こんこん。KNOCK。礼儀正しく…ね。 「紫龍…いる?」 いないことは知ってるんだけど、とりあえず確認してみる。 …しーん…静か…。それでは。 「おじゃましまーす…。」 あは。やっぱり。思ったとーり。 「ここがいっちばん日当たりがいいんだよねー。」 開け放した窓から入る日差しが、絨毯の上に落ちてる。 ぽかぽかして…あたたかそー。 「へへ…。」 持ってきた大きなクッションを、日だまりの中に置いてぽんぽんと 形を整える。こんなもんかな…。 クッションが暖まるのを待ってから、そのままころんっとその上に 横になる。 ふかっ。 うつぶせになって膝で立ち、クッションの上に落ちる。 ぱふっ。 「うーん。しあわせー!」 ごろごろ。猫じゃないけど喉が鳴りそう。 クッションの中に顔を埋めたまま、思いっきり抱き締める。 もう最高! 顔にふりかかるような光が温かくて気持ちいい。 ふぁああ。あくびひとつ。あんまり暖かいから眠くなってきたなぁ。 うーん。瞼が重い…。 ふぁああ。 「しっりうー!なんか食うもんないかー!?俺ハラへってさー って…あっあれ?」 飛び込んできたはいいけど、当の紫龍はいなかった。 紫龍はいなかったけどかわりに瞬がいた。 ただし、でっけえクッション抱えて、ベッドじゃなく何故か絨毯の 上で寝てたけど。 俺は少しびっくりした。なーんでこんな所に瞬がいるんだろ? どうせ寝るんなら自分の部屋でねりゃいいのに、と思った訳だな。 しかし、さっしのいい俺のことだからすーぐピンときた。 「…そーいやぁ紫龍ンとこの部屋が、いっちばん日が 入るんだっけ…?」 ほかほかと暖かい日溜まりの中、すやすやと猫の子の様にまんまるに なって眠っている瞬はとても気持ちよさそーだった。 なんとはなしにほけほけと近くによって、瞬のすぐ側にしゃがみ こんでまじまじとながめてみる。うーむ。 …やっぱり…なぁ。改めて実感してしまう。 ……細い……。 首みて腕みて腰みて足みてもやーっぱり…細い。 なんでこんなに細いんだろ?食うもんが違うのかなぁ。 ここ二、三日の献立を思い返してみる。…同じもん食ってるよなぁ。 量はすこーし違うけどさ。本当少しだぜ。 うーん。不思議だ…。ここまで細いと体重無いんじゃないか? っとそういやぁ対黄金戦の時に、こいつ背負った事があるけど… どうだったけ?あん時はそれどころじゃ無かったからなあ…。 ぽりぽりと頭をかきながら考える。 瞬はまだ気持ちよさそうに眠っている。 ちらっと見て、おしっと袖をまくる。 解らないならやってみりゃーいいんだ。な。 「ひっ…ええっ!?」 いきなり、ぶんっと振りあげられる感覚で目が覚める。 目が覚めたら…星矢の顔のアップがあった。 「な…なに?」 「へっへー。やっぱ軽いや。」 満足気に言う星矢が僕を見上げてる。??見上げてる? 軽い混乱から覚めてよくよく見ると、なんで? なんで僕、星矢にかつぎ上げられてるのさ? 「星矢〜。」 なんかまた悪戯思いついたんだね〜…もうっ。 軽く溜め息。今度は何を思いついたのか知らないけど、いい加減に して早く降ろしてくれないかなぁ。ちょっとこの状態は疲れるよ。 「な…なに?」 ぱちくりとびっくり目で瞬がまばたきをする。へへん、驚いてら。 しかし、ほんとーに…かるいっ! 風が吹いたら飛んでいくんじゃないか?…ぷっ、ぷぷっ。 想像すると笑えるっっ! 「星矢〜。」 瞬が困った様な声で言う。ふと見上げて…。 …へえーっ。瞬ってけっこうきれいじゃん。 美穂ちゃんや絵梨衣さん、星の子の女の子達がきゃあきゃあ言うの が解る気がする。 今までそーゆーきれいだとか、かわいいだとかで見た事がなかった から気がつかなかったけど、なるほどねー。 きれいだぁー。うんうん。 「…星矢…?」 瞬は不振そうに軽く首をかしげる。と、ぱさっと瞬の髪が俺の頬に かかる。