日向梨緒さんにお願いして書いていただきました。
妖刀『椿』をめぐって大波乱が起きそうな予感です。
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   緋色の龍

第二章 二人旅(1)

       *                       *

 夜明け前までには、次の町に着いていた。シエラの歩くスピードはけっこう速い。チェリアは負けずに追いかけたが、息切れがしていた。体力には自信があるのだが、徹夜で歩いていては身が持たない。
 が、シエラはここでも休む気はないらしい。朝食を食べて、弁当を買って歩き出した。それをチェリアが尾行する。
 家や木の影からじーっと観察。おもいっきり怪しい。
「−チェリア、ちょっといい?」
 見兼ねたシエラが、立ち止まって手招きした。ここで休憩するつもりらしい。
「何?」
「きみのことも教えてくれないか? いや、『椿』の目的とかじゃなくて。きみが俺のことを知っているのに、俺がきみのことを知らないなんてフェアじゃない」
 木陰を選んで、座り込む。
 チェリアは隣。
「いいわ。あたしは、純粋に十六。小さいときから父や兄に剣術を習って、一応シドーの免許皆伝の腕。と、いってもザークに比べたら大したことじゃないけど」
 ちらりとシエラを見た。
 皮肉よ、これ。わかる?
「それで?」
 気づかない振りで、続きを促す。
「生まれたときから不思議な力があって、村の長老に『供養者』としても教えを受けていたの。それで長老が亡くなって、両親とも喧嘩して村を飛び出してきたのよ。武者修行にもちょうどよかったし」
 水筒の水を、ぐいと飲み干す。
「旅の恐怖なんて気にしなかった」
 キラリと腕の輪が光った。
「で、ある町で『椿』を知ったの。それからよ、それ、探し始めたの」
「なるほどね。に、しても武者修行? シドーって、強いんだろ?」
「昔の話。そりゃあ、傭兵部隊として活躍してたけど、今はただの百姓よ。戦の無い平和な時世じゃ、腕も衰える。悪いけど、もうダメね。おかしなプライドの塊だけしか残っていない。名前なんて、あって無いようなものよ」
「どこも同じだよ。そんなに長く人間の栄華は続かない。それに」
 不意にシエラの瞳が細くなる。ただならぬ気配に、チェリアも神経を尖らせた。
「魔族も」
 言うが早いか、腰の短刀が宙を舞う。
 トスッ。
 何かに刺さる音。
「体質のおかげで寄せつけるんだ」
 トカゲのような獣が倒れていた。短刀が刺さっているが、血は出ていない。緑色の体液が広がっていた。手足が痙攣している。
「これからこーゆーのが多くなるけど平気?」
「平気も何も、特別な存在じゃないでしょ? 隣にいるのが当たり前のような存在に、いまさら怯えていたってしょうがないでしょう? あたし、それなりに『力』はあるのよ、『供養者』だから」
 魔族に怯えていたら、ここまで旅はできなかった。
 本当は、魔族に家族を殺されたの。
 あたしがちょっと村を出ている間に。
 病気になっていた父と兄を、村人は差し出したのよ。
 あたしは−あたしだけが運良く助かったのよ。だから、噂に名高い破魔の剣『椿』を 求めているの。『椿』なら、アイツを倒せるはずだから。
 でも、『供養者』はホント。
「これ、あたしの愛刀」
 チェリアの腰の剣。『椿』よりも細身で、女性にはうってつけのもの。鞘から抜いたときに、淡い桃色の光が滴る名刀だ。
「破魔の剣『桜』よ。これで、いろんなの切ってきたから。それに、邪気まみれの剣を『供養』してきた」
 『椿』を見つけるまでは、これだけが頼り。
 家宝として飾っていた『桜』を持ち出してきた。これではアイツに勝てないとわかっていたから。『椿』でなければ勝てないのだと。
「なるほどね。いい剣」
「『椿』には負けるわ。世界中でたった一本の究極の剣だもの」
「でも、人それぞれ相性のいい剣ってあるじゃない? 『椿』そのものは最高の剣かもしれないけれど、きみにとって…最高とは限らないんじゃない? 俺は『桜』の方があってると思うけどな」
「無駄よ。そうやってあたしに諦めさせようとしたって」
「あっそ」
 じゃ、いこうか。目的地まで、あと二週間くらい歩けばつくだろうから。
「ちょっと待ってよ、ねえ」
 振り向かないまま、そのまま進む。
 あわてて追いかけて。
「チェリア」
 立ち止まったらと思ったら、急に真面目になって。
「な、なに?」
「そういえば、名前で呼んでくれ ないけど、俺の名前忘れた?」
 下からのぞき込まれて、そこで初めてシエラの顔を直視する。
 なんだかあたし、顔、赤い。
「シ、シエラ」
「はぁい、よくできました。そんなきみにご褒美」
 ポンッ。
 チェリアの手には小さな花束。
「な、なんなの〜」
 呆然としていたので、シエラが行ってしまったことなど気づかない。
(けっこうイイ男じゃない)
 百歳以上も離れてるけど。

        *                       *

 −ねえ、北って言ったけどどの辺り?
 −北の塔。
 −マジで?
 −大マジ。
 −だって、あそこって世界の。
 −だから行くの。
 −でも。でも、でも、でも。
 −いーから、子供はお休み。
 −そうやってすぐに子供扱いする〜。
 −だって十六だろ?
 −シエラだって十八にしか見えないじゃん。
 −百五十。
 −絶対ウソ。
 −はいはい、お休み。チェリア。

 

 



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2000.04.23


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