Last update Jun.08,2000

月光 / Uran

久しぶりのゲームレビューです。U-RANのビジュアルノベル「月光」。
やり終えたばかりなのですが今ダメージデカ過ぎてぼろぼろです・・・

最初に言っときます。
世間のレビューではこの「月光」よく「ゲームじゃない」みたいなことが書かれていますが これはゲームじゃないと出来ない(ビジュアルノベルをゲームというなら)ことをやっています。 ゲーム性は皆無ですが。
あと、エロゲーでもないです。
抜きゲーを期待している人はやめましょう。
前置きはここまで。

微妙に選択肢はありますが、じきに共通シナリオに吸収される固定エンディングのビジュアルベルです。
ええ、真のビジュアルノベルです。

18禁ゲームは大概音周りがおざなりに作られているものですが、これはシナリオ、グラフィック、BGM、ボイス すべてがハイクオリティで、これらすべてがかみ合い壮絶なインパクトを与えてくれます。

曲は・・・曲のタイプによってクオリティに差がありすぎです。
作曲者がクラシック畑の方なのか、短調でアルペジオ主体のバラード、 っていうか、レクイエム系の曲は出色の出来なのですが、日常BGM用であるRock'n'roll系のノリノリの曲は かなりダサイです。個人的には前者90点に対して、後者30点という感じです。
しかし、このゲームではせつないシーンが重要なのでぜんぜん問題ありません。

本当に短調のレクイエム系の曲はいいです。
特に重要なシーンで何度かかかることになる主題歌「月光」。

作中でインディーバンドの曲としてラジオから流れてくるという設定のせいか、音質が悪い(まさにFMラジオ)のですが、 スチール十二弦ギター(チェンバロかも)によるバロック調のアルペジオと オーバーダビングなしのボーカル一本という非常にシンプルな楽曲に 幽玄といっても過言ではないほどの神秘性を与えています。

音声に関しては、声優さんが、かなり上手いです。
シナリオが半端じゃなく重いのですが、極限の感情をしっかりと表現されています。

シナリオは三部構成になっていて、中学時代、高校時代、現在(大学)となります。
心情の描写に月が重要なモチーフとして用いられていることと、幻想的なBGMがあいまって 非常に美しいです。

中学、高校時代は、ほろ苦い青春時代といった感じの恋愛モノです。
ヒロインが病弱で、主人公と共に控えめな性格をしているので、儚く、透明感がある、夢幻のような シーンが展開されていきます。
これだけだと、病弱なヒロインと優しい主人公による淡い恋愛モノで、「結構いいゲームだったよね」 と、終われたのですが、第三部現在編はヤバイです。

第三部は闘病ものになります。
シナリオの完成度でいえば、各人物の視点による多元描写の折り重ねによる主題の深みの持たせ方などにより D.O.の「加奈」方がはるかに上なのですが、 この月光の第三部は同じ闘病ものとはいえ、主人公とヒロインの一対一の感情のぶつかり合いをただただ シンプルに書いています。

それはいいのですが問題なのは、その生々しさです。
同じ「生と死」という重いテーマを選びながらも加奈の場合は、感情移入し易いように、 病状の生々しい情景描写は控えめでしたが、 月光の方では容赦なしです。
シナリオ、絵、共に執拗なまでに書き込まれています。怨念を感じるほどです。
おまけに音声が入っています。
しかも声優上手いです。
シャレになりません。

あまりの壮絶さに感情移入してお涙頂戴なんて、とてもじゃないができませんでした。
ただ圧倒されるのみ。
怖かったです。恐ろしかったです。

二部までの幻想的な雰囲気なんてとっくに吹っ飛んでいました。
エンディングで「月光」がかかりながらスタッフロールが流れて、最後に幻想的な絵をバックに ヒロインがしゃべるのですが、何も頭に入ってきませんでした。
ずっと呆然としていました。

痛いです。ひたすら痛いです。壮絶です。
プレイヤーを完全に突き放しています。
しかし、買って、またプレーしたことは後悔していません。
この作品(そう、作品)に出会えて光栄です。

ビジュアルノベルではないとできないこと。をやっています。
コンピューターゲームとして売る必然性はあります。

今までやったゲーム(じゃないと書きましたが、あえてこの表現)の中で最強のインパクトがありました。
絶対に一生忘れられないです。

プレーする人は覚悟を決めてからやられた方がよろしいです。
尋常の破壊力ではありません。