くすぐってえ。 降ろしてほしそうだけど、まだだめだかんな。俺もうちょっと見て たいからさ。 「へえ…。」 星矢がまじまじと僕の顔をながめたあと、感心した様な声をだす。 …なんか嫌な予感…。 「瞬ってきれいなんだなー。」 予感的中。星矢…それって男にとっては褒め言葉じゃないよ。 そう言ったら…やっぱりそう言い返すんだね。 「なんでさ?きれいなもんきれいって言ってどこが 悪いんだよ?」 …落ち込み…。 星矢はきっとめいっぱい好意でいってくれてるんだろうけど…。 「…お前ら…。何をしているんだ?」 全然別方向から響く声。あれェこの声は…兄さん? 「…お前ら…。何をしているんだ?」 声がしたほうを振り向くと、一輝が戸口に寄り掛かった姿勢で、 あきれたような声を出す。ちぇ。なんだ、いたのか。 「兄さん!」 嬉しそうに瞬が声をあげる。 一輝にしか見せないとっておきの笑顔で。 いつもの事なんだけど、今日はなぜかちょっとむっとする。 「星矢、そいつはぬいぐるみじゃないぞ。まあ似たようなもの だが…。いいかげんにしておけ。」 すい、と壁を離れて一輝が近寄り、掲げたままの瞬に手をのばそう とする。瞬のほうもにこにこ笑いながら一輝に両手を伸ばした。 手が触れたか触れないかの瞬間、俺は一歩退いていた。 「星矢、おい。」 まるでガキを相手にしてるようなあいつの物言いに、俺は思いっきり むかっときてしまった。 決めたっ。瞬はぜーったい一輝には渡さないからなっ。 開発したばかりの超ウルトラスーパーデラックスゴールデンな技を 仕掛けてやっからなっ! …なんか怪しげな雰囲気になってきたな…。 半分危ぶみながら、残り半分楽しみながらのんびりと… してる場合じゃなかったね。 「星矢、おい。」 兄さん。その言い方じゃ星矢を怒らすだけだってば。 もうっ。どうなっても知らないよ…とも言えないし。 星矢の腕、振りほどこうと思ったら出来るんだけど、結構しっかり 掴んでくれてるから、下手に動くとケガさせてしまうかもしれないし …困ったなあ…。 そうこうしているうちに…せっ星矢?かっ顔が…ぐちゃぐちゃ。 すっごいアカンベだね…あんまりやると元に戻らなくなるよ? 「せ〜い〜や〜!」 あっ、兄さんの声が低くなった。うーん危ないぞっ。 「せ〜い〜や〜!」 おっ怒ったかな?やっぱりきくなー。この手は。 星の子ではやってたんだけど、練習したかいがあった訳だなー。 …瞬…そんな心配そうな顔すんなよっ。 俺(俺だけじゃないけど)顔で岩くだけるんだぜっ。 これくらいで崩れるもんか。おしっ、これでとどめだっ。 よいしょっと瞬をもちかえて、後ろからはがいじめにする格好にして …えーと、確かこう言うんだ。 「瞬は預かった。命がおしくば…えーっと三べん回って ワンッといえっ!」 「星矢…きさま…。」 へっへーん。よーしっ逃げるぞ! 兄さんが怒ったのを見届けると、更に挑発するように、駄目押しの あかんべをする。 あーあ。兄さん本気で怒ってるよ…?もうどうするのさ星矢。 僕もうフォローできないよ。 ブンッと加速するような感覚に、はっと意識を戻すと、星矢が僕を 抱えたまま廊下をダッシユしていた。 ちょっちょっと待って星矢! 僕をいったい何処に連れていく気なのさ!? …当事者としてはもうのんびり、という訳でもない立場なんだけど、 もうどうにでもなれって気もする…。 「星矢ー!」 兄さんが血相変えて追い掛けてくる。なんとなく…ほらやっぱり… ははっ。うれしいな。 「瞬!つかまってろよー!」 星矢の声に慌ててふりかえると、 「わっ!ちょっと星矢どこにいくのー!?」 そこは窓じゃないかっ!? 「せいやぁー!?」 「いっくぜェー!」 だんっと思いっきり窓の桟を踏み切ってジャンプする。 飛び上がりざまに、前方三メートルの木の枝を蹴ってさらに反動を つけ、そのまま屋根の上に飛び乗る。 