DJ NOMOセンセの初投稿大長編小説です。
なんでも1年は連載できるらしいとのこと。
楽しみですね。

LastSurvivor(3)

第一章 脱出

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 悪夢が始まった。あの事件から8日、配給された食糧はとっくに底をつき、島のほとんどの人々は2日以上何も食べ物らしいものを口にしていなかった。島の非常用食料倉庫を開放したが、焼け石に水。島で唯一食料を扱う店では物価が高騰、パン一切れが1万リル (約7万円)というとんでもない値段になったにも関わらずすべて売り切れ、今では2万リル以上の缶詰が残るだけとなった。
 住民の行き場の無い怒りは自然と食料をある程度備蓄していた家や俺達のようなある程度裕福な家に向けられ、俺が家の外に出ると、いつもはごく親しい友人からイヤミや罵声を浴びたり、弱った老人や幼い子持ちの母親にすがられたりした。
 それは耐えがたい状況だった。いつも温和で紳士的でいた隣のおじさんまでもが、俺に対して面と向かって「くそ野郎」と言い放ったとき、自分の周りが真っ暗になった…。
 両親もかなり攻撃されたようで、仕事場が一時閉鎖されて家にいた親父はいつも頭を抱えていた。かつてこの島に移ってくる前、極貧の生活を送っていたという親父には相当の苦痛であったに違いない。結局、クリシア一家とミシガン達一家全員で話し合い、あと一週間程度の必要最小限の食料だけを残して、備蓄している食糧を無償で島の人たちに均等に分けることにした。ミシガンの両親は仕事の都合で来ていなかったが、ミシガンが相談を持ちかけてみることで一致した。
 しかし、ミシガンの家では両親が大反対したらしく、食料を持ち出すことができなかったらしい。結局、俺とクリシアの家の余分な食料を集めたところ、なんとか島全体に2日分ぐらいの食料が行き渡り、なんとか連絡船の到着日まで持たすことができそうだった。
 だが、現実はもっと過酷だった。11日、12日たってもまだ連絡船は来なかった。またもや食料は尽き、俺やクリシアの家でも生活が苦しくなっていった。住民の矛先は、島でまず間違い無く一番裕福なミシガンの一家へと一斉に向けられた。ミシガン本人は両親に何度も必死の説得を試みたが、もともとケチであったミシガンの両親はどうしてもこれに応じなかった。
 13日目になってもまだ連絡船は来なかった。食料だけでなく水も不足してきた人々はいよいよその怒りを抑えることができなくなり、ミシガンの一家は家の外に出ることさえも危険な状況に追い込まれた。しかし、なおもミシガンの両親は食料を開放しようとしなかった。
 14日目、人々の我慢は限界に達していた。ついに渇きによる死者がでた。両親はそれでも行動にでなかった。しかしミシガン本人が両親のその傲慢な態度についに我慢できなくなり、家の地下の倉庫を無理やりこじ開けて住民をそこに誘導し、食料を片っ端から分け与えると言う行動に出た。結果、なんと島全体で10日分近くの食料が供給された。
 ミシガンは両親を恐れ、俺の家に逃げ込んできた。両親は憤激して俺の家に来て、扉越しにミシガンと言い合うという状況がまる一日続いたが、15日目の未明、ようやく到着した連絡船に同乗していた機動隊によって説得され、家に戻っていった。島にもようやく食料が行き渡り、あまった一部の食料を俺達の家に返却することでようやく和解した。
 こうしてなんとかこの悪夢は終わったのだが、俺達の心には周囲の住民たちがつけた深い傷が残った。それはそう簡単に癒されることはなかった…。
 そして、俺達3人は決心した…。
「この国から絶対に脱出しよう…。」
 俺達3人は、セロウェ脱出のための具体的な計画を練るために動き出した


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2000.03.06


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