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サヨナラ鉄道
リョヲ |
月の光が星をのみこむほど冴え渡る夜、シャツの中に子猫を抱いて街を出よう。
サラバサラバと鳴く汽笛とともに、サヨナラ鉄道終列車で。
真っ暗な貨物車の隅に忍び込んで、あてどのない旅路の始まりだ。
僕のたったひとりの友達は、ヤミヨという名の真っ黒な子猫。
この世界のどこにいるとも知れないヤミヨの恋人をさがして、遙か遠く、地平線の彼方までも行こう。
夜の陰より黒い猫の体に、ふたつだけ光るのは、空に忘れられた金色の星のような眼。
くらやみを見通す子猫の眼に、恋人の姿はハッキリと焼き付けられているはずさ。
時々ヤミヨは耳をそばだてて、猫の言葉で歌う。
もしかしたらそれは、遠い昔に恋人が歌った歌なのかもしれない。
朝がやってきたら列車を抜けだして、ヤミヨの記憶だけを頼りに数えきれない街を踏み歩こう。
夜になったら月があたりを照らしてくれるさ。
雨の日には駅で眠ろう。薄い服と、すこしの食べ物と、君がいればそれでいい。
やがて月の冴えた真夜中に列車がやってきたら。また列車に乗って旅を続けるんだ。
サヨナラ鉄道終列車。君と僕を乗せて。
地平線の果てまでも。
サラバの汽笛高らかに。月の夜、貨物車に隠れて。
再びめぐりあうその日まで。
作者紹介/リョヲ。またしてもリョヲなのです。一度にたくさん送ってしまいました。失礼しました。 |