短い間しか生きていれない分、一生懸命のせみの鳴き声。

大きな大きな雲。真っ青な空。

長い長い、竹林の細道。

太陽は、誰と限らずじりじりと照りつける。

 

小さな手を、お互いに離れない様に強くつないで、何一つしゃべるわけでもなく。

ただひたすらまっすぐ前を見て、薄いビーチサンダルで歩いて行く。

アスファルトも本当に焼けるような熱さで、ミミズが干からびて死んでいた。






竹林をぬけると



そこには、






空よりも深い、青。














夏の日の誓い。
















暑苦しくて、ゆっくりと目を覚ます。
かったるく真横にあった目覚ましを見ると、昼を指していた。

ふと。
さっきまで見ていた夢を思い出す。
確かあれは、子供の頃の……。

途中で、思い出すのを止めた。

あんまり、良い思い出ではないのだ。自分にとっては。




のそのそと台所まで行くと、庵が立っていた。

「やっと起きたのか?夏休みだからって、だらけ過ぎだぞ」
たまに、おふくろみたいなこと言うよな。まあ、庵ってしっかりしてるからしょうがないんだけど。

……しっかりしていると言うとこで、さっきの夢を思い出してちょっと嫌な気分になった。

「かき氷でも食うか?暑いだろう」
「あぁ…うん」

そう言って、かき氷を作る用意をしてくれる。手動のかき氷器。
これを買えば、いつでも好きなときにかき氷が食えると、俺が無理矢理頼んで庵に買わせたものだ。

こうやって、一つ一つ、ゆっくりで良いから、新しい思い出を作っていきたい。

らしくもなく、こんなクサイこと平気で考えてる俺にちょっとだけ自己嫌悪。
でけど、これは庵限定。




しゃくしゃくとかき氷をひっかきまわして、食べながら、庵を盗み見る。
さっきまで俺が寝てたベッドのシーツを整えている。
庵……奥さんみてぇ……。

「いおりィ、今日、ヒマだったよな?」
「用事はないな」




「海、いかねぇ?」











ガキの頃のある夏、庵が俺と二人で海に行ってみたいと言った。

庵から、何かしたいと言われるのは、その時が初めてで、かなりびっくりしたけど、
それと同じくらい、かなり嬉しかった。

俺は草薙家主用の家に、夏は泊まりに来ていた。いわゆる別荘みたいなもんだったと思う。
庵も似たようなもんらしくて、よく遊んでいた。

夏が終われば、また自分たちの家に帰っていく。
庵はどうなのか知らなかったけど、俺はその別れる時がたまらなく嫌だった。

もっと遊んでいたいと思った。
もっと一緒にいたいと思った。

泣き喚いて、駄々をこねていると、親父が「男のくせに情けないやつじゃのー」と、笑った。
庵はちょっとだけ困った顔で微笑んで、必ず、こう言ってくれた。


『また……来年会えるから』


その夏の日、海で散々遊んで、暗くなって、帰ろうと言うときに、俺は興奮を押さえきれずに、
いつもの様に庵に言った。

『楽しかったねっ!たまには俺達だけで遊びに来るのもいいよな。また遊ぼうね!』

当然、肯定してくれると思ってた。海に誘ってくれたくらいだから。
でも庵は。いつもなら、ちょっと苦笑して、すぐにいいよっていってくれてた庵が。
今までに庵がした事の無いようなすごくすごく悲しい笑顔で言った。


『京ちゃん…。もう…あえないんだ…』
『え?』
『もう…大人になるまでは…』

そう言って庵は夕日の赤に染まった海岸を駆け出した。
一人、海岸に残された俺は、わけがわからずに、呆然としていたけど、
すぐに庵を追いかけた。

走っているうちにすっかり暗くなってしまった道は怖かったけど、そんなことより、もう会えなくなるということの方がずっと怖かった。
いくら走っても、庵には追いつけず、庵の家にまで来てしまった。
飛びつく様にドアに貼りつき、どんどんとドアを叩く。

