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月の儀式

猫目石


嵐の後は決まったように月が出ます。嘘のように澄んで穏やかな黒い空に、煌煌としたひかりの月が。その天球に波紋ひとつなく、私はぼんやりとただぼんやりとそのひかりをすくうのです。



嵐の後は決まったように月が出ます。天球を覆っていた厭な色の雲も呼気を奪う蒸した風も凪いで、何時の間にか決まったように、月が張り付いているのです。穏やかな黒の天球に。



今は何処かに消えてしまった雨雲から叩き付けられた、なゆたの雨水によって、暴力的に清められた地上はまるで塵一つなくしんとして、定められた月のひかりがゆっくりとなめらかに照らし出している。私は息をつくことも忘れ、その儀式にたちつくすたちつくす。月のひかりに、私の肺は満ち満ちる。月のひかりに、私の体は満ち満ちる。



そうして私の、脈打つしんとした動脈に、ゆっくりと液体月光が流れはじめるのです。







作者紹介/猫目石。詩というより徒然散文感覚。