LastSurvivor(9)
第一章 脱出
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「やばい!」
向こうの船内で何かがチカチカと光った瞬間、ミシガンの表情が凍りついた。
数秒後、向こうの船内が同じように光った。
ミシガンはあわただしく船内を駆け巡りはじめ、なにやら非常用の装置のロックをはずしているようだった。
「ミ、ミシガン、一体どう言うことなんだ?!」
走り回るミシガンに俺は叫んだ。すると、ミシガンは短いロープのようなものを俺達のところに持ってきた。
「まずいことになった。この船が偽物ってことがばれた。囲まれる前に強行突破するからこのロープをまず体に巻きつけてくれ。」
何が何だよく分からなかったが、とにかく言われたとおりにそのロープを体に巻きつけた。ミシガンは急いで操縦席に戻り、操作盤についているレバーを引いた。すると、船内になにかの機械の音が鳴り響いた。それとほぼ同時に、遠くからサイレンの音が聞こえ始めた。俺達はロープを体に縛り付け終わり、ミシガンのいる操縦席の窓から外を眺めた。
「うわ、ホントだ!」
さっき近くまで来ていた警備船が少し遠ざかり、こちらを向いていた。その向こうから何隻かの船が急接近している。
「うかつだった。まさか光信号を使うとは…。」
ミシガンが険しい表情で警備船をにらみながらそう言った。
「光信号って、さっき向こうの船内が光ったあれ?」
クリシアがそう言うと、ミシガンは頷きながら、俺達か体に巻きつけたロープの端を近くにあったホックに引っ掛けた。
「モールス信号の光バージョンみたいなものだ。光の点滅で相手と交信する方法で、航空機なんかがよく使うやつなんだが、まさかあんな原始的な交信方法を使うとは不覚だった…。とにかく、見つかった以上はここから逃げるしかない。」
「逃げるって、どうするんだ?!相手は武装した国境警備船だぞ!? しかも、相当数の。」
俺の言葉に対して、ミシガンは状況に合わない不適な笑みを浮かべた。
「心配するな。こう言うときのために裏技を用意してある。気付くのが早かったから、なんとか振り切れるはずだ。そのために二人にはロープを巻きつけてもらったんだよ。さ、しっかりと体を支えてろよ。」
そう言ってミシガンはロープの端を固定したホックをロックし、操縦席まで戻って操作盤にあるカギのついたフタをあけて、 「EMERGENCY」と書かれたボタンを押した。
「何か武器でも搭載してるのかな…?」
クリシアが心配そうに俺の方を見て言った。
「わからない。でも、ミシガンの用意したものなんだ、きっとこの状況を回避できるすごいモノに違いないさ。こうなった以上、ミシガンを信じるしかないよ。」
クリシアの表情は不安に満ちていた。無理も無い、こう言った俺だって、正直不安でしょうがないのだし…。だが、この状況で頼る奴はミシガンしかいない。
「よし、二人とも、準備はいいか?今から船を強制加速するぞ。かなりのスピードで加速するから、しっかりとロープにつかまってるんだぞ!」
強制加速?! つまり船の間をハイスピードで強行突破するってことか…!? そんなことができるんだろうか?
しばらくして、大きな機械音とともに、船が加速していくのがわかった。その時、隣りのクリシアが、俺のジャケットの裾をにぎった。クリシアは唇をかみ締めて、半分泣き出しそうな表情で俺を見ていた。
「大丈夫だ。ミシガンを信じよう。」
そう言うと、クリシアは小さく頷き、俺の腕をつかんだ。
(くそ、こんな状況じゃなかったら素直に喜べるのに)
非常時に関わらずそんなことを考えつつ、今いる位置から窓の方を見た。窓から見える範囲だけでも、3〜4隻の警備船、それも大小様々なものが確認できる。気がつくと、サイレンの音もさっきよりずっと大きくなっていた。
船はだんだんと加速している。その加速の速さも、だんだんと早まっているように感じた。俺の腕をつかんでいるクリシアの腕にもだんだんと力がこもっていく。
どこかから、警告のようなものが聞こえた。船内に響くモーターか何かの音やサイレンのせいで正確には聞き取れなかったが、どうやら止まらなければ撃つ、といったような物騒な警告らしい。これで逃げ切れなかったらどうなるのだろうか?このまま海の藻くずとなってお魚さんのエサになるなんてことは死んでも(そうなったらどっちにしろ死ぬが)イヤだ。俺は祈るような気持ちでミシガンの方を見た。
表情は真剣だが、なぜか口元には微妙な笑みを浮かべていた。まるで、こんなときを待っていた、とでも言うように…。
加速は一段と早くなっていく。体に感じる圧力がかなり大きくなっていくのを感じた。 そして、エンジン音が一気に大きくなったかと思うと、一瞬何かがぶつかったかと思うぐらい急な加速が始まった。
「ぐわっ…!これは…キツイ!!」
そのしばらく後に、遠くで爆音が響いた。ほどなくしてかなり近くでみみをつんざくような炸裂音がひびき、船体が細かく振動した。
その後、爆音と炸裂音が何度も、あちこちから響いた。
(たのむ…!振り切ってくれ…!)
俺は祈るような気持ちで、ロープとクリシアの腕をつかんでいた。
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