DJ NOMOセンセの初投稿大長編小説です。
なんでも1年は連載できるらしいとのこと。
楽しみですね。

LastSurvivor(10)

第一章 脱出

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 周囲には依然として警報が鳴り響いていた。加速をはじめてからもうすでにかなりの時間がたっているのにも関わらず、警備船との距離はあまり縮まっていないように思えた。加速のために体にかかる圧力には慣れたが、体に縛り付けてあるロープがからり痛む。どちらにしろ、この状態では遅かれ早かれ限界がくる。その前になんとか振り切って欲しいのだが…。
 ふと、ミシガンの方を見る。ミシガンは近くの手すりのようなものにつかまり、その片手だけで体を支えていた。もう一方の手では、かなりの振動があるのにも関わらず、器用に操作盤で船をコントロールしていた。時折窓の外を見て、警備船との距離を確認しているようだった。
 そのとき、後方で3回ほど連続して、今までとは質の違う爆音が鳴り響いた。数秒後、相当大きな音が近く3回して、船が上下に大きく揺れる。
(まさか、命中したんじゃ…)
 その後、タイプライターが文字を刻むような音が近くでして、俺達のいる反対側の壁にいくつか連続したへこみができた。
(げっ、機関銃じゃないか…!しかも、かなり大型の…!)
しばらくの間、途切れ途切れに機関銃の掃射が続く。時に船室の壁がへこんだり、船の後方で弾丸が金属にあたった音がする。そのたびに体をかがめ、自分たちに当たりはしないか、とおびえていた。
(ミシガン…!頼む!)
俺はただひたすら祈った。すぐ横ではクリシアが俺につかまっていた。この振動の中、それとは明らかに違う小刻みな震えが俺の体に伝わってくる。いつの間にか、俺もクリシアの体を強く抱きしめていた。自分も震えていたのかもしれない。
 ふと、ミシガンが何か叫んだ。爆音や炸裂音が混じり、よく聞こえない。なんだろうか、と思いミシガンの方を見ると、船の前方に警備船が待ち構えている!そして、機関銃の銃口がこちらに向けられていた!
「ふせろ!」
 その言葉とほぼ同時に前方のミシガンの操縦席近くの窓ガラスが一斉に砕け散った。 ミシガンは手すりにつかまったまま身を伏せた。俺は反射的にクリシアを押しのけるようにしてクリシアの前に出た。飛び散った窓ガラスの破片がいくつか体をかすめるのが分かった。機関銃の音が前方から後方に流れるように響き、壁がそれに合わせてへこんだり、あるところは穴があいたりしていた。
 しばらくして、機関銃の音は止んだ。
 爆音がだんだん遠ざかっていった。しばらくして、船の振動がゆるくなっていき、体に逆方向の慣性力が働いた。
 ふと、顔をあげてミシガンの方を見てみた。ミシガンはすでに立ち上がっていて、船を操作していた。前方の割れた窓ガラスの向こうには、もう国境警備船の姿はなかった。
  「二人とも、ケガはないか?」
 数分後、船は通常の速度に戻り、ミシガンは船の舵を固定して俺達の所まで来て、ロープをはずしてくれた。
「私は大丈夫…。でも、トレイスが…。」
 …幸いにして、銃弾は当たらなかったが、手足や頬にガラスによる傷ができていた。せっかくのお気に入りのジャケットも、かなりあちこちが破れてしまっていた。
「心配するな、かすり傷だよ。それほど痛まないし、傷は浅いと思う。それよりミシガン、自分の心配をしたらどうだよ…?」
 そう、心配をしてくれているミシガンの方が、ケガはひどかった。体を支えていた右手は、ガラスが刺さったりしていて血まみれになっている。
「大丈夫さ、クリシア、あとで応急処置を頼むよ。とにかく、かなり危険な状況だったけど、なんとか警備船をふりきることが出来たみたいだ。まずはそのことを喜ぼう。」
 そうだ、とにかく無事に国境を超えたのだ。これで、念願の大陸到着はまず間違い無く実現されるだろう。
「ま、終わり良ければすべて良し、だな。」
「そういうことだね。」
 俺とミシガンはとりあえず握手した。いわゆる俺達の「男の絆」を象徴する行為だった。 クリシアはいつものようにそれを見て呆れていた。
「良くないわよ、とにかくケガの治療だけはすぐにしないと。ガラスが刺さったままだとあとで化膿するかもしれないから、すぐに抜かないと。ミシガン、しばらく操縦離れられる?」
「あ、待ってくれ。船の状態をチェックするから、先にトレイスを見てやってくれ。」
「オッケー。さ、トレイス、まずは左腕からよ。」
 クリシアは強引に俺の腕をつかんだ。
「痛ってぇー!」
 ちょうどガラスが刺さっているところをつかまれたらしく、腕に激痛が走る。
 かまわずクリシアは救急箱から大き目のピンセットを取り出してアルコールランプで加熱し、ガラスの破片を強引に抜き取り始めた。
「ちょっと、マジで痛いって!おい!」
「うるさいわねぇ、男だったらこんなことでギャーギャー言わないの!」
 そう言われても痛いものは痛い!いつのまにか船酔いは平気になっていたが、俺はまた別の状況で苦しむことになった。ミシガンはそんな俺を見てまたもや肩越しに笑っていた。
 激痛に耐えている俺に対し、クリシアは小声でささやいた。
「トレイス…、さっき、私をかばってくれて…ありがと…。」
 そう言った後、しばらくクリシアは赤い顔をしてうつむいていた。あーもう、クリシアも恥ずかしがらずに普通に言えばいいのに。やれやれ。
 ま、それがクリシアのカワイイところ…かな。が、やがて開き直って 今度は消毒薬を傷口に塗りつけ始めた。
「ちょっ、ちょっと!しみるって、ソレ!」
「はいはい、もう少しだからガマンガマン。」
 この後しばらく、内科医の娘であるはずのクリシアからある意味手厚い治療を受けていたのだった。


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2000.04.11


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