
小説コーナー初のファンタジー作品「ファイナル・ゲート」です!
どんな冒険が繰り広げられるのか、楽しみですね!
星蒼矢さんの作品です。
ファイナル・ゲート(1)
抜けるように蒼い空。春の風がそよそよと周囲の木々を揺らしていく。
ここは王都から馬車で半日ほど離れた小さな山村。ユニス。村の北にはユニス山を抱え、村はその樹海の入り口にひっそりと栄えていた。樹海には一つの湖があり、ユニスの山から流れ出る清流が集っては、水の妖精達が乱舞を繰り広げている。
時折、西の海を隔ててはるばると異国から商船がやってくる。しかし、この田舎町に立ち寄る商船など、数えるほどもない。
「ウォート!」
そのユニスの樹海の片隅のほんの小さな一角で少女の張りのある越えが響いた。やや小柄で華奢な感じのする彼女であったが、突き出された彼女の腕は見た目よりもしっかりしていた。その少女ティラの手のひらからさほど大きくはない水の塊がライブの元へ跳んだ。
射撃の反射でこの当たりでは比較的珍しい黒髪のポニーテールが僅かになびいた。
「く!」
ライブはそれを半身を切って避けるとそのままティラの元へ直進した。中肉中背のその少年はたくましいとまではいかなくとも、大地を蹴る足はしっかりしている。
ライブの後ろでは避けられた水の塊がそれまでライブが潜んでいた木にぶつかって砕けた。それはキラキラと輝きながら緑の木漏れ日なかを躍ってはその辺りに降り注いでいるようである。
しかし、ライブはそんなことにはおかまいなしに、ざっくりとした自分のローブを翻らせてティラの懐へと持っている杖を逆袈裟に振り上げた。だが、その攻撃も当たりははしない。
そこで空振りをきしたライブはもんどり打ってその場に倒れた。一方ティラはというと彼の攻撃に気おされて後ろに下がった、その足元に運悪く石ころが転がっていた。それを踏みつけて尻餅をついていたのである。それきり二人は動かなくなった。
「ふふ」
思わず二人から笑い声が漏れた。二人はその場に仰向けに寝そべったまま木々の隙間から見える抜けるような蒼天を眺めた。そこに雲が流れて行く。今日は風の精霊達もご機嫌らしい。気持ちの良い風が汗に濡れた身体をなでては冷やしてくれる。何かが起こりそうな、そんな感じがした。
「けど、ティラ、ひどいぜ。剣士のくせに魔法使うなんてさ」
ライブはついさっきまでの「模擬戦闘」を思い出していった。ライブが言ったのは彼女が放った水の魔法ウォートのことだ。
「そういうライブだって、魔法使いなんだから杖で攻撃しないで魔法使えばいいのに」
二人はいわゆる幼馴染だった。
この村には二人の老体がいた。一人はユニスの森の西に住み、国中でも随一とまで言われる魔法使いである。そして、今一人は森の東に住む剣の達人だった。二人は今こそ、こうしてこんな村に隠居しているがかつては世界をまたにかけて冒険した仲間だったと言う話もある。
もっとも、村の長老ですら歯が立たない彼らを村人はたんに偏屈な年寄だとだけ思っていた。ある日、この村を襲った魔物を彼らがたちどころに退治してしまうまでは。とはいえ、その様子を語れる人間ももはや大分老けてきているのだから、今や彼らの真の実力を知るものはライブとティラだけと言っても過言ではない。
というのも、今から十三年前、森の西のすみで魔道師フズに拾われて、育てられたのがライブであり、ちょうど時を同じくして森の東で剣士リダに拾われて育ったのがティラだったのである。
「でもな、やっぱ男なら剣士に憧れるよ」
ライブは雲がフズの顔に見えてきたのを頭の中で吹き消すと呟いた。そういうわけで、彼は彼なりに剣術の勉強をしていたのである。勿論、独学ではあって兵というわけではないが、この村で彼の剣の腕は引けをとるものではなかった。
「やっぱり、変わりたいわね」
その反面でティラは村のお転婆娘であったかたわら密かに魔法の練習もしていた。そして、少なくともこうして模擬戦闘で使えるくらいには上達していたのである。
不意にライブは立ちあがった。何かを感じたからだ。彼は立ちあがると空を見つめた。
「どうしたの?」
ティラが尋ねた。
「来て!」
ライブは駆け出した。森の生い茂った木々の葉が彼の視界をさえぎっていたからだ。彼は空が見たかった。単に勘が良かったのか、彼の魔術師としての才がそれを感じ取ったのか、それはさ定かではないが、とにかく彼は何かを感じていた。
ティラはというと何がなんだかさっぱりわからない。ライブの後を追って走りながらいつもと変わらない森と僅かに覗かせる空とを盗み見ていたが、特に変わったところは観うけられなかった。
彼は少し離れた場所にある開けた丘の上に立つと振り向いて村の方に目を向けた。昼に近く、太陽は彼らを真上から照らしている。
「来た…」
ライブが呟くのにティラは眼を凝らした。少し、胸がどきどきする。
「あ!」
思わず彼女は呟いた。今、何かが光った。よく見るとそれはだんだんと大きくなって、こっちに向かっている。
「流れ星…」
のはずが無かった。今は昼間だ。それはミルミル間に大きくなって、蒼い閃光を伴うと村に落ちた。ここからでも大きな土煙が上がるのがわかる。
「行こう!ライブ」
ティルが半ば喜喜として叫んだ。そして、すでに駆け出していた。
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2000.01.14

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