熱い。
熱い…。
     
焼けつくような暑さが身を焦がす。
     
ここはどこだろう…?
視界に入る限り一面の熱砂。
たちのぼる蜃気楼。
見覚えのある風景。
ここは…。
…アンドロメダ島…。
     
どうして僕はここにいるのだろう。
     
見上げると、灼熱の太陽が射殺さん
ばかりに照りつけている。
あまりの光の強さに一瞬くらりと
目がくらみ、軽く頭をふる。
風が巻きおこり、風紋を描きながら
さらさらと舞い上がった砂が
むきだしの皮膚を打ち付ける。
無意識のうちにかぶり直したフードを
握る手は、あちこち酷く傷ついていた。
手だけではなく、体のあちこちから
鈍い痛みがその存在を訴えている。
     
ここがあの島なら…なぜ僕はここにいるのだろう?
     
ここを出てからの事を思い出そうとして
あまりにも不鮮明な記憶に愕然となる。
     
では今までの事は?日本で、聖域での事は…?
     
──あれは…夢?──
     
ここでアンドロメダの聖衣を勝ち取った事も?
兄さんや星矢、氷河や紫龍たちと共にアテナのもとで
戦った事さえも…夢?
     
答えるものはない。あるのはただ
どこまでも続く…虚無。
なすすべもなく、僕は歩きだす。
照り返す日ざしが熱い。
一歩踏み出すごと足は焦げつくようだ。
     
熱い。
熱い…。
     
どこまでいけばこの熱さから
逃れられるのだろうか。
どこまでいけば…この悪夢は
終わるのだろうか。
     
…体がだるい。
喉は潤す唾液の一滴も出ないまま
乾燥しつくた。
激しい疲労感に、とうとうその場に座り込む。
     
僕はここで死ぬのだろうか。
もうその事さえどうでもよくなる。
大きく息をつく。
…喉が痛い。
     
ふいに、ぬるり、とした液体が両腕を伝い落ちる。
     
──血!?──
     
ひとすじの細い糸のような流れが2つに
なり、幾筋にも増え、やがて両の腕の肘
から下は紅く染まった。
血は止まることもなく、乾くこともなく
湧き出るように流れ落ちる。
     
「な…!どうして…。」
     
驚愕のあまり、その場にひざまづく。
ぽとぽとと指先から滴る血はすでに
僕の足元で小さな溜まりとなっていた。
…熱い砂の上で…。
     
「だれか…。」
     
血は太陽の強い光に照り出され
ぬれぬれといっそう鮮やかな
色彩を放つ。
それはこの虚無の世界でただひとつの
”生”すら感じる…。
その美しさに我知らず見惚れてしまった
自分にぞっとする。
     
──これは僕の血じゃない。──
     
それだけを確信してしまう。
では、これは誰の…?
なぜ?
     
「お願い…。」
     
むせかえるような血の臭いに喉がなる。
渇きが、呼ぶ。
堕ちるところまで堕ちてしまう。そんな予感。
     
──誰か…僕を止めて…。──
     
でももう止められない。
いつしか僕はそう心の中で叫びながら
腕を伝い落ちる紅に唇を這わせていた。
     
     
     

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