「星矢!瞬を何処へ連れていく気だっ!」 一輝が窓から叫ぶ。 「へっへーん。くやしかったらこっこまーでおいでーだ。 瞬はぜーったい渡さないからなっ!」 調子に乗って、屋根の上でさんざはやしたてる星矢に、兄さんが ぼそりと呟くのが聞こえる。 「別に悔しくはないが、そこまでやるのなら乗ってやるか。」 軽々と窓を乗り越えると、兄さんが星矢と同じ方法で僕達の前まで やってくる。 さすがに星矢に比べて動きに余裕があるように見えるのは、 弟の欲目かな? 星矢はと言うと、僕を抱えたままポーズを作ると、 「お、やる気だな!姫を狙う悪党めっ!奪えるものなら うばってみろっ!」 「悪党…。」 兄さんが絶句する。 「誰が姫なのさっ!」 僕の叫びを無視して星矢はすっかりその気になってる。 「いっくぞー!ペガサス流星拳!」 「おいっ。」 猛スピードで向かってくる星矢を難なくかわすが、星矢はそのまま の勢いで反対側の屋根に飛びうつる。 流星拳は脅しだったみたい。少し安心。こんな所で拳なんか放った ら目もあてられない。 「瞬!しっかり掴まってろよっ!」 星矢が声をかける。言われなくっても、もうすでにしっかりしがみ ついてるよ。 「一輝ィ!じゃなっ!」 今度は屋根の上からそのまま庭に飛び降りると(はっきりいって ビルの三、四階分の高さはある。一般人が見たら驚くだけじゃすまない だろうな。)まだ上にいる一輝に向かって舌を出して敬礼をしてみせる。 回れ右をして居間に向かって駆け出す。 「星矢…。」 瞬が疲れた様な声で俺を呼ぶのが、微かに聞こえる。 ごめんな瞬。でもせっかく面白くなってきたんだからもう少し付き 合ってくれよな。 …その頃。買い物に出ていた紫龍の姿があった。 城戸邸の門をくぐったとたんに、浴びせかけるような小宇宙の波に 思わず眉をしかめる。 「…派手にやっているようだな。」 軽く溜め息をつき、そのままキッチンに行く。 「今回は瞬もどうやら巻き込まれたみたいだな。」 これは長引きそうだ。さらに悪いことに、もうひとつの小宇宙が 加わろうとしている。 いつもストッパーである瞬が巻き込まれている以上、悪化する一方 である。 買い物袋を置き、ちらりと時計をみやると呟く。 「あと10分というところか…。」 とりあえず飲茶の用意をすることにした。 屋敷の中はさすがに広いぜっ!走りがいがある〜。 全速力で角を曲がると、見慣れた金髪男が立っていた。 こっちに気付いているのかいないのか、窓の方を向いたままだ。 「氷河!そこどけー!」 突進しながら俺が叫ぶと、ちらりとこちらを見遣り無表情のまま 一歩身をひく。 その横をすりぬけようとした瞬間…。 「星矢、危ない!」 びったん!瞬の悲鳴が耳に届く前に、俺の鼻は床と仲良くしていた。 「星矢、危ない!」 僕の忠告はむなしく、避けた筈の氷河がひょいっと突き出した足に まんまと星矢がひっかかった。 星矢が転んだ瞬間、大きく空中に放り投げられた僕はとっさに受け 身の体制をとった。 この高さじゃ反転して立ち上がることもできやしない。 くるだろう衝撃に、思わずぎゅっと目をつぶる。 …え?兄さん…? 誰かに受け止められた感触に、瞬時にそう思ってしまう。 そろそろと目を開けると、氷河が僕を両腕に抱える恰好で立って いるのが見えた。 「あ、ありがと氷河。でも出来れば降ろしてほしいんだけど…。」 とっさに、つい兄さんだと思ってしまった自分が、少し情けないか もしれない…。 「はにすんだよ!氷河!いてえじゃないか!」 言い終わらないうちに、星矢が飛び起きてきて氷河につっかかって いく。目尻にうっすら涙を滲ませて、押さえた鼻が痛そう…。 「何を急いでいる?」 「へ?」 「何を急いでいるのかと聞いている。」 「な、何って…。」 