星 蒼矢さんの「センチメンタルグラフィティー」SSです。
あの物語により現実味を持たせた作品だそうです。
下調べ等がしっかりなされてあっておもしろいですね〜。

センチメンタル・グラフティ 〜真奈美編〜(5

第八話 玉藻公園の夕日

「ふう…」
女木島から戻ってきたところで真奈美がため息をついた。
「少し疲れたかな?」
「あ、す、すみません」
真奈美はハッとしてそう言った。昔から真奈美は体が弱かったんだからそれは仕方のないことだ。
「どうせなら玉藻公園で休んでいこうよ」
玉藻公園はとても駅前の公園とは思えないくらいに緑が多く静かな公園だった。ここは海水を引き入れているという水城、高松城の跡だ。
「私、街へ出るときよくここで休んでいくんですよ。私、人ゴミには弱いですから。ここは空気もいいし」
僕達はそこでしばらく綺麗な空気を吸っていた。いつの間にやら日はかなり西に傾いて物寂しげな色が辺りを包んでいた。
「夕日ってなんだか寂しそうだよね」
「ええ…。でも、私寂しいのは苦手です。泣き虫だから…。あの時もそうでした…」
あの時…。
 覚えていますか?あの約束。誉めてくださいね。私、ちゃんと約束守れたんですよ。ピッチちゃんが元気に飛び立った翌日私は「ちゃんと学校に行く」というあなたとの約束を守って、元気に学校へ行ったんですよ。
 そして、先生から聞いたんです。あなたは今朝、転校していったって…。あなたはもういないんだって。私、悲しくて、寂しくて、一人机にうつぶして泣いていたんです。だって、あなたにさよならすら言えなかったから…。
 そのとき、見つけたんです。机に彫られたあなたからのメッセージ。
「ガンバレ」
その一言だったけど、私それを見て頑張れたんです。あなたが私を心配してくれている気持ちが伝わってきたから…。あの言葉をみれば毎日あなたに会えるような気がしたから…。
「いつか、あなたへの感謝の気持ちしっかり伝えられるといいです…」
真奈美…。
「あ、ご、ごめんなさい…」

第九話 ライオン通りの喧騒

 今日はもう少し歩きたいと言う真奈美の提案で僕達はライオン通りを抜けていくことに した。
「結構、人が多いね。真奈美大丈夫?」
「え、ひっく」
「真奈美、少し休んでいこうか…?」
僕が声をかけた矢先、彼女は方をビクッと強張らせた。やっぱり電車でまっすぐ帰った方が良かったのかと思わないでもない。けど、真奈美と少しでも長くいたいのは確かだ。
「いえ、今のはただのシャックリですから」
「あ、ごめんね、早とちりしちゃって…」
「ごめんさい。紛わしことしちゃって。でも、もう止まりましたから…」
彼女の言葉を聞いて少し安心んした。僕が連れまわしたばかりに彼女の体調が悪くなった
なんて事にはしたくない…。
「私、心配してくれて嬉しかった…。あ、ごめんなさい、心配してくれたのに嬉しいだな んて…」
「いや、真奈美が元気ならそれでいいんだ。そういえば、さっきから美味しそうな香りがしない?」
僕はこの香りの正体を突き止めようと辺りを見まわした。が、正体を先に見つけたのは僕ではなく真奈美だった。
「きっと、あれですよ。ほら、お好み焼き…」
彼女指差した先の店の前には露天が一軒立っていて、そこで女の子が一人お好み焼きを焼いていた。
「ね、一枚食べていこうよ」
「え、ええ」
屋台でお好み焼きを焼いているのは僕と同じ位の女の子だった。慣れた手つきでお好み焼きを焼き上げていく。
「はいよ」
はきはきしていて、威勢がある。そして…。
「はい、真奈美。…?どうしたの」
僕がお好み焼きを手に戻ってくると真奈美は不安そうに僕を見つめた。
「やっぱり、私なんかよりああいう元気な女の子の方がいいですよね…」
真奈美…。そんな泣きそうな悲しい声で、そんな寂しいこと言わないで…。
「そんなことないよ。真奈美だってとっても優しい素敵な女の子じゃないか」
「え?ほ、本当ですか…?」
僕は頷いた。あのころも、そして今も変わりなく僕は真奈美の純粋な真っ白の優しさにいつも心温められるんだ。それは真奈美のすごくいいところなんだと思う。
「うれしい…。今日はどうもありがとうございました。とても楽しかったです。そ、それで、明日は私があなたのところに行っても良いですか?」
「え?そりゃ、僕はかまわないけど…」
「ふふ。いつもあなたが来てくれた。だから今度は私があなたに会いに行きますね」 そう言うと彼女は小走りに最寄の駅へと姿を消した。僕の知らない間に真奈美は色々と変わったと思った。そんな真奈美は僕のことをどう思っているだろう?


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2000.03.13


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