星 蒼矢さんの「センチメンタルグラフィティー」SSです。
あの物語により現実味を持たせた作品だそうです。
下調べ等がしっかりなされてあっておもしろいですね〜。

センチメンタル・グラフティ 〜真奈美編〜(6

第十話 四国の大阪娘

 そんなことを考えながら僕は踵を返した。確かめに行かなければならないことがあるのだ。はきはきしていて、威勢がある。そして…見覚えがあった。彼女が誰なのかはお好み焼きの味が教えてくれた。ある小学校で同じクラスだった少女の家がお好み焼き屋をやっ ていた。忘れもしない。これは確かにあの、お好み焼きと同じ味だ…。だから彼女はきっと、大阪の、
「森井、森井夏穂…」
僕はさっきのお好み焼き屋に戻ってくると既にかたずけを始めている彼女に声をかけた。
「え?え?どうして、私の名前を…?」
彼女は仕事の手を休めるとふりかえった。
「久しぶり…って覚えてないかな?」
「え、もしかして、やっぱり小学校のとき同じクラスだった…?」
僕は頷いた。
「やだ、どうしてこんなところにいるの?でも、久しぶり」
「うん、ちょっと友達に会いに来たんだ。そういう夏穂こそどうしたんだよ?」
彼女は少しの間きょとんとして目を円くしていたがすぐにテレ笑いを浮かべた。
「そっか、ここ大阪じゃないんだね。私は陸上、兼買出し、兼宣伝かな?」
どうやらいつも通り仕事をしている間に自分が四国に来ているということを忘れていたら しい。
 あいかわらず、陸上と、お好み焼きについてはこだわりを持ってるらしい。何と言って も夏穂との出会いと言うのもなかなかのものだった。
 彼女は本当に走るのが好きな少女だった。そんな彼女には一つのの夢があったんだ。それは男女混合のリレーで優勝すること。なのに、そのリレーの男子の代表が僕になっちゃ って…。彼女は陸上経験のない僕に辞退するように言ったんだ。それを聞いて、僕は彼女の夢を叶えるために練習することを決めたんだ。
「ちょっと…?どうしたの?」
「いや、昔のことを思い出してたんだよ。ほらリレーの練習しただろう?」
僕が言うと彼女は目を輝かせたように見えた。しかし、それは本当に一瞬のことで彼女は すぐに話題を変えた。
「ところで、友達ってさっきの可愛い彼女?」
「え?」
全く考えていない一言だった。
「あ〜あ。やっぱり、ああいうおしとやかな女の子の方がいいのかなぁ…」
「え?い、いや、そんなんじゃないんだけど…」
ついさっきも聞いたような…。
「怪しいなぁ。なんてね。ねぇ、今暇なんでしょ?暇ならちょっと付き合ってくれない?」
「ああ、かまわないけど…」
僕がそう言うと彼女は手早く屋台をかたずけると屋台を出させてもらっている店のおばさ んに何かを告げた。二言三言会話があって、少しこっちを見た。あ、おばさん笑ってて、夏穂は顔赤くしてる…。それから夏穂が戻ってきた。彼女はあきれたようにつぶやいた。
「もう、おばさんったら彼氏付きでも朝までには帰ってきなさいよだって」
「い、いやぁ、はは」
「………」
沈黙。さすがに気まずい。会話、会話。
「そ、そう言えば夏穂お好み焼き美味かったよ」
「そりゃ、お好み焼きを焼かせたら夏穂さんは難波一だよ!といってもばあちゃんのほうが断然美味いんだけどね」
「また食べに行かないとな。でも、夏穂がつくるのも充分美味いよ」
そうこう言いながら夏穂が僕を連れ込んだのはスポーツ用品店だ。陸上用のシューズがず らりと並んでいる。
「なるほど靴か。夏穂は本当に走るの好きだもんね」
「うん。でもね。それだけじゃないんだ…。  覚えてるかな?男女混合リレー。私達、一生懸命練習したよね。嬉しかったんだ。だっ て、あなたは私の夢の為に一生懸命に走ってくれたんだもん。でも、でもね、あなたはいつまでたっても会場に現れなかった。場内放送が入っても、スタートのピストルが鳴って も。私、なんとなく思ったんだ。あなたにはもう会えないんだって…。結果はね、実は優勝したの。夢はかなったわけ、でもね、物足りないの。そのとき気づいたんだ。私の夢はあなたにバトンを渡すことで、結果なんかどうでも良かったんだって…。 いつか、あなたにあのバトンちゃんと渡せると良いな…」
「夏穂…」
「ては。なんか私らしくないね。あっ、ほらあそこにうどん屋がある。ねね、食べに行こ うよ」
彼女は照れたようにそういうと一人走り出していた。早い早い。とてもじゃないけど追いつけない。結局僕が彼女に合流できたのはうどん屋の前だった。
「夏穂。また、大阪に遊びに行くから、美味しいお好み焼き食わせてくれよ」
そういう僕に彼女はだまって頷いた。


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2000.03.14


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