相変わらず前置きもへったくれもないような会話形態に理解が追い つかない星矢が少し混乱する。 溜め息一つ。どうも今日はとことん僕の言葉は無視されるみたい。 そろそろ地面が恋しいんだけどな…。 「氷河。お前誰かに物を尋ねる時、こういう風に聞くのかよ?」 ずきずきする鼻を押さえて俺は氷河に尋ねる。 氷河は無表情を崩さず、はっきり言い切った。 「相手によりけりだ。」 そうかよ。聞いた俺がバカだったよ。 「何でもいいから早く瞬を返せよ。早くしないと一輝の奴に 追いつかれちまう!」 「もう追いついているぞ。」 背後からいきなり声が降ってくる。 「げっ!一輝だぁー!」 「…何だその反応は。」 驚いて振り向きかけた俺のシャツの襟を、一輝が無造作に掴むと そのまま上に持ち上げる。 俺は間一髪その手を振りほどくと、氷河から瞬を奪いとってまた 逃げようとする。が、あっさりと氷河にかわされてしまった。 「なるほど…そういうことか…。」 「何がなるほどなんだ。」 その場に居合わせたメンバー全員の顔を、ひととうり見やると、 ぼそりと氷河が呟く。 一人納得した様子の氷河に、僅かに眉をひそめて一輝が聞き返す。 「なるほど…そういうことか…。」 「何がなるほどなんだ。」 この時点ですでに結末は予想がついたけど…。はぁ。 「つまり瞬は勝利者に与えられる戦利品というところなのだな。」 言いながら、やっと氷河が床に降ろしてくれた。 何だか、もう何日も地に足をつけてなかったような気がするよ。 でも、ちょっとふらふらするかな? まあ、さんざん誰かさんが振り回してくれたから…。 「つまり瞬は勝利者に与えられる戦利品というところなのだな。」 「なんだと。」 一輝が眉を大きくしかめる。へへェ。話がだんだん大きくなって きたけど、その分面白さは倍増したみたいだ。 「要は、勝った者が瞬を所有できる権利がある訳だ。」 「…いつからそんな話になった。」 「たった今からだ。それとも俺に勝てる自信がないか?一輝。」 ふん、と笑って一輝の瞳が戦闘体制に入った。 「殺生谷での結末を忘れたらしいな。さすが鳥頭なだけはある。」 こちらもさすがにむっときたのか、氷河のまわりに冷気があっと言う 間に張りめぐらされていく。 ポーカーフェイスはそのままに、一輝の目の前でこれみよがしに 氷河が瞬の肩を引き寄せる。 あ、そか。一輝の奴を怒らせるにはこーいう方法もあったよな。 ほら、一輝の小宇宙がガンガンに燃焼してるぜ。 じきに鳳凰が姿を見せるんじゃないかな。 「ねえ…。氷河…?絵梨衣さんはどうなるのさ…?」 おそるおそるといった感じで瞬が尋ねる。 これで話が変わるんじゃないかといった期待が、ありありと浮かん でいる。氷河少しも動せず、きっぱりと言う。 「彼女は俺にとってたった一人の女性だと思っている。 それがどうかしたか?」 「どうかしたかって…。」 しーん…。いっせいにしらけた空気がただよう。 あんまりはっきりと言うので、ツッコミを入れる気力すら無い。 一輝が瞬の腕を掴み、ひょいと自分の方に引き寄せると、その髪に 手をからませ庇うように押し付ける。 「なら返せ。お前には用がないだろう。」 にこにこにこ…。心底嬉しそうに瞬が一輝の腕の中で笑っている。 …やっぱりなんか悔しい。 氷河は無言で瞬の腕を掴むと、一瞬の隙を狙って再び一輝の胸から 奪い返す。 「大ありだ。俺は『一人の女性』は決めているが、 『一人の男性』はまだ決めていない。」 しーん…。先程と比べ物にならないような、絶対零度に近い空気が まわりを取り囲んだような気がする。 「きさま…。」 一輝の背後に鳳凰が大きく浮かびあがる。負けじと、氷河の背後にも 白鳥が翼を威嚇するように広げている。 「瞬、こっちにこい。そんな変態の近くにいるとお前にまで 変態が移る。」 ぴくり。氷河の眉が跳ね上がる。