「じゃ、八戒行ってくるな。ジープも」 「はい。行ってらっしゃい」 「きゅ〜っ!」 12月のある日、僕はいつもの様に貴方を賭場へ送り出しました。 一度はやめようかと言ってくれた賭場通いですが、僕は首を振りました。 一度内緒で覗きに行った賭場での貴方の輝いた顔、相手の悔しそうな顔。 天職である職場を変えてくれとは言えないし言いたくありませんでした。 貴方が仕事へ行った後、夕食の食器をまず片付ける。 貴方のお猪口を片付ける時、貴方が口付けた飲み口にキスをする。 模様を確認し、貴方が口をつけた所を見つけて。 夏にはいつもビールを注ぎたいからと、冬は寒いから熱燗をと別にグラス・お猪口を用意 するのは、こういう理由がある。 「さて、続きでも編みますか。毛糸で遊ばないで下さいね、ジープ」 「きゅ…」 「それからいつも言っている通り、悟浄にはナイショですよ?」 「きゅっ」 この頃悟浄を待つ時の僕の時間潰しは、長いマフラーと手袋を編む事で費やされる。 色は、白。 白いマフラーに紅い髪。貴方があまり好きではないと言ったあの髪と目が目立ってしまい ますが、僕にとっては一番好きな色。この世に繋ぎとめてくれた、神聖なる紅なのです。 貴方に出会い名前を変えて、貴方の伴侶となってから初めてのクリスマス。 初めて贈るプレゼント。結構色々と悩みました。 決めたきっかけは、一緒に行った買い物の帰り道でした。 いつも、貴方の腕の中は暖かいので気付きませんでした。前を歩いていた貴方が襟を立て て寒そうに背を丸め、ポケットに入れていた手の存在のことを。 貴方が僕の肩を抱き、僕は手を貴方の腰に回し暖め合ったあの日、プレゼントは決まった のです。 僕は貴方の居ない時間を見計らって編んでいく。 ついでに僕のも作ってペアにしましょうか。 そうしたら、僕の作ったマフラーと手袋、使ってくれるでしょうか。 あとクリスマスまで三週間。気付かれない様に、見目が良い様に、使ってもらえるように 作る。貴方と一緒に過ごしたこの一年間の感謝を込めて丁寧にと。 貴方が帰る前に編みかけのマフラーを気付かれないように隠し、眠りかけたジープを寝床 に運び、シャワーを浴びに行く。着替えは二人分用意する。寝巻きではなく、ローブを。 明日は賭場自体がお休み。ゆっくりとした時間を貴方と過ごすことが出来る。 明日一日、貴方を独占できる。 「ただいま〜。うー寒い。一緒に入ろうぜ」 貴方が浴室へと入ってくる。 シャワーを浴びるのもそこそこに湯船に入り僕を後ろから抱き締める。 やはり手が冷たい。やはり手袋は必要かなと思いながらも両手で貴方の手を取り暖める。 後ろから項に、首筋にキスが降りてくる。明日は全身紅い花が散っている事でしょう。 「ご…じょ…んぁ…、く…ん…っ」 「八戒…愛してる…」 「ごじょ…ぅんっ、僕も、愛してます…あんぁ…っ」 顔に、全身に暖かい雨の様に降ってくるキスを浴びながら、貴方の腕の中にいる幸せを噛み 締めた。 *END* |