恋愛の対象が女性、心理的な性が女性で恋愛の対象が男性の場合は異性愛(heterosexual)といいます。

同性愛は別に悪いことではなく、単なる本人の嗜好であるとして、寛容に見られるのが日本などの伝統ですが、国によっては犯罪とみなしているような所もあるようです。逆に同性同士の結婚まで認めている国もあります。

恋愛対象が男性または女性に固定されず、男性でも女性でも好きになる人は両性愛(bisexual,バイセクシュアル)といいます。実際には、純粋な同性愛という人よりも、両性愛の人のほうが多いともいわれています。また純粋に異性しか好きにならないという人はかえって両性愛の人より少ないのではないかとも言われます。

性同一性障害(Gender Identification Disorder)
略してGIDといいます。性器や股間形状の性と心理的な性とが一致していない或いは違和感を持っている状態です。

性器の性が男性で心理的な性が女性の場合をMTF−TS(Male to Female Transsexual), 性器の性が女性で心理的な性が男性の場合をFTM−TS(Female to Male Transsexual)といいます。心理的な性は社会的な性に反映しやすいので、例えば男の子に生まれたものの自分は女ではないかと思っている人はどこかの時点で普段から女性の格好をするようになり、やがては女性ホルモンを飲んだり、豊胸手術で乳房を大きくしたり、睾丸を除去したりして、どんどん肉体も女性に改造していく傾向があります。更にはいわゆる「性転換手術」まで受ける人もあります。そこでそういう傾向を称して Transsexual (性の移行)と呼ぶ訳です。Transsexual は普通は「性転換」と訳されますが「転換」というのは少し訳しすぎかも知れません。

なお、この場合、恋愛対象とこれらの性別基準はあまり関係が無く、心理的な性が女性だからといって恋愛対象が男性とは限りません。少し整理するとこうなります。

性器の性心理的性恋愛対象
普通の男性同性愛
普通の男性
普通のMTF
MTFで女性同性愛
FTMで男性同性愛
普通のFTM
普通の女性
普通の女性同性愛

性転換手術は日本では昭和20年代から行われるようになりましたが昭和40年代に手術をした医師が刑事告発される事件があって以来長くタブー視されていました。しかし近年、埼玉医科大・岡山大学・札幌医大などが手術を再開しています。ただし現在この程度の窓口では手術の希望者の数にとても追いついていないのが現状で、現在日本で性転換手術を希望する人のほとんどはタイで受けています。

なお性転換手術を受けても戸籍上の性別が変更できず、ひじょうに困っている人が多かったのですがようやく2004年7月16日以降、かなり厳しい条件の下でですが、戸籍上の性別の変更が可能になりました。

なお性転換手術に関しては後でもう少し詳しく述べます。



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