『いおりっ!?いるんだろ?!もう会えないってどう言うことだよっ!!』

泣きそうになるのを必死に押さえながら、何回も庵を呼ぶ。
しばらくして、誰かが玄関に出てくる。庵かと思って、顔を明るくしたけど、出てきたのは庵の父親だった。

『お…おじさん…庵くんは…?』
『京くん…庵はもう、君にはあえない。この夏から、オロチを迎える準備をしなければならない。
遊んでいる暇は無いんだ…』
『…!?………!?』

何がなんだか、当時の俺にはわからなかった。親父にまだ何も聞かされてなかったんだ。
ただ、庵の父親にまでそう言うふうに言われて、いよいよ庵に会えないってことが本当だと分かってくると、
今まで押さえていた涙が零れ落ちてくる。

『オロチって何だよっ!?そんなのしらないっ!!庵に会えなくなるなんていやだっ!!
いおりっ!いおりーーっ!!』
玄関先で泣き喚かれて、庵の父親は少しあきれたような顔をして、ため息をした。
『君は、紫舟から何も聞いていないのか?…なら、1度家に帰って、話を聞いてくるといい。』
そう言うとドアをそっけなく閉めてしまった。
庵の母親は優しかったけど、父親の方はいつも少し冷たかった。
今思うと、父親の方は、草薙と八神が子供といえども、仲良くしているのを快く思ってなかったんだろう。

閉められてしまったので、納得はいかなかったけど、とりあえず、家に帰ることにした。
胸のうちに、確かな怒りを抱いて。

家に帰るとおふくろが困った顔で出迎えてくれた。
『京…こんなに遅くなるまで、海にいたのですか?』
『ゴメン…母さん…親父いる?』
『ええ、いますよ……。……京?どうかしたの?』
『うん……』

心配そうに聞いてくるおふくろをおいて、親父の部屋へ行く。
障子を開けると確かに親父がいた。障子を開ける前から、俺の方を真剣な顔で見ていた。

『どうした?』
『親父……オロチってなんだ…?』
『……!』
『それのせいで、庵と会えないって言われた。紫舟に話を聞けって…。なあ…教えてくれよ…!』
『そうか…八神のこせがれ、もうそんな年か…』
一人、分かったような言い方をする親父に、少しおさまっていた怒りが再び湧き上がった。

『親父!』
『分かった、分かった。・・・・・・しかし、今のおまえにはなしても、ほとんど理解できまい』
『なっ…!いいから教えてくれよ!!オロチってののことじゃなくても、庵に会える方法でもいいから!!』
『会える方法……そうじゃのう…強く…なることかの…』

『…え?…なん…で?』
『そうすれば、いずれ会えるときが必ず来る。いいか、良く聞け、京。八神のこせがれは、これから
今のお前の何倍も苦しい思いをすることになるじゃろう…。
救いたければ…強くなれ…京!』


それが親父の言った返事だった。
真剣な親父の顔に、俺は、誰よりも強くなる決心をした。
庵にまた会うことを思って。庵を救うことを思って。

しかし、いつのまにか、強くなって行くにつれて、強くなる理由を忘れていった。
格闘しているときは満たされるけど、終わった後に残る、物足りなさ。


時はめぐって、
2度目のKOF。

そこに現れた一つの名前。


『八神庵』


名前を見たときは正直、まだ思い出せていなかった。
でも、向かって顔を見たときとき、すべて思い出した。
自分が強くなろうと思った理由も、夏の日の何も知らなかった自分も、そのときの悔しさも。

『貴様、草薙京だな…』

綺麗な顔に浮かぶ、不敵な表情。
舞う様に戦うその姿。自分のものと相反する炎の色。
紅い紅い、髪の色。

感じていた物足りなさも、何かが引っかかったような気持ちも、すべて消えた。




そして、オロチとの戦い。

最後。庵がオロチを掴んで、

俺に振り向いて


微笑んだ。


そのとき、庵はあの夏の日、こうなることが全部分かってたんじゃないかと思った。
だからあのとき、最後の子供の綺麗な思い出として、自分を海に誘ってくれたんじゃないかと。