瞬は、一輝と氷河の顔を交互に 見遣り、どうしていいか解らないような表情を浮かべる。 あいかわらず氷河は瞬の腕を掴んだままだ。 一輝は瞬の腕をがしりとつかむと氷河を睨みつける。 「瞬の腕を離せ。この変態。」 …すでに廊下の半分は凍りついていた。 「俺も忘れんなよ!提案者は俺なんだからな!」 俺はと言えば、がぜん面白くなったこの状況にわくわくしていた。 これで、今日は一日楽しくおくれそうだぜ。 がっくり。もう、好きにしてよ。結局皆退屈してた訳なんだね。 いつ戦闘が始まってもおかしくない状態の中、僕はくらくらする頭 を押さえつつ、リビングルームに下りていった。 そう。すでに兄さん達には僕の存在は目に入ってない。 ソファにぐったり座り込むと、すっと目の前にティーカップが差し 出される。 「災難だったな。瞬。」 「あ、紫龍。帰ってたんだね。おかえりなさい。」 ありがとう、と言って僕はカップを受け取る。 一口含むと、すうっと疲れが体の中から消えていくような気がする。 うん、紫龍の入れてくれたお茶は最高! 「あと、20分といったところか。」 時計を見ながらぽつり呟く紫龍に、えっと僕は聞き返す。 「ああ。20分くらいで残り3人共一段落つくだろうから、 それから飲茶にしよう。今日はなかなかいい材料が手に入った からうまいものができるぞ。」 そう返事をしながらも、手はてきぱきと用意をしている。 僕は、目をまんまるにしたまま紫龍を見る。 …ひょっとしてすでに紫龍は皆の行動パターンを把握しているの かな…。さすが、ってとこかなぁ…。 ふうっと息を吐くと、気をとりなおして立ち上がる。 「紫龍、僕も手伝うよ。何すればいいかな?」 「じゃあ、まず野菜を洗って切ってくれ。」 「うん。」 袖をまくって支度をしながら僕は、上をそっとながめる。 …あいかわらずまだやってるみたい…。 兄さんの小宇宙と氷河の小宇宙が激しく渦巻く中、星矢の小宇宙が さらに煽るように燃え上がる様子が、その場にいなくても手にとる ように解ってしまう。 もう一度、大きく溜め息をつくと蛇口をひねる。 ほとばしる水に手を浸しながら、思わずこれから後の事を考えると 気が滅入ってしまう。 …そう。なんと言っても、沙織さんの怒る顔と、それ以上に決して 星矢達がこりないだろう事が、いとも簡単に想像できるから。 「瞬。」 「ん?なに?」 「このままで終わらす手はないと思わないか?」 「………紫龍って悪党……。」 でも賛成。さんざん僕をだしに使ってくれたんだから、僕にだって 遊ぶ権利はあるよね。 「あまりやり過ぎない程度にな。」 「あおったのは紫龍だよ。もちろん協力してくれるんでしょ?」 「何の事だ?」 しらばっくれても口許が笑ってる。やる気充分だね。 二階でにぎにぎしく物が壊れる音が響き渡る。 それを聞きながら、いかに反撃するか考えてる僕は、星矢じゃない けどけっこう楽しい一日をおくれそうだと思っていた。 …こののち、瞬がにーっこりと微笑むたびに、 星矢は十年寿命が縮むと言い 氷河は胸の十字架を握りしめ 一輝は憮然とふんぞりかった。 紫龍はといえば、香りのいいお茶を口に運びながら、この三者三様 の反応を密かに楽しんでいた。 『何もしない』というのが、瞬の反撃とは誰にも口外せずに。 …誰が一番の悪者なんでしょうね? *END* |
個人誌「すべて世はこともなし1」より再録。 残りはわずかだけど、pataの可愛い表紙と挿絵つきの本なので そっちが見たい!という方は結花までメールください。(^_^) どたばた、どたばたとひたすら動き回る話なので、ちょっと 読んだ後疲れるかもしれないけど、私的にはかなり気に入ってる 話ではあります。 一人称で交互に書くっていうのも楽しかったし。 ひとり氷河が変な人になってますが、これもご愛嬌ということで ひとつ。(^^;) |