LastSurvivor(7)
第一章 脱出
Y
「うわー…、これはすごい…。」
いよいよ出発の日、俺達はミシガンに連れられて「偽造船」の所にたどり着いた。そこには、ほぼ国境警備船そのものと言っていいほど、完成度の高い船が用意されていた。
話によれば、ミシガンが実際に国境付近にまで出向いて、地図に近くを航行していた警備船のおおよその位置を書きこみ、距離を測定した上で、そして望遠レンズで撮ったその船の写真を参考に船体の寸法をはじき出して、無理のない数値へと微調整を重ねて求めた数値から設計したということで、外観は忠実そのものだった。
さらに、その船は俺達の住んでいるセロウェ第3小島ではなく、近くの無人島の目立ちにくい湾の中にあった。ミシガンが細心の注意を払っていたことがうかがえる…。
「テーマは忠実、快適、低コスト」
とミシガンが自負しているだけあって、内部も大陸までの長い航海を考慮して様々な家具等が積み込まれていた。ミシガンがどんな船を元に改造をしたのかは知らないが、中の広さもかなりのもので、はっきり言ってひとつの家といっても過言ではなかった。このような大きな船に乗ったのははじめてだったので、船の中に生活空間があること自体がまず驚きだったが…。コストについては具体的な金額は教えてはくれなかったが、新しく同サイズの船を購入する4分の1以下で済んだという…。
「ミシガンの技術にはホント関心しちゃうね」
…とクリシアも言っていらっしゃる。少なくとも俺達にはとてもやり遂げることができないことであることは間違い無い…。
「そいつはどうも…。まぁ、関心するのは後にして、早いうちに出発しよう。早く荷物を全部積み込んでくれ。」
ミシガンはいつもこんな感じで誉め言葉を軽く受け流してしまう。そういう気取らないところがミシガンのいい所でもある。
とりあえず、催促されたように俺達は島まで移動してきたボートに積んだ荷物を船内に運び始めた。俺の方も決して荷物が少ないわけではないのだが、クリシアの荷物の量は尋常じゃなかった。
「旅に薬は必需品」
と本人が言ってたことから、多分、俺やミシガンにはとても用法の分からんような怪しい薬品が満載なのだろう…。自分の荷物が運び終わった後も、まだクリシアの荷物はかなりあったので、最後には3人がかりで運搬を行った。なにせ中にどんな劇薬が入っているか分からないため、俺もミシガンもかなり慎重にダンボールを抱えて船内に荷物をひとつずつ運び、30分ほどでようやくすべての作業が終わった。
「さ、ちょっと遅くなってしまったし、急いで出発しよう!」
接地用の板を回収し、いよいよ出発となった。 ミシガンが船の前方にある操縦スペースでスタンバイした。俺とクリシアもその後ろで ミシガンが複雑そうな機械盤(?)を操縦する様子を眺めていた。
「よし、じゃあいよいよ出発するぞ。二人とも、忘れ物はないな?」
俺とクリシアは顔を合わせて、互いに「無いよね」と確認したあとに「OK」のサインを示した。
「じゃあ、出発だ!」
ミシガンが何やら細かい操作をはじめた。ほどなくして、船に細かな振動が伝わりはじめ、前方の窓から船が方向転換を始めたことが確認できた。
いよいよ、セロウェ脱出の旅の始まりだ!
出発して30分後、早くも最悪の事態に見舞われた。…といってもミシガンはお構いなしだし、クリシアにいたっては腹を抱えて笑っている。ちょっとは心配してくれたっていいじゃないか…。
こういう大きな船に乗って長距離を移動するということは今まで経験がなかった。今まではほとんど小型のボートでごく短い距離、例えば隣の第4小島へ行くぐらいのものだったのだが、こいつはまるで勝手が違う。船全体がゆっくりと傾いたりと、微妙な動きをするということが俺の体質に合わなかったらしい。
もう、お分かりだろう…。俺はかなり重度の船酔いに陥っていたのだ…。
「どうするの、トレイス?これからあと2週間近く船の中で暮らすのよ?」
最悪だ。まさかこんなことになるとは思ってもみなかった。この症状が改善されなければ、俺は10日以上の間、地獄の日々を味わうことになってしまう…。
「うげっ」
嘔吐感に堪えられなくなった俺は、思わずトイレの中へと駆け込んだ。
その姿を見てクリシアが後ろで大笑いしているのが聞こえた。操縦しているミシガンの肩も震えていた。
「くそっ!人の不幸を笑いやがって…。いつか地獄に落ちる…ウエッ!」
だめだ。頭の中がクラクラする。朝、早起きしたせいもあって、めまいまでもが加わってまともに立つことさえできない…。
ホントにこれから先どうなるんだろう…。
俺達の旅は始まったばかり…なんてカッコつけてる場合じゃない。
吐きそうだ。勘弁してくれ…。
とりあえずつづく…。
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