野良猫
人間が寝静まり、静かな時間が訪れる頃 他人の庭の暗闇を音も無く歩いてゆく猫がいる 毛並みの良い野良猫は白い体を電灯に浮かべ、 あれやこれやと試みては、植え込みの陰に消えてゆく 僕の目の前で起こった悲劇、されど猫は悲しまない 洞窟に潜む獣のように、僕はそれを眺めていた 長い尻尾をくねらせて、猫は庭を濶歩(かっぽ)する 怖いおやじのいなくなった、広すぎる立派な夜の庭を 四角い石が並んだ大通りを猫は優雅に歩いていく 植木の集った小高い丘を猫は気ままに登ってゆく 芝で転がり、翻(ひるがえ)し、猫は大きな欠伸(あくび)をする 鳴き声一つたてることもなく、目玉を光らせることもなく、 下品に排泄することもなければ、悪ぶって頂戴することもない 一匹の野良猫の美しさが電灯に照らされた庭に遊ぶ 短い足から延びゆく影があちらこちらに角度を変えて、 たたずむ僕の手の平にぱらぱらと悲しみを振り撒いてゆく 白いため息をこぼしながら、僕は坂道を下りてゆく 刻まれた猫の後ろ姿がオリオン座の南に輝いている 見えないはずの小さな明りが、猫を僕から遠ざけて、 また一つ、つれない言葉を投げかけてくる |
作者紹介/マロ田中(参加型)。詩人です!(言い切った...)HP『磨-製*_*)』も更新中、みんな集まれ〜? |