2人でいるなら大丈夫


ある夜、突然の珍しい客の来宅に驚いた。
めったに自分から俺のところに来ることのないその客は、
出てきた俺を見てにっこりと微笑んだ。

「京・・・どうした?」
「よ、紅丸。遅くにわりィな。ちょっと・・・言うことあっただけだから」
「なんだよ、改まって」

すると京は言う直前、少しだけ俯き、そして顔を上げ、満面の笑顔でこう言った。

    「さよなら」

あいつのあんな顔を見たのはそれが初めてだった。

・・・・夜は明け、雲一つない晴天。
朝早いので人一人いなかった。

真っ青な空の下には同じく青い海。

誰もが綺麗と感じるであろうこの海の浜辺に2人の青年が立っていた。
近くには単車が倒れており、これでここまで来た事が分かる。

「・・・貴様の彼女には告げてきたのか?」
「ユキのこと?・・・言ってねぇよ。大体もう彼女じゃねえっての」

少し笑って断言すると、庵もまた少し微笑んだ。

「安心した?」
「・・・バカか・・・」

どちらからともなくキスをする。ちょっとして唇を離すとお互いを見つめた。

「言ったのは・・・紅丸くらいだぜ・・・あ、真吾にも言ったっけか?
もうなんにも教えてやれねえからなって。ユキには・・・わざと言わなかった。
・・・庵は?」
「バンド仲間の一人くらいだ。あまり言いたくもなかったしな」
「そか・・・」

ふと京が真剣な顔になって庵の両手を握った。ずいっと顔を寄せる。

「な・・・後悔してねぇ?まだ間に合うぜ?」

「今更・・・本当にバカだな貴様は・・・」

にっこりと庵が微笑み、今度は自分から口付けた。
庵の珍しい行動に京が驚いた顔をすると、庵の笑みはますます深くなった。

「好きだ・・・京・・・」

微塵も感じられない後悔の色。京は安心し、強く強く庵の手を握った。
いつもしていたバンダナを自分たちの手に巻きつけて、けしてこの手と手が離れない様に
きつく縛って。

そして庵専用の特別な笑顔で。

「俺も・・・大好き」

目を合わせ、海に向かって歩き出す。

海から生まれた命がまた海へ戻るように。

「じゃあ・・・行こっか・・・・庵☆」

誰かが言った。

心中しても来世で結ばれることはけしてない、と。

むしろそれは与えられた命を自分から投げ出す重い罪。

来世で再び恋に落ちてもまた同じ結果になるだけなのだ、と。

それでも良かった。

大事なのは今一瞬。

遠く離れた場所で別々に命を手放すなんてまっぴらだから。

命を失う最後の時だって一緒にいたいから。

深い海の中にも太陽の光がさしこむ。

冷たい水は呼吸を許さず、体温を奪っていくけど。

それでも目の前に君がいるから笑って死ねる。

そして2人はもう一度微笑み、口付けた。

END

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しらす:死にネタかい!!そんなに好きか?私・・・。(書くのはネ!!)
いや、どっちかが死んじゃうのは辛いですけど。一緒ならオッケーかなー?と。
死に逃げるようなキャラじゃないっすけどね、京様は☆

 

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