…夢を見た…。 ここにあるのは相変わらず、焼けた 砂の海と灼熱の太陽。 そして…依然として僕の腕から 流れ続ける血。 でも、もう恐怖は感じない。 顔をあげ、目をこらすと 蜃気楼に霞みながら、兄さんが ゆっくりとこちらに歩いてくる。 僕は迷わずかけより、兄さんの目の前に 立つと、想いを込めて微笑んだ。 兄さんは苦笑して僕に手を差し出す。 僕と同じように、兄さんの腕は紅に染まっていた。 少しくすぐったいような気分で 差し出された手を、僕がとろうとした とたん、兄さんはその両腕で僕を 抱き締めてくれた。 僕も精一杯兄さんにしがみつく。 互いの血が互いの体を紅く染めるけど 僕も兄さんも少しも気にならない。 「…行くぞ。」 「うん。」 どこへ、と兄さんは言わない。 僕も聞かない。 そんな事はどうでもいい事だから。 僕たちの歩いた後には 決して乾くことのない血が 熱砂の上でとどまる。 僕はちらりと目をやり、くすりと笑うと 一歩前を歩く兄さんの腕に 僕の腕をまわした。 *END* |
え〜っと、これは個人誌の5冊目「MOON」の中から 「新月」の話を抜粋しました。 聖闘士であることが、瞬にとってはある意味辛いこと なのではないかなぁと思って出来た話です。 でも、聖闘士となった最大の理由が、兄との約束を 果たす事であり、また一輝にかばわれているだけじゃなく その兄を守れるほど強くなりたい、共にありたいと願っている のなら、どんなに傷ついても今の自分を否定することは、 ないだろうと思うわけです。 ちなみにこの話のイメージソングは 谷山浩子の「砂時計」でした。 |