『必殺技の恋&重なる恋』
2011/1/16
探偵、という仕事をしているので、いたるところに顔を出す。
家出した娘を探して下さいと言われて、見かけられたことがあるというパチンコ屋を覗いてみたら、その娘ではなく、もっと昔に見たことある顔があった。
つん、と、偉そうに上げられた顎。不機嫌そうにしかめられた眉。学生時代も、よくあぁいう顔をしていた。平日昼間のパチンコ屋で、しかも、全然出てもないのに、あのえらっそうな態度にはむしろ頭が下がる。
「全然出てませんね」
隣の席に座って言うと、「あぁ?」と、当然不機嫌極まりない声が帰ってくる。
「向いてないんじゃないですか?パチンコ」
「ほっとけよ」
顔も動かさず、だからといって、画面を見ている風でもなく、彼はそのままパチンコを続け、そして、玉が切れた。
「ちっ」
台の足元をけっ飛ばし、彼は立ち上がった。このまま人でも殺しに行くんじゃないかという人相の悪さ。
「いくら負けました?」
「…なんだよおめぇ、さっきから」
「お茶でも飲みません?久し振りだし。おごりますよ」
「久し振りぃ?」
深くかぶっていたフードを脱いで顔を上げると、彼は、眉間にしわを寄せたままこっちを見下ろし。
「…木村?」
と言った。
「汚い」
「汚くはないでしょ。寒いだけですよ」
不機嫌かつ偉そうにパチンコをしていのは、中居正広と言う高校一年の時の同級生。二年からは進路別にコースが分かれるのでまったく顔を合わせることはなかったが、どこにいても偉そうにしているので、見かけた時はすぐ解った。
「何やってんの?探偵って?」
「探偵って、知ってるでしょ。家出人捜索とか、調査色々。特に、浮気調査、が得意」
案の定、『浮気調査』に反応がある。
「はい、コーヒー」
「…インスタント?」
「急いで混ぜないと、すぐ冷めますよ」
「おごるっていうから来たのに、なんでぬるいインスタントコーヒーなんか飲まなきゃいけねぇんだよ」
「急いで飲めばあったかいですって。エアコンないからしょうがないでしょう?」
古い雑居ビルは、もう解体工事を待つばかりで、家賃はただ同然。そこに、エアコンを自分でつけるのもバカバカしいと、冬場は厚着で乗り切っている。
「さびー…!」
中居は、足をじたばたさせながら、完全に粉が溶け切っていないインスタントコーヒーをすする。
「今時、インスタントコーヒーなんか飲んでるやついるの」
「今、そこに存在してんでしょうが」
「まじい」
「コーヒー苦手?紅茶にする?」
「ティーバックじゃねぇか!」
「依頼人のお好みに合わせられるように、色々あるんですよ。後、日本茶ね」
「ティーバックだろ!」
あぁ、もう!と、乱暴にコーヒーカップを置き、冷たい合皮のソファにもたれて、さぶっ!と中居は文句を言う。
「え?貧乏?」
「見ての通りですかね」
数分でコーヒーは、常温から、低温に変わる。アイスコーヒーが好きだ、と思うようにしている。その、冷たいコーヒーを飲みながら、中居を観察するが、そこまでせずとも置かれている状況は見て取れた。
「リストラされて、奥さんとも上手くいってない」
「はぁ〜?」
「パチンコやっても勝てないし、多分、競馬とかやってもダメでしょ」
「…」
「今の中居見て、何か勝てる要素があるとは思えない。完全に負のオーラ満載」
「探偵って、オーラまで見るのか」
「オーラ見える人じゃなくても解りますよ。パチンコ屋、結構混んでたけど、中居の両隣空いてたでしょ。やなんですよ、こいつの近くにいたら、勝てる気がしないって」
地元のどーでもいいような高校から、結構な大学に行き、結構な会社に勤めたと聞いていた。なかなかの勝ち組オーラをただよわせていた男の、このしょぼくれっぷり。
これは同級生として、どうにかしてやらねばなるまいと思っていた。
適当につづく
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