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「小男の舞い」     kodan no mai 

鳴沢高雄


懐慕の丘の森上の

すでに灯もない廃塔の

てっぺん赤錆天窓開けて

暗い夜空を見上げれば

赤くちらちら何かが見える


あれはいったい何だろと

心をこめてながめれば

それはやっぱりあの小男

赤い綺羅着ておどってる


今宵森上風もなく

やさしい匂いに包まれて

樹皮の湿りのなつかしい


小男はそっと息をはき

天空闇にとけこめず

静かに忍んでおどってる


私はときおり目を閉じて

四月の調べ思いだし

心のうちでくちずさむ


暗い夜空の一点で

おどっているのはまたあいつ

化粧もはげてる浮き身の小男

気違いぴえろのまねをして

赤い裳裾を蹴りちらす


蹴りちらす


よくよく見ればその小男

眉ねの皺は物凄く

かたく瞼を閉じ合わせ

くわえた薔薇もとうに枯れ

髪振り乱し首を折る


腕足すでに萎え細り

それでも素早く息を吸い

両腕かたく空を抱く


しのび笑いも耳にせず

時打つ鐘はてもない


私はそれを指さして

見たぞ見たぞと賛すれば

小男は胸肌かきむしり

白く息はく唇の

呻きの声は苦の誦経

しゅうしゅしゅうしゅの音となる


星もない夜の闇空で

おどっているのはまたあいつ


私はそっと目を落とし

希望や絵画や意志もなく

都市の建築思いだす


暗闇ついに色褪せて

徒労の曙光目にすると

小男はかぼそい指ひろげ

素顔のかげをひた隠す


裾にちらつく老衰の

疲労の色もいとわしく

小男はひく空ただよって

森林向こうへ落ちてゆく


私もかたく窓をしめ

螺旋の階段見下ろして

白く冷たい息をはき

まだほの暗い塔の底

一歩一歩と降りてゆく
                   



作者紹介/鳴沢高雄。ホームページ「北京亭」