Pianist
ピアノの弾き方を忘れたピアニスト。
彼は夜毎ピアノの側に立つ。
鍵盤を触り、椅子を撫で、記憶の鱗片を引き出そうと試みる。
けれど、零れ落ちた記憶は彼の手には還らない。
『あなたは素晴らしい弾き手だった』
会う人毎に同じように声をかけられ、思い出せない事にますます困惑する。
私はこの黒い物体に、いかな感情を持っていたのだろうか?
愛おしさ?限りない執着?限りない愛?
それとも、限りない憎しみ?
かつては体の一部とも言い換えられたこの物体は、
今はただ、ひっそりと月明りに照らされ佇んでいる。
何処かへ置いてきてしまったココロの破片<カケラ>はいつまでたっても見つからない。
かつて、
『ピアニスト』と呼ばれた男は
今夜も月明りに照らされながら立ち続けている。
…ピアノは何も語らない…。
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Copyright (C) 1999 "Senkai Umiyama"
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