──雨の降る音で目が覚めた…。──
          
 「兄…さん?」
          
無意識のうちに、隣にあるべき者の姿を温もりを探す。
そして、はっと気付き悲しげに微笑む。
          
 「夢…か…。」
          
なんと優しい、そしてなんと哀しい夢なのであろうか。
瞬はゆっくりとベットから起き上がり、カーテンを開ける。
…まだ夜は明けていない…。
夢の中と同じ様に、雨は今も降りそそいでいる。
          
 「どうしてなんだろう…。」
          
窓ガラスに額を押し付けると、重い溜め息と共に小さく呟く。
無意識のうちにカーテンを強く握りした指が、白く染まる。
          
 「あの時となにもかも同じなのに、どうしてあの人は…
  兄さんはここにいないのかな…。」
          
皆が口を揃えて言う。一輝は悪魔に魂を売ったのだと。
以前の彼とは違うのだと。
確かにそうなのかもしれない。
しかし、自分だけは、そう自分だけは信じていたかった。
兄はきっと戻ってくれると。
          
 「忘れじの…行く末までは難ければ…か…。」
          
ふと、浮かんだ一つの歌を口にしてみる。
人が変わらずにいられるには、六年という歳月はあまりにも
永過ぎるのかもしれない。
銀河戦争でのあの時の…兄の自分を見る目は、まるで氷の
ようだった。
          
       …冷たい瞳…。
          
──だけど僕は兄さんの言葉を信じて生きてきたんだ。──
          
心の中でそっと呟く。
兄と二人で静かに暮らしたいと思うのは、それ程までに大それた
夢なのであろうか…。
黄金聖衣も聖闘士も戦闘も、どうでもよかった。
ただ兄さえ側にいてくれるのなら。
このまま全てが夢と消え、目覚めれば兄が昔の様に優しく微笑ん
でくれればいい。
繰り返し、繰り返し何度もそう願った。
かなわぬ事と知っていても。
つっと自分の頬に流れる温かいものに気付く。
いつの間に泣いていたのだろう。
          
 『目ン玉が流れちまうぞ。』
          
頭の中で兄の言葉が聞こえる。
 「そうだね。」
くすっと小さく笑って自分の中の兄に囁きかける。
そして新たに決意を固める。
          
 「兄さん…兄さんがもとの優しい、強い兄さんに戻ってくれる
  なら、たとえこの命、落とすことになってもかまわない。」
          
──…兄さん…。──
          
          
    ────明日は殺生谷決戦の日。────
          
          
          
          
          
 「夢…か…。」
          
自嘲気味にくっと口の端で笑う。
          
 「こんな夢を見るような感情が、
  まだ俺の中に残っていようとはな…。」
          
親を憎み、かつての友を憎み、たった一人の肉親である弟さえも
憎むことを選んだ時、過去の思い出、他人への情などという甘い
感情はすべて捨てたはずだった。
後悔などしない。
たとえそれが闇の中に身を沈める事になろうとも。
身も心も修羅となりはて、両手を血に染めようとも。
自らが選び進む道なのだから。
          
 ──…兄さん…──
          
どこかで、瞬の呼ぶ声が聞こえた気がした…。
          
 「瞬…昔と少しも変わっていなかったな。」
          
自分を信じて疑おうともしない、あの目…。
何故ああも変わらずにいられるのだろうか。
いや…変わってしまったのは自分だけなのかもしれない、と思う。
          
 「そうだ…俺は昔の俺ではない。今の俺は暗黒聖闘士…。
  瞬、お前が俺の前に立ちはだかるというのなら、お前とて
  容赦はしない。」
          
          
    ────明日は殺生谷決戦の日。────
     
     
*END*
     
     


この話は、初めて書いた一輝・瞬です。
というより、小説自体書くの初めてだったんですね〜。
数年経って読み返せば、いろいろ思うところのある話です。
          
そう「今ならこういう表現は使わん!」とか、
「もっとしっかり書き込まんかい!」とか。(笑)
          
しかしそれよりも、今よりは昔の方がストレートにものを書いて
いたような気が…。いや〜これを温故知新というのでしょう。
…ちゃんと、役立てられたらいいんですけどね〜。(^^;)
      
      

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