山頂の風(中編) しかし、そいつはオレと目が合うと慌てて木の影に隠れた…。 「ははぁ、そういうことか…」 オレは心の内でつぶやいた。思わずだまされる所だった。今のは間違いなく夏実だ。甘い甘い、このオレをだまし切ろうなんてまだ甘い。 「あ、あの、ね…」 「言うな。お前の気持ちはわかってる」 「え?」 沙雪の顔が崩れて一気に驚きの表情に造りかえられた。 「どうせ、好きだって言うんだろ?で、罰ゲームでした、っておまけがつく」 彼女の耳元でそう付け加えて呟く。 沙雪の表情が固まった。ふっふっふ、図星だ!!見よこの推理力。悪の帝王夏実敗れたり!オレは甘くないぜぃ。 「ああ、お前の気持ちはわかってる」 オレは普通に、聞こえる声で、彼女にそう伝えた。沙雪はただ頷いただけだった。見てろよ、夏実、章子、昇平、良太。 オレは作戦を練った。このままばらしても良いんだが、それでは面白みに欠ける。う〜ん、あれこれ考えたんだが、結局いいのは思いつかない。ま、しょーがねー、オーソドックスだが、目には目を、で行くか…。 「ああ、お前の気持ちは確かにわかってる。でも、でもな」 オレは声だけ真面目に言った。もちろん顔は笑ってる。沙雪は少し俯いてオレの言葉の続きを待った。この笑いをこらえてる絵が遠くからはどのように映るかが問題だな。 「わかってるけど、オレ、どうしても、夏実のことが頭から離れられないんだ…」 ガサッ背後と正面で音がした。背後の方は間違いなく夏実だし、正面の方は十中八九間違いなく良太だな。良太のヤツ、オレが知らないとでも思ってるのか?お前の気持ちを…。 「なぁんて、本人の前で堂々と言うバカがどこにいるんだよ?」 オレは振り向いて半目を投げた。そこにいたのは夏実じゃなくて、良太だった…。 「あら?逆か?」 振り向くと今度こそそこに夏実がいた。 「甘い甘い」 しかし、沙雪のヤツもあんなにマジになんなくてもいいのに…。 「バカ!」 聞こえたのは夏実の怒鳴り声だった。 「バカって、なんだよ?」 オレは思わず怒鳴り返した。 「あんたって本当にバカね!」 夏実の声は半ば泣き声が混じってるようにも思える。 「バカはどっちだよ?どうせ罰ゲームだったんだろ?それに、もう一つ勘違いしてないか?」 夏実は黙った。 「言っとくが、沙雪が好きなのは本当にオレじゃないぞ。さっき言った通り、俺は沙雪の気持ちは知ってるからな…」 夏実は驚きの瞳でオレの顔を見た。そう、幸か不幸か、いやこれは不幸だろうが、オレは沙雪の気持ちを知ってる。なぜなら、それだけオレの目が沙雪を追いかけていたからだ。 「沙雪?」 夏実が驚きの声をあげた。沙雪は黙ったままだ…。やばい、言いすぎたか? 「さぁて、くだらない茶番はやめにして下山だ、下山」 オレは沈黙を見計らってその場を切り上げようと思った。今日のはくだらないお遊びだ。たかが罰ゲームのはずだ。 そして、いつもみたいにまた六人で遊ぶんだ…。 「拓郎、ちょっと待てよ」 それを引きとめたのは昇平だ。 「オレはな、一人ってのを気にしないんだよ」 すごく寂しい気持ちになった。本当は寂しがり屋の癖に…。オレは自分をののしった。けどな、オレのために誰かが我慢して無理やり丸く治めるってのは筋違いのようなきがするんだ。 「拓郎!たまには人の物奪ってろよ!」 昇平が言った。オレがずっと考えてたことだ。オレがずっと…。 「うるせーな。一人くらいいたっていいだろ?自分が見てるヤツのために不幸になれるヤツがいたって…。オレは、そんなにカッコイイもんじゃないけどよ、いいじゃねーか。こう言うときくらいオレにカッコつけさせろよ…」 オレは半ば搾り出すようにそう言った。章子と昇平が付き合ってるのは知っている。だからこそ昇平はああいう風に言えるんだ。 けどな、時々思うんだよ。もし、オレが何もしらないことで、アイツが幸せになれるなら、オレは何もしないほうがいいんじゃないかって…。 「拓郎…君…」 「さぁて、下山しようぜ。日が暮れちまう。んじゃ、あとの事、良太よろしくな。あとは全部お前次第なんだから」 いいんだぜ、オレのことは気にしなくても。最終的に丸く収まればオレはどの場所にいたって構わないんだぜ。バランスが取れなくなったときに、数合わせとして使ってくれればいいんだぜ。 オレってのはその程度の人間だから…さ。
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1999.11.22