あのときとさして変わらない暑い海岸。

俺達は昼飯を終えた後、バイクででこの海までやってきた。
錆びるかなーと、心配しながら、バイクを海岸に止めて、庵を見た。
すると、なんでか、庵は不機嫌な顔をしていた。

「どした?庵」
「こんな遠くまで来るとは思わなかった」
「んー?まーいーじゃん?たまには。それに京サマと庵ちゃんの恋物語が始まった、だーいじな思い出の場所なんだから」
「始まっとらん、最初から」

二人で、海岸を見渡す。
俺が砂浜に腰を下ろすと、庵もその隣に座りこんだ。

「覚えていたのか…おまえのことだから、子供のころのことなんて、忘れていると思っていたが…」
「忘れねぇよ…。すげぇ悔しかったもん」
庵も、覚えていてくれたんだと、内心嬉しく思いながら返事を返す。

「何を悔しがる必要がある?」
「お前は一人でオロチのこと考えてたんだろ?俺はなんにも知らないで、なんにもできなかったからさ…」
「言ってなかったんだから、知らなかったのは当たり前だろう」
「……え?何?励ましてくれてんの?いおりんってば

「ば…っ!バカかっ!!しねっ!!」

そう言って庵は俺にすなをぶっかけた。
「ぶわっ…!ぺっぺっ!!な、なにすんだよ、てめぇ!!」
「自業自得だ!調子に乗るな!!」
「…んだとぉ…?」

俺はにやっと笑って、立ちあがり、庵をお姫様抱っこした。
「なっ!!何をする気だっ!!はなせっ!!」
「へっへ〜
こうする気だよ〜っと!!おりゃあ!!」
「どわぁ!!」
すたすた歩いて行って、庵を海に投げ飛ばす。
庵はどうすることもできずに、海に投げ出された。起き上がって、すっかり濡れた髪をかきあげる。

「きっさま〜…どうする気だ!?着替えなんて持ってきていないぞ!?お前も濡れろ!!」
「わぁ!!」
今度は俺が足を掴まれて、海に倒れこむ。
「おっ、俺だって、着替えなんて持ってきてねーよ!!」
「貴様が最初にやったんだろうが!!」

「……」
「…」
「……クッ」
「…く…っははっ」
しばらくにらみ合って、次第に笑い出す。
こんなことをしたのも、あのとき以来だって、庵は知ってるのかな?


結局、ビショビショに濡れて、服のまま、海で遊んだ。
だんだん日が暮れて、海に入ったまま、夕日を見たりする。

「もう悔しい思いはしないから」
夕陽を見たまま、庵に言った。
「お前は俺が…」
「守る…とか言うなよ?」
言おうとしたことを先に言われて、急に恥ずかしくなった。

「お前が俺ばかりを守る必要などない。そうしたら、今度は俺が悔しい思いをするだろう。そんなのはゴメンだ」
「…それって、どういう意味でとれば良いわけ?」
庵の言おうとしてることが、なんとなくだけど分かって、ニヤニヤしてしまう。
「別に…。深い意味などない」
そう言って、庵はすたすたと海から上がってしまった。

きっと顔が赤くなってるんだろうな、なんて、想像して、ますます顔が緩む。
「…っ!ニヤニヤするなっ!帰るぞ!!」
「・・くくっ・・」
「笑うな!!」











きっともう、強くなるための理由を忘れたりしない。

そうして、再び強く思う。


夏の日の誓い。











END

 

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しらす:…。……。どうしましょう、これ。一応、これがうちの全体的なストーリー??
文才がないから、わけ分からなくなったけど。とりあえず、甘いですね。例に漏れず。
京と庵の場合、どっちかが一方的に片方を守るなんて、嫌ですもんねぇ。