その86

「恋愛小説家」その1

中居正広は、人気の恋愛小説家だ。彼の描く透明で美しく、どこか哀しくもある物語は、多くの女性の涙を誘った。彼はクオリティを大事にする寡作な作家だ。単行本の著者近影は、有名カメラマンの手によるものだが、そのモノクロの写真を見て、憧れる女性読者数知れず。たまに、新刊が出ましたと、テレビなどでその写真が出たりするものだから、読んだこともないくせに「正広様・・・♪」と憧れている女性も多いらしい。
そんな中居正広は、人嫌いだった。
できれば、ずっと家に篭っていたい。
スタイリッシュなマンションの、スタイリッシュな部屋で、多くの本と、愛用の万年筆と一緒に。
そう。もちろん、中居正広の筆記用具は万年筆。
ネーム入り原稿用紙。
マホガニーの大きな机に、大きな椅子。
壁は作りつけの重厚な本棚で囲まれ、その中には、彼の作品を含め、珠玉の名作が並べられている。
落ちつく・・・。
美味しい日本茶を入れて、ずず、とすすりながら、中居は非常に満足していた。至福の瞬間だった。

ぴんぽーん。

む。
そんな静寂を破る、のんきなチャイムの音。このマンションの中で気に入ってないものがあるとすれば、あのチャイムだろうか。
しかし、お茶は美味しくはいっているし、今日のオヤツはばあちゃん手作りのおはぎ。こんな時にしょーもない来客と会ってる場合ではない。なにせ、人嫌いの上、中居は無頼でもあるのだ。前世で、無頼な医者だったことがあるのかもしれない。

ぴんぽー・・・・・・ん。

チャイムはも一度、少し控えめ押された。
しかし、中居は出ていかない。今日は誰も尋ねてくる予定などないのだ。編集部の人間だろうと、ファンだろうと、向かいの部屋にすむ能天気な若者鍋友だろうと、おばーちゃんのおはぎに勝てるはずがない!
みよ、このおばーちゃんのおはぎのフォルムの美しさを!輝くあんこ、控えめなきなこ!
うふ。
日頃無表情な中居が微笑む瞬間だ。
「いただきます」
手を合わせ、ぺこりとおはぎにお辞儀をした瞬間。

ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピンポン!ピポピポピポピポピポピーーーーーーー!!!!!

「うるさぁーーーい!!!」
一声怒鳴った中居は、足音荒く玄関に向かう。ドアを開けようとして、あっ!とチェーンをかけるのは忘れない。
どういう訳か、この人嫌いにして孤高の恋愛小説家、中居正広の周囲の人間は、基本的にデリカシーに欠けるものが多く、ドアが開いたら入ってもいいと思っている節がある。
ドアチェーンをちゃんとかけて、誰だ!と開けたら。

「あ。いたんですかぁ」

おまえ、絶対日本人じゃないだろ、というどこかの島の現地人的肌色をした、ノンフィクション作家、木村拓哉がいた。
ノンフィクション作家、と一応分類はされているようだが、木村拓哉は、エッセイも、コラムも、時々小説もかき、テレビ番組のレギュラーも持っている人気作家だ。
「・・・何の用だ」
「四万十川に行ってたんですけどね」
木村は、これ、と、ドアチェーンの隙間から、袋を見せた。
「あっ!」
それは、カツオの佃煮だった。その店の、その佃煮が、中居は大好きだった。
「ちょっとありきたりなんですけど、カヌーで下ったんですよ。犬もね、ついでに乗っけて」
どこかで聞いたことのあるような話だったが、それは中居の左耳から入り、右耳に抜けていった。中居の心は、ユズ風味のカツオの佃煮で一杯だった。酒にも、ご飯にもあうんだ。
おばーちゃんに持っていってもいい。
どうでもいいから早くそれを寄越せ!

「中居先生?」
いつの間にか、中居はドアチェーンの隙間から、手を出していた。
「え?なんですか?」
そのカヌーから犬が落っこちそうになり、助けようとした自分が先に落ちて、あわあわしてるうちに、カヌーもひっくり返って、そのカヌーの上に、犬だけすばやく登った、という話をしている最中だった木村は、何々?と隙間から中居を見る。
「もしかしてこれですか・・・?」
カツオの佃煮が入った手提げ袋を中居の手にかける。中居はそれをするすると部屋にいれようとして。

ガツン。

ひっかかった。
「無理でしょ、この隙間じゃあ」
「あ!木村さんだぁ」
「お!鍋友くーん!」
中居の手から手提げを取り上げて、木村はドアから離れていく。
あああ、カツオ・・・!
さっきまで、この手の中にあったはずの、カツオ・・・!
ちょっと中居が泣きたい気分になったところで、カツオが、あ、いやいや、木村が戻ってきた。
あぁ!カツオ!とまた手を出そうとした瞬間、木村は言った。
「下のカフェにいますから」

なんだとぅーー!!!
俺のカツオを置いていけーーーー!!!!

