緋色の龍
第一章 出会い(3)
* *
ザーク家は、主に剣術―剣術といっても実践的なものから、護身術、破魔に至るまで
さまざまだ―の名門として知られている。
一族だけでなく、他家からも優秀な子供を養子として迎えることによって、その名前を強固たるものにしていた。
その出自は限りなく古く、国王一族との繋がりも深い。
たまに他方面の才能を持った人間も生まれてくることがあって、彼らには魔術の道を極めんと考える人間もいた。そして、彼らの中でも限られた人物だけがが『魔導剣士』の称号を得るのである。
そういった意味では、シエラはかなりの術の使い手だ。
ザーク家の紋章は『龍』。
西洋では悪魔の化身とも見られる龍だが、むしろザークの紋は東洋の色が濃い。しなやかな体、するどい爪、立派なひげをたたえた天の使いである。
一歩間違えたら反逆者として扱われるザーク家だが、国王のおかげでそれはない。
五十年前の隣国との戦も、先頭にたって戦った。
それでも根元がぐらついていたため、戦には負け、傘下に入ることを余儀なくされたのである。その時、敗因はザーク家が魔族と契約を交わしていたからだ、と主張する人間がいた。魔術は正確には人間以外の『力』によるもの。自然界の力なのだが、どちらかと言えば魔族より。よって、魔術師や魔導剣士のいたザーク家が魔族をおびき寄せたため、この国が滅ぶ原因となったと言うのである。
それの真偽はともかく、当時の国家は、責任を擦りつける人間を必要としていた。国王は泣く泣く、彼らを処分したのである。
ザークを名乗る人間は、全員殺された。
それだけでなく、血を引く人間はことごとく消されたのである。
今ではもう、紋章さえも許されてはいない。
だから不思議に思ったのだ。
* *
「まぁ、ザークの紋章は変わっていて、偽物がつけたら炎に包まれるって言われているから誰もつけたがらない。その点においては信用できる…けど」
どうやって生き延びることができたのだろうか。そもそも、五十年前でも百歳だ。
「そのときはもうこうなってたよ」
「だったらなおさらヤバイんじゃないの? 魔導剣士は一番最初に殺されたって」
「当時俺は動けなかったんだよ。けっこう眠ってたから、その頃の俺を知ってる人間は少ない。それがよかったみたい。一族皆殺しは痛かったけど、もともと執着してたわけじゃないからそんなに気にしてない」
「ふぅん?」
「これでOK? 身の上話は得意じゃないんだけど、とりあえずこれくらい。もうダメだよ、教えられない」
「わかった。とにかく、あたしの目的は『椿』よ。『椿』を手に入れるためならどこにだって行く。やっと見つけたんだもの、見過ごすわけにはいかないわ。だから」
だから?
「あんたに着いてく」
「別にかまわないけど、でも着いてきてどうするつもり?」
「スキがあったら『椿』はもらう。心配しないで、迷惑はかけない」
どこが迷惑をかけないって?
チェリア。
「……好きにすれば?」
でも、何を言ってもきいてはくれないだろうから、さ。
きみが納得するようにしたらいいよ。俺は別に止めないから。
「で、目的地はどこ?」
「北」
「北ぁ? あんな何にもない辺ぴなところに?」
「そ、北」
こうして、二人の旅は始まった。
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