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ヤミヨの旅路
リョヲ |
いつの頃からか、僕の街に一匹の子猫がやって来た。
そいつは真夜中よりも真っ黒で、夜なんか星空にできた小さな陰みたいに見える。
だから僕は勝手に「ヤミヨ」って名前をつけたんだ。
ヤミヨはちょっと変わったやつで、なんだか他のノラ猫とは違うんだ。
街のあちこちでいろんな所をのぞきこんだり、時々何かを聴いているようなしぐさをしたり。
道行く人の顔を見上げては、訊ねるように鳴いたりしてさ。
あっちへ行ったりこっちへ来たり。きっとヤミヨは、誰かをさがしているんだろう。
誰をさがしているのか知らないけれど、ヤミヨは毎日街中を歩いて回ってるんだ。
もしかしたら、ずっと昔に死に別れた恋人なのかもしれない。
生まれ変わって、姿が変わって。住んでる町も生きてる時代も違うかもしれないけれど、
それでもいつか恋人と再会するために。
僕は生まれ変りなんて信じてないけど、ヤミヨだけはそんな気がする。
だからヤミヨは、僕が生まれる幾千年も昔から恋人をさがして旅を続けてるんだ。
どこにいるとも知れない人とめぐりあうために、何度も何度も死んで、何度も何度も生まれ変わって。
たったひとつの願いのために、街から街へ。夜から夜へ。
あてどもない旅路の果てで、ヤミヨは恋人と逢えるんだろうか?
もし逢えたとしても。
そうだ。もし出逢えたとしても、生まれ変わって姿が変わっていたら気づかないかもしれない。
旅の途中で恋人に逢って、それでも気づきもできずに行き過ぎて。
また二人に戻ってめぐりあうまでひとりぼっちで、数え切れない地獄の季節を過ごすんだ。
そしていつか、恋人と逢ったら。
それでもやっぱり別れは来る。終わることのない恋にだって、別れは否応なしにやってくる。
愛する人と死に別れて、またひとりぼっちになって。寂しくて、たまらなくて。
恋人と暮らした短い記憶、そのしあわせのひとしずくが、再びヤミヨを永い旅路に駆り立てる。
それはしかし、とても辛いことかもしれないけれど。
作者紹介/リョヲ。リョヲなのです。 |