日向梨緒さんにお願いして書いていただきました。
妖刀『椿』をめぐって大波乱が起きそうな予感です。
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   緋色の龍

第二章 二人旅(3)

  *                       *

「いいよ、チェリア」
 自然なタイミングだったので、一瞬、夢かと思った。
「……あ……」
「どう?」
「うん、イイ感じ」
 腰の『桜』が暖かい。
 胸の奥も暖かい。
「イメージを重ねることも大切だし、お互いを尊重するのも大切。剣だって生きてるんだから」
「そうね。大事なことを忘れていたわ。ね、『椿』みせて」
「ほえ?」
「見てみたい。どんな子なのか。盗らないから」
「いいけど、子じゃないと思うよ」
「じゃあ、おばちゃん?」
「あー、あの、女でもないんだけど」
「男?」
「うん。俺と同い年」
 ってことは百五十のよぼよぼじいさん?
 いやよ、そんなの許せない。『椿』はカッコイイ人がいいのに。
「あ、でも見た目は若いよ、かなり」
「どのくらい?」
「俺と一緒」
 意外にも簡単に鞘から抜く。
 すると、緋の髪の人間が現れた。そう、剣の刃の上に。立体映像のように。向こうが透けてみえる。
「この人? …寝てるけど」
 寝てるけど、伝わってくる強力な力。引き摺り込まれそうな魅力。『椿』に魅了されて命を落とした人間の気持ちが、わかるかもしれない。
「そ、この人。ただ今休息中。起こさないであげて。まだその時じゃないから」
「わかったわ」
 そっと鞘におさめる。
 スッと消えた。
「……妖刀のわりには、なんだか拍子抜けしちゃう。『負』の気がなんにも感じられないんだもん。ほんとうに妖刀なの?」
「ま、そー思うだろうねえ。一応、妖刀の部類だけど、たぶんきみの知ってる妖刀とは違うよ。特別」
「…そうね、『椿』だから」
 気高い剣だから。

        *                       *

 抜いたが最後。
 持ち主は憑かれたように殺めていく。
 人も。魔族も。
 これまで何人の血を吸ってきたのだろう。
 何匹の魔族を喰らってきたのだろう。
 それでも気品は失われることはない。
 『椿』の名前はいっそう世に広まる。

        *                       *

「でぇも、信じられない。優しそうなお兄さんだった」
「うん、優しいよ」
「知ってるの?」
「古くからの知り合いって言ったじゃん」
「パートナー、でしょ?」
「うん」
 野宿の続き。
「本当につきあいは長いんだ。俺の人生と同じくらい」
「百五十年って、あたしには検討もつかない。だってあたしの十倍だもん。ここまででも長かったのに、気の遠くなるような時間」
「俺も実際信じられない。半分くらいは眠っていたからね。でも、長生きすると、いろんなことが見えてくる」
 トスッ。一匹目。
「後悔してるの?」
 ザクッ。二匹目。
「魔導剣士になったこと?」
「ううん。そうやって長生きしていること」
「いいや、全然。むしろ光栄だよ」
 ゴウッ。三匹目。
「ねえ、時間魔法で長生きしてるんでしょ?」
「うん。魔導剣士になる条件ってのが、自分の寿命の調節だから」
「その時間魔法ってやっぱり戻したり止めたりできるの?」
 バチッ。四匹目。
「教えられないなぁ、これだけは」
「ねえ、シエラ?」
 五匹目を串刺しにして。
「うん?」
 六匹目を火あぶり。
「場所変えない? さっきから目障りなんだけど」
 ちょこちょこちょこちょこ、魔物がやってくる。シエラの張った結界に遮られたり、チェリアの剣に倒されたり。このままでは死体が山積みになりそう。いくらなんでも死体の中では眠りたくない。
「そうだね。でもちゃんとした宿につくには明け方になる」
「徹夜で歩くのと、ここで食べられるのとどっちがマシ?」
「俺の結界で一晩は持つけど」
「狭すぎ」
 半径二メートルなんて。
 隣で眠ることに抵抗はないけれど。
「じゃあ、歩く方」
「決まり。行こ、シエラ」
「はいよ」
 主導権はどっちだっけ?



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2000.05.08


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