詩人達の部屋

詩人ギルド

リンク

作者へメール


植物

月花星


植物が増え始める


冬が近づく季節

花屋の裏手で出逢ったあいつは

凍えそうな小さな鉢植え


申し訳なさそうな値札を

震える葉っぱにくくりつけて

ただ、運命(さだめ)を待っていた


僕はその一つを明るい店の中に運び

支払いを済ませた


自分の部屋にはじめて招待した

こいつは、

部屋の隅っこに住み着いた


春が近づくと

葉はその数を日に日に増やしていく

大きな鉢に植え替えた


しばらくして

新しい友達を招いた


小さな白い花がかすかに香る

「彼女」は

また僕の部屋に住み着いた


窮屈そうなプラステックの鉢を見かねて

余っていた焼き物の鉢に植え替えた

喜ぶ「彼女」は、その手(ツル)をさしのべた


事務所の隅に

昔、貰われた大きな鉢植え


5本立ての共同体は既に

3本枯れていた

元気がないのが気になって

部屋に招いた


枯れた3本の友達を

火葬に伏して

生き残った彼らを

大きな鉢に土を足して植え替えた


閉じていた葉っぱは

元気を取り戻して

開いて太陽に向かった


最近招いた小さな鉢は

昔一緒に暮らしていた

ほのかに香る草花


今では実家で大きく立派になっている


その枝を二本

元の小さな鉢に挿してみた



「母」から離れたこの子達

部屋の隅で

伸び始めている


日に日に大きく

育ってゆく



植物には言葉はいらない


ただ、感性のままに育んでゆけば

応えるように成長してゆく


人と人の間には

言葉があって

ときにはそれが邪魔をして

感性を伝えてくれない


与える水は澄んでいるはずなのに

届く間になぜか毒に変わってしまったりして

育むはずのこの胸のうちを

枯らしてしまう


僕の部屋には植物が増えてゆく


もしもみんな枯れてしまったときには

「僕」に「死」が訪れたときだろう

肉体の「死」より心が枯れてしまったときだろう


この容姿も

この言葉も

言動も

みんな僕だから

そのまま素直に感じてくれることを

望んでいるだけ


本当は

言葉なんていらない


本当は


言葉なんて


いらない


胸のアンテナだけでいい



作者紹介/月花星。自分では自分がわからない。