『最も美しい貴方へ』 可愛らしいうさぎの絵のついたメモに記された一文と共に投げこまれた金の林檎… 「やっかいなことになったな…」 やっかいな出来事を引き起こしたのは争いの神… こいつにかかると本当に些細な出来事も巨大な争いに発展していくのはその荒れ果てた性格と 破天荒で無節操な行動にあるのは分かっちゃいるが… 「ええ…現在『美しい』と表現される人物は3名です…」 「どれを選んでも怨恨の矛先がこっちに向くな」 どれを選んだってやっかいじゃねーか!! 「しかし、誰か一名を決めないわけには…」 権力の神・・・ヘラ(三蔵) 戦いの神・・・アテネ(悟空) 愛と美の神・・アフロディーテ(八戒) 「どなたも美しいですが…」 「…めんどうくせぇ。イケニエを一人用意してそいつに選ばせろ」 「観世音様っ!そんなんでいいんですか?」 「いいんだよっ。オリジナルもそうなんだから」 こうして人間と妖怪の血を折半で持っている男がこの金のりんごの行方を握ることに なりました。その夜、スケスケワンピースのおっぱいライン丸だし女(だと思った) が悟浄の夢枕に立ち、威張りくさった態度で言い放った言葉がコレ… 「これをお前が3人の中で1番美しいと思う奴に渡せ」 「はぁ?ナニよ、それ…」 「煩せぇ、3日後の夜までに決めておけ」 「ちょっ、ちょっと待て、オバさん!!」 振りかぶった入魂の一撃、金のりんごは悟浄の額にヒット!! 悟浄はもう一度、布団の海に沈んだ… コレは夢だと思いたかった…が、額の打ち身と転がるりんごが現実だと物語る。 …これがただのりんごだったら信じないで済んだのに… ころがっているりんごはえげつなく金の光を放っていた… 「誰に渡せって言ってたっけ?」 「俺に寄越せ」 「うわおっ!!」 朝っぱら早く、先手必勝とばかりにやってきたのは眩いばかりの金の髪と濃紫の瞳を持つ 権力の神、ヘラだった。 「いきなりやってきてソレってないんじゃねーの?」 「煩せぇ、てめぇの軽い頭に負担をかけないようにとっとと決めてやっているんだ。 ありがたく思え」 さすが権力の神…人にモノを頼むってコトした事ねーんじゃねーか? しかし、さすがに選ばれてきただけの事はある。 美人と言えば美人だ。少々クセはあるが、強気なところもナカナカ…と黙って観察していると 「あぁ、そうだ…。俺にりんごを渡せばお前に巨万の富とこの世の支配権を見返りにヤルがどうだ?」 突然の豪気な話に寝起きの頭がついていかない。 「……………………も、ちょっと考えさせて…」 そう答えるのが精一杯だった… …巨万の富と最高権力か…すっげー話だなー 大金が手に入ったら…アレやコレ…欲しいけど我慢していた物がいっぱいある… アノ新しいソフトも…そぅ、ハードが無いから諦めていたあのゲームも… あぁ…もうどれを買おうとか悩まなくってもいいんだろうなぁ… 店にあるモン全部買っちまえばいいんだから… 巨万の富ってのはそういうモンだろ…とか考えながら昼メシを作っていると… 「すっげーー、いい匂い〜〜♪」 と二人目が現れた… 「…お前、どこから入ったっ!!」 「気にすんなよ、そんな細かいこと〜〜」 と言いながらマイフォーク&スプーンを取り出した戦いの神、アテナはすでに喰う気満々だった… 「俺と戦うってバカなことしねーよな?」 確かに戦いの神と戦うバカは居ねーだろう。ただの戦いの神じゃないのは周知の事実。 アテナは戦いの神と言うより、勝利の神なのだから… 「…全部喰うなよ…」 「心配すんなって…」 と、非常に美味しそうに俺の手料理をがっつく二人目の神は…まぁ戦いの神にふさわしく鋭敏な 反射神経とその身のこなし一々が確かに美しかった。喰っている姿だけしか見てないが… しかし見てくれも健康そうな茶色の髪に世にも珍しい黄金の瞳だ。 瞬く間に粗方の皿を空にしたそいつは物足りなそうにしていたがその仕草はどちらかと言うと美しい と言うより可愛らしい…って感じだった。まぁ、人それぞれだが… 「…ごちそうさまでした…」 はい、よく出来ました。と言ってやりそうになる… 「じゃ、俺帰るねー」 「何しに来たんだ?お前は…」 呆れて思わず口に出すと 「今日は顔見せ〜〜♪あ、俺にりんごくれたらあらゆる戦いにおける勝利と、それにふさわしい叡智を あげるね〜」 「あらゆる戦い?」 「そっ。じゃ、またね〜〜」 まるっと1日…いつものようにダラダラとしながらイロイロ考えていた悟浄はボケーっと 窓から沈む夕日を見つつ一服していた。 「新しい誘惑…叡智ってのはよく分からなかったが…(悟浄にはHと聞こえた…) ……ちょっと悦さそうな響き…(←だから誤解だって(作者注)) あらゆる戦いの勝利…ってことはギャンブル負け無し?? それでひょっとして自力で巨万の富は得られるんじゃないか? っつーーことは最初の奴よりさっきの奴の方がお徳だよな…」 そんな世俗と物欲にまみれたこの男に人間と妖怪の代表をさせようってところに1番の 問題がありそうだが… 「権力だのってのはよくわかんねーし…なぁ… しかし、あらゆる戦いの勝利…あれ?あ…誰が美しいか…だっけ? ヤベヤベ、この俺としたことがグルンと転倒するとこだったぜ」 「それって本末転倒って言いたいんですか?」 