LastSurvivor(12)
第二章 探索
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船から接地用の板を慎重に降ろす。船体と砂浜の高低差がかなりあり、もしこの板が間違って何かの拍子に下に落ちてしまったら、陸から降りるのが困難になってしまう。3人で板をしっかりと持って、少しずつ下に降ろしていくが、周囲の暗さも手伝って思うように進まない。
この作業を終えたのは約30分後だった。思ったより外が寒いようなので、いったん船室に戻ってから上着を着て、万一の事態のために各自で必要なものを準備することにした。
俺は、愛用のサバイバルナイフを腰に差し、各種サバイバルグッズが入ったカバンを背負った。…え、なんで陸へ降りるのにそんなものが必要なのかって?
いやいや、別に必要性はないんだけど、自称サバイバルマニアの俺は、見知らぬ地へ行く時は必ず何がおきても数日間は生き延びられるような装備を持っていくのだ。
まぁ、こんな俺をミシガンは半分馬鹿にしていたが、実はかくいうミシガンも拳銃を持ち歩く、ある意味この中で最も危険な奴なのだ…。話によると、セロウェ本島にある射撃場の常連だとか…。末恐ろしい。
クリシアは妙に荷物が多かった。セロウェを出発する時もそうだったが、クリシアにはやたらと「モノを買い置きするクセ」があって、消耗品を安い時に大量に買い込んでくることが多かった。しかも使うものにはこだわりがあって、ノートはこれ、消しゴムはこれ…といった具合で、それ以外のものは使おうとしない。本人いわく、「必要最低限」らしいが、それでも全部で10キロ近い荷物で、結局荷物の一番少なかった俺がその一部を負担する羽目になってしまった。
ようやく支度は整い、いよいよ記念すべき大陸への第一歩を踏み出す時が来た。
接地の板の前まで来て、俺達3人は互いに顔をあわせた。
「ここまで長かったな。」
最初に口を開いたのはミシガンだった。
「ああ、でもなんとかここまで来ることが出来た。」
「いろいろと大変だったけどね」
3人でここまでの道のりを振り返った。セロウェでの窮屈な生活。連絡船の遅れで島全体が大混乱したこと。3人でこっそりと連絡を取りあって計画を進めたこと。そして、出港、
国境警備船の襲撃…。
それももう過去の話だ。とにかく、無事大陸に到着したのだ。
「さ、トレイス。お前が最初に降りろよ。この計画の参謀としてね。」
「ああ、わかった。」
俺は、アポロ11号のアームストロング船長のような気分で(?)、一歩一歩、板を踏みしめて陸へと降りていった。これはまさに、自分の中では大きな前進だった。
そしてついに、砂浜の一歩手前まで来た。
(アームストロング船長はどっちの足から月におりたんだっけ…?)
ふと、そんなことを考えた。左足だった気もするし、右だった気もする。
(…えーい、分からん。俺は俺だ!)
ということで、俺は思いっきりジャンプして両足で地面に着地した。
砂浜に自分の足が少しめり込む。ついに大陸到達だ。
3人全員が船から降りたところで、俺達はそれぞれガッツポーズを取って、お互いに手を叩き合ったりして喜んだ。
…とはいえ、あまりのんびりとしてもいられない。周囲が真っ暗で、しかも自分達の周りに家らしい家は見当たらない。まず、現在位置を確認して、なんとかしてミシガンの伯父さんと連絡を取らなければならないのだが、どこへ向かって移動すればよいのか全く分からない。
「…なあミシガン、ここって大陸のどの辺なんだ…? お前の伯父さんの家からどれぐらい離れてるんだ…?」
「…いや、正確な位置は俺にもよく分からない。予定通りなら、伯父さんの街から南に3〜4キロの海岸のはすだ。地図には家らしきものはなかったから、多分予定通りの位置に到着したはずなんだけど…。」
「…でもミシガン、なんでわざわざ伯父さんの街から離れたところを目的地にしたの?街のすぐ近くにそのまま行けば楽なのに…。」
クリシアの疑問にミシガンは『甘いな』といった仕草で答えた。
「よーく考えてみろよ。俺達ってパスポート持ってるか?」
「…あ。」
俺達2人は呆然としていた。つまり、いま俺達は、この国では「密入国者」扱いなのだ。
「とりあえず、あの船が見つからないうちに伯父さんの家まで辿り着かないと面倒なことになる。…どちらにせよ、あの船は砂浜に座礁したからもう動かせないけどね。」
「…え?!」
またたまた俺とクリシアは二人そろって声を上げる。
「そりゃそうさ。砂浜に乗り上げた船をどうやって動かすって言うんだよ。でも、無事に伯父さんのところまで辿り着ければ、あの船がセロウェの移住制限政策を裏付けるひとつの証拠になるだろ。それに、もうセロウェにもどることなんてないだろうし、どこかへ行きたかったら伯父さんに頼めばいい。」
…なるほど。ミシガンはそのへんまで計算してこの計画を実行していたのか…。やるな。
「…じゃあ、とりあえずは北に進めばいいのね?」
「いや、それは止めた方がいい。北は見ての通りけっこう深い森だ。下手に入らない方がいい。海岸沿いに東に行ったところに小さな町がある。そこから…伯父さんの街はアーネムっていうんだけど、そこまでバスがでてる。とりあえず、その町まで行って、そこでバスが運転をはじめる明日の朝までどこかで休もう。」
「分かった。よし、じゃあ行こうか!」
俺達はその「小さな町」に向かって歩き出した。
つづく。
作者談
第一章が終了していらい、2ヶ月もお待たせしてしまい、申し訳ありませんでした。
今後はもう少しはやく原稿をあげるように努力しますが、掲示板に書き込んだようにノートパソコンが使えない関係で、どうしても執筆に制限がかかることは避けられないので
そのへんをご了承ください。
では、今後もよろしくお願いします。
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