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夢の形

ひでのてるみ


夢に形があったなら

生きることは 今よりずっと苦しかったろう

地上も大気も 何億リットルもの夢で溢れかえり

息することすらままならず

わずかな隙間を見つけ

他人の夢を壊さぬよう 遠慮しいしい生きるなんて




大きな夢を抱える者は 疎まれ

ポケットに夢を忍ばせる者が 賞賛され

それが小さければ小さいほど 美徳となる

この世で最も美しいものは ついえた夢

少女の手の中で燃え尽きた 一本のマッチのように

ぬくもりがただ胸に残るだけ




どす黒い腕振り回し

他人の夢掻き分け のし歩く者

その名は 野望

彼は夢やくざと呼ばれるのだろう

強き者だけが生き残れるというなら

きっと彼こそが最後の生き残り

けれど その裏で

生きたいと ただ生きたいと願う

何も恐れることなく 大地を踏みしめたいと願う

明日また日の光を浴びたいと願う

ささやかなる夢は

戦地の子どもたちの夢は

飢える子どもたちの夢は

重い重いつぶてとなって

訪れる者の上に 容赦なく降り注ぎ

そっと差し伸べた手にさえ 深く鋭く突き刺さり

そのあまりの痛さに

人々は 立ち去ってしまうだろう




夢に形無きことは 幸いなり

形無きがゆえに

その途方もない大きさ 熱さに

怖気づかずに済み

形無きがゆえに

それを何とか形にしたいと思えるのだ

そんな奇妙で優しいカラクリに

僕は静かに感謝する



作者紹介/ひでのてるみ.。詩とは縁の無い仕事をしてます。けれども、日常生活で感情にさざなみが立った時が詩の「書き時」と、気ままに書き綴る自称ゲリラ詩人。