ピーターと僕
兎の好きな彼女のために ペットショップで衝動買いをした 白地に茶色で小さくてかわいくて その頃僕たちは同棲をしていて 彼女はその兎をピーターと名付けた 2DKのアパートの寝室だった1部屋を彼に明け渡し 僕と彼女は1つの部屋でご飯を食べSEXして抱き合いながら眠って 別の部屋でピーターと遊び 2つの部屋で愛を確認しあった 不満があるとダンダンと 後ろ足で床を踏み鳴らし そのたびに、真夜中でも 2人は飛び起きて 彼の様子を見に行って 餌をやったり掃除をしたり 僕が出張で遠くにいるとき タイミング良く彼が電話のコードを食いちぎり ずっと連絡が来なくて泣き濡らした彼女の夜を 僕も彼も知らなかった そんな思い出 彼が嫉妬したのかなんて そんなありふれた比喩は使わないけれども 1人の女を取り合っていたかどうか知らないけれど 僕と彼はそんなに仲良しではなかった 一方的に彼が喧嘩を売ってきて 僕は余裕であしらっていたのだけれど さて、月日は過ぎ 否応なく終わりは訪れる それはあたりまえのようにしかも予定どおりに 突然訪れるのが世の常なのだ ある時期の1週間ほどの出張のあと、 僕の部屋から彼女の荷物は消えていた じつはこの話はずいぶん昔の話で 2人とも若くて愚かだったことは今はわかっているけれど そのとき僕の部屋に取り残されていたピーターのことを思うと 今でも不憫でならない 彼は彼女の荷物にもなれずに たぶん嫌いであろう僕の帰りを待っていたのだ いろんな知り合い関係から情報を集めて 彼女がいなくなった理由を探ったところ 僕の数年来の友人と彼女が浮気をしていたことに初めて気づいた それを知った夜に 僕はピーターと2人で酒を飲み そしてその日の夜明けに 彼を近くの河原に捨てに行った 彼はこれまで感じたことのない広い空間に驚いて怖がって しばらくのあいだたぶん嫌いであろう僕のあとをつけていた 僕は畜生の馬鹿さ加減に(というのは大変失礼なのだが)やるせなくなって 同レベルの感情に基づいて走って逃げた それから僕は その僕の友人だった男をぶん殴るチャンスをうかがっているのだけれど それはいまだに果たせていない そしてそれ以上の確率の低さで ピーターと再び会うことができないことも知っている 彼がもう生きていないはずなのも知っている |
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