蠍の火 Nemissa 昔砂漠に蠍あり。 虫を殺しては食べにしが、 いたちに追われ、逃げ惑い、 不意に落ちにけり、井戸の中。 跳びはね、羽ばたき、上らんと、 はさみを立てれど、甲斐はなく、 次第に蠍は溺れ出し、 涙を溜めて祈りけり。 「虫を殺せし我なれど、 迫るいたちには逃げにけり。 しかれど今はこの事態。 何をこそ当てにするべきか? ああ、などて我は我が肉を 哀れないたちにあげざりき? さすればいたちも我を食い、 一日なりとも生きせしを。 神よご覧ぜよ、我が胸を。 かほどに虚しく捨てざらで、 せめて次こそは、我が命 皆の幸いに用立てん」 暗き井戸水に涙落ち、 独り夜空を仰ぎ見し 蠍はいつしか赤く燃え、 天に星となり、きらめきつ。 |
作者紹介/Nemissa。・・・・・・知らない。 |