星 蒼矢さんの「センチメンタルグラフィティー」SSです。
あの物語により現実味を持たせた作品だそうです。
下調べ等がしっかりなされてあっておもしろいですね〜。

センチメンタル・グラフティ 〜真奈美編〜(2)

第三話 幻の転校生

「え?」
俺は思わず聞き返した。
「ううん。なんでもないよ。ところで、ここは君の席だったの?」
「ああ」
 僕は何気なく答えると彼女の横に腰をおろした。さっきまでの眠気はどこへやら。僕は思 わぬ人との再会にすっかり目を覚ましてしまった。
「ところで、優はこれからどこへ行くの?」
「実はまだ詳しく決めてないんだ。でも、彦根辺りでのんびりしていくのもいいかなって 思ってるんだ。ところで、君は?」
「僕?僕は高松にいくつもり」
  僕は再び窓の外に視線を向けて答えた。そろそろ横浜の当たりだ。深夜だというのにビルが立ち並んだ町にいくつか灯がともっている。そういえば、横浜にもしばらくいってない な。
「優はよく旅に行くの?」
「そうだよ。君もやっぱり旅をするみたいだね。君はいつもどうやって移動してる?」
僕は再び優に視線を戻した。
「普通に電車」
「そうだよね。私も旅に出る時は電車かヒッチハイクだよ。目的地も決めずにブラブラするから」
「ねえ、優…」
僕はぼんやりと尋ねた。それを聞いて彼女が少し首をかしげる。
「確か、僕たちって流星群の夜にであったんだよね」
それを聞いて優の表情が明るくなるのが僕には分かった。
「そうだよ。覚えてたんだね。私達は流星群の夜出会って、流れ星の夜に再会したんだ。今考えても神秘的だね」
僕は肯いた。
 広島に引っ越したものの夏休みで学校はなく、僕には友達というものができなかった。 転校を繰り返していたから結構一人でいる事にもなれてると思ってたけど、実際のところそうでもなく、一人でいる事をそれなりに寂しく感じていたんだ。
 そんなある日、僕は神秘的な流星群と不思議な少女、優に出会った。その時会話こそはなかったけど、二人で黙って流星を見上げてた。僕は彼女と同じ物をみて、同じ感動を覚 えたんだって、僕は独りじゃ無いんだってそんな気になったもんだ。
「ふふ。あのころ君はいろんな話をしてくれたよね。思えばあれが私の旅好きの原因なのかな」
  優もぼんやりとあの頃を思い出していたらしい。世の中には不思議な出会いってのがあるんだと僕は妙に感動した。
「優だって僕にいろんな話を聞かせてくれたじゃないか。広島の事、学校の事」
「うん…」
優の表情がほんの少し陰った。
「私ね。あのころから一人でいる事が多かった。でもね、孤独を愛してたわけじゃないん だ。ただ、他人に干渉されるのが嫌いなだけ。でも、君とはそういうのじゃなかった。な
んていうのか、すごく自然でいられるんだ。だから、君と同じ学校ならなんとかやって行けるかもしれないって思った。だけど、君はこなかった…」
「ごめん」
僕はなんだか申し訳なくなった。優は俺と学校に行く事本当に楽しみにしててくれたんだ。 けど、僕は優に何もしてやれなかったんだ。
「ごめん。君が謝る事じゃないよ。しかたのないことだもの」

第四話 日の出

「おはよう」
翌朝目が覚めた時まだ辺りはうっすらと暗かった。
「ほら、見てごらん」
僕は促されてぼんやりとした視線を窓の外に向けた。そこには今日という日が少しばかり顔を出している。
 それは広大な水平線からでも高大な山の上からでもなく、立ち並ぶビルの影からの日の出でだった。
「朝日って好きだよ。もう何百年も昔から繰り返されてきたんだよね」
「ああ。ずっと昔の人もこれを見てたんだろうな」
「そうだよね。この感じ、君ならわかってくれると思ったよ」
僕も朝日は好きだった。センチメンタルな夕日と言うのも嫌いじゃないが、躍動感と言う か、生の息吹と言うか、とにかくうまく口にできない朝日の感覚と言うのは好きだった。
 僕はぼんやりとそんなことを考えていた。優はというと相変わらず窓枠に肘をついてぼ んやりと窓のをとを眺めていた。
 窓に映った優の横顔は朝日の光りを受けて金色に輝いていた。僕はふと、手紙の差出人は真奈美ではなく、優じゃないかと思えた。
「なあ、優…」
優は何も言わずに振り向いた。朝日が逆光になって、顔が良く見えない…。
「いや、なんでもないよ」
結局僕たちは七時ごろ、終点の大垣に着くまで話をしていた。


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2000.03.10


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