「……あんたが三人目?」 「ってコトになりますねぇ…」 確か愛と美の神、アフロディーテ…美を司る神ならそりゃこのりんごが手に入らなかったら 存在その物が否定されるよな… 「アンタもコレが欲しくて仕方ないってクチか…」 「……否定はしませんが、選ぶのはあくまで貴方ですし美というのは多分に主観に左右されるものですから 貴方が誰を選んでも…」 そう言いながら寂しそうに俯かれるのは…なかなか♪ 「ふうん…で、あんたは何をくれる訳?」 どうせりんごをくれるなら…って言いに来たんだろ。 アンタは何をくれるんだ? 興味津々で聞いてみれば、何も考えていなかったかのように驚く神がいる。 「みんな贈り物を?」 「ああ、全世界の支配権・勝負事の絶対勝利…で、愛の神様ってのは… 全世界の人達から愛されちゃう権?」 軽い気持ちだった。神といっても今は俺の言動に右往左往する哀れな存在にすら見えた。 たった3日間…その間に自分が最も美しくこの金のりんごを受け取るにふさわしい神と選ばれなくては ならないとは…今すぐにでも…俺を殺してでも奪い取って手に入れたいのだろうに… 神々の前で俺から受け取らねばならないのだから… 暫く考えていたようだったが、静かに紡ぐ言葉は 「僕は確かに愛を司る者ですが、全世界の者から愛される・・・って、そんな恐ろしい事を貴方に約束 したくは無いです。そんなことを僕は幸せな事だとは思えませんから…。僕が貴方にしてあげられる 事は、貴方が最も大切に想う人からより深い愛を与えられる……それだけです。」 これで天界美人コンテストの参加者全員が分かったし、顔も分かった。 しかし…美しいってカテゴリーがよくわかんねぇなぁ… 姿形だけが美しさの基準じゃないだろうし… 要するに、俺が『富と権力』を選ぶのか『叡智と勝利』を選ぶのか『愛』を選ぶのか… ソレを試されているんじゃないのか? この金色のりんごは一体どれほどの価値があるのだろうか… 神様ってのはナニ考えているんだか… そんなことをつらつら考えながらも3人の事を考える。あの3人の最も美しい瞬間を… 富と権力の神…が最も美しい時は 沢山の人々を平伏させ、遥かな高みから威風堂々としている姿を… 叡智と戦いの神… あらゆる敵を打ち負かし、どのような逆境にあっても決して諦めず戦い続ける姿を… そしてあの愛と美の神が最も美しい姿だと思われる瞬間を考えようとして思考が停止する …いつだ?愛の神が1番美しい姿の時ってのは… そりゃ、やっぱ……愛している時か愛されちゃっている時? ……りんごの行方は決まった。 3日後、夜空に流星雨が降り注ぐその時、天界で居並ぶ神々の前にて 金のりんごは愛と美の神へ渡された 「約束は守ってくれるんだろ?」 「え、ええ…。貴方が望む人からとても深い愛を貴方は受け取れるでしょう…」 自分が受け取るとは思っていなかったのだろうか。金色に光るりんごをまるで至宝の玉のように 両手で抱きしめて微笑むその姿に自分は渡す相手を違えなかったとホッとした。 ならば次は俺が手に入れる番。 スッと翡翠の神を金のりんごごと抱きしめてその驚く頬に軽くキスを送りそのまま耳元で囁く 「俺はお前の事が忘れらんねーし、もっと知りたい。そしてすべてを手に入れたい…」 「えっ?!」 次の刹那、二人は地上にいた。 神として綴った言の葉は約束という名のもとに呪の力をもってその願いを聞き届けた。 「なんて事を貴方は願うんですかっ!!選りによって僕を選ばなくってもっ…」 「しょうがねーじゃん。すっげー気になったんだし…くれるってんなら貰わにゃ〜〜♪」 ガクンと膝を折り肩が落ちた…さすがに天界から突然落とされたのはショックだろう その腕からりんごが転がる… 「ハァ…まさかこんな事になるとは…」 「…俺を愛しちゃくれないの?」 やっぱ、俺なんかにゃ過ぎた願いだったのか? 「……ダメです…」 そっか…帰っちゃうのか…もう会えないんだろうなぁ…。 未練タラタラで、それでもせめて笑顔を見たくて… 俺はムリして笑った。できるだけ自然に…。そして軽く…。 「そっか…悪りぃな。冗談だよ。約束なんてどうでもいいから…」と… 「ダメですよ…。もう僕は貴方が何より…そぅ、自分より大切な人になってしまっています。 心に嘘をついて傷つかないで…本当の事を言って…」 下から見上げてくる翡翠の瞳にすべてを見透かされているのか… でも、決して不快ではない。むしろすごい安心感がある… 本当の願い…… 「一緒に家に帰ろう……」 「はい」 短い返事だった。 でも、ずっと見たかった華が綻ぶような笑顔つきだ。 細く白い手を取って立ちあがらせ…手を握り合ったまま小さな家に向かおうとした時、転がってしまった りんごを見つけた。 不思議な事にそれはもう金色に輝いてはいなかった。 どこにでもあるありふれたりんご… 固い地面の上を転がってしまった為に少しへこんでしまったようだが… そっと拾い上げ、このりんごが二人を引き合わせた事を思い出す。 「……きれいな紅ですね…」 そう呟く声がすぐ隣から聞こえた… *NEXT?* |