LastSurvivor(4)
第一章 脱出
V
あの事件から1ヶ月がたった。やはり考えることはだれも同じらしく、この1ヶ月で島の住民の4分の1近い人がどこかへと行ってしまった。このセロウェ第3小島以外でも同じ現象が起こっているらしい。つまり、セロウェの人口は日に日に減っているということだ。
俺達の脱出計画も着々と進行していた。早ければ6月中にでも出発できそうだった。
あくまで計画は極秘に進行させた。両親に知られたらまず取り押さえられてしまう。しかし、どうしても計画を進めるためにはミシガンやクリシアとちょくちょく連絡を取らなければならないため、怪しまれる可能性は大きかった。そのため、俺達は夏休みにキャンプへ行くための打ち合わせと銘打って何度も集まっては計画を少しずつ進めたのだった。
しかし、計画がほぼ完成し、いよいよ実行にむけて動き出そうとした時、俺達の前に大きな壁が立ちはだかった。
人口の減少を重く見たセロウェの政府が、国民の不当な国境の出入りを管理するという政策を打ち出し、即座に実行に移したのだった。国境付近の海岸には国境警備船が配置され、航行するすべての船を取り締まり、不当に国外に出ようとした船を強制的に国内に戻すという強硬策だ。しかも、国境警備船は武装しているらしく、強行突破を試みた船に対しては容赦無く攻撃を加えるという徹底ぶりだ。セロウェには空港はないのだが、自家用機を持っている者がいるかもしれないということで、対空用の装備まで搭載しているらしい。
つまり、政府はあくまで制限政策といっているが、俺達セロウェの国民はいわばカンヅメされたも同然なのだ。
さらに、今回の政策にあわせて変なことが起こり始めた。国際電話が使用できなくなり、インターネットで国外のサイトにアクセスするとエラーになり止まってしまう。eメールも国外のアドレス宛てに送ったら、届く前に返信されてしまう。
そう、政府はこの政策を海外に対しては極秘にしているのだ。こんなとんでもない政策が国際的な世論の反対を受けずに成立したのも、この政策の情報が国外に一切漏れていないためなのだ。通信網が遮断されてしまえば、月に一度、物資を供給する大陸からの連絡船以外は情報を伝達する手段はない。大陸の国がこのことを知るということはまずありえないのだ…。
国外への脱出をバックアップしてくれていた、大陸に住むミシガンの伯父さんとも連絡が取れなくなってしまった。
しかし、俺達は計画をあきらめはしなかった。
俺達は、また一から計画を練り始めた。かなりの危険を伴うことは覚悟の上だった。
しかし、俺達3人には、夢があったのだ。
俺達がこの国から抜け出したいと思いはじめたのは、なにも最近のことではない。だいぶ小さい頃から、そう思いつづけてきたのだ。
俺達3人の両親は、いずれも大陸のラトラスという小さな村に住んでいた。だが、貧困のため、両親はゴールドラッシュの時にこの島に移ってきた。まだ俺達が2歳の時のことだ。記憶にはほとんど残っていない。
そう、俺達は故郷に行ってみたい、と考えていたのだ。
さらに最近になって、俺は島での平凡な毎日に飽き飽きしてきたことが、ミシガンは例の事件以降、親に対しての反感が高まり、親から離れたいという独立欲が、クリシアの場合は、医学系の道に進むために国外の大学に進みたいという考えが、この計画を進めるエネルギーになっていたのだ。
絶対大陸へ、故郷へ行ってみせる。
俺達は脱出にむけて、再び計画を立て始めた。
…前置きが長くなってしまいましたが、次回からいよいよ本編に入ります。
トレイスたちを待ち受ける過酷な運命とは…? どうぞお楽しみに。
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