むぅーー!!部屋に戻った中居は考えた。
このおばーちゃんのおはぎがあるというのに、下のカフェにいけるだろうか!確かに下のカフェは、なかなかコーヒーなんかも美味しい。
しかし、おばーちゃんのおはぎと、この美味しい日本茶が・・・!
おはぎを前に苦悩する中居だったが、あ!と顔を上げた。確かあの男は以前にも!
あわあわと、おはぎにラップをかけ、冷蔵庫にしまう。お茶は、このまま冷やして冷茶で・・・!
靴を履きながら、ドアをあけ、ちょっとつっころびそうになりながら、階段へ向かう。ここはマンションの二階だ。
カツオのことが心配だった。
以前にも、木村は、下のカフェで、買ってきたお土産を広げて食べていたことがあるのだ!持ち込みだなんて、なんて非常識な!いくら、形ばかりのオーナー鍋友がいるとはいえ!
憤りを感じてやまない中居だったが、カフェの入り口の手前で立ち止まって深呼吸する。
焦っていると思われるのは本意ではない。自分はただ、それなりに雰囲気のいいカフェで、コーヒーを飲もうと思っているだけなのだから。

「あ、中居先生。何飲みます?」
「コーヒーだ」
「はーい。中居先生にコーヒー!」
中居は、木村と鍋友が座っているテーブルの隣に座った。ちらりと目をやると、テーブルの上に手提げ袋が置かれている。開けられた様子は、まだ、ない。
ほ、っと胸をなでおろす

しかしその瞬間!

<つづく>(笑)

どうなる!中居先生のカツオの佃煮ユズ風味(笑)!

 

その87

「恋愛小説家」その2

木村がその手提げ袋の中から、箱を取り出したのだ。
あぁ!そのパッケージ!リアルなカツオが描かれたそのパッケージは!
中居は、背筋に冷たい汗がリットル単位で流れるのを感じた。まさか、またここでバクバク食べてしまうつもりでは!味わうというより、腹を満たすために!
そんなこと!そんなこと!カツオに対する冒涜だぁーーーーっ!
しかし、中居はそれを表情に表さなかった。ここで慌てるのは、中居の美意識が許さない。ただ、食い入るように、そのパッケージを見つめるだけだ。
「先生、コーヒーお待たせしましたー。あ!木村さん、それー!」
「うん、頼まれてたから」
た、頼まれてた!?
中居が目を見開いて見つめる中、そのパッケージは、木村の手から、鍋友の手に渡される。
「うわー、ありがとうございますー!」
お盆の上に、ぽん、とそれを乗せ、そのまま鍋友は中居のテーブルまでやってきて。
コーヒーだけを、丁寧に置いた。
コーヒーだけを。
「これ美味いんですよねー」
そして、くるっと背中を向け、木村に話しかける鍋友の声を聴きながら、中居は、すぐにはコーヒーに手を出せなかった。
手が震えていたからだ。
あのカツオは、鍋友への土産だったのだ・・・!
ふ。そうだ。木村は、そんなこと一言だって言わなかったじゃないか。
がっくりするな!がっくりするな俺!
俺には、おばーちゃんのおはぎがあるじゃないか!冷蔵庫の中で、待っててくれてるじゃないかっ!
「酒に合うよな」
「温かいご飯とかにも合うんですよー!」
そう。その通りだ。でも、鍋友に、本当にわかっているだろうか。あの繊細な味わいが。ほんのりとしたユズの風味が。ほんとに?ほんとにっ?
「今日さ、その店行ったら新製品出てて」
し、新製品!?
中居は、ぴくり、と指先を震わせた。まだコーヒーカップを手に取ることもできない。
高知の、その店の商品を中居は信じていた。また、何か素敵な商品に違いない・・・!
一体どんなものなのだろう。中居は、旅行なんてめったにしない。高知まで行ったこともない。思えば、あのカツオと出会えたのは、木村の土産があったからだ。
正確には、木村がこのカフェで、コーヒーのつまみにカツオの佃煮を食べてるのに遭遇し、なんて非常識なことを!と思ったのに、無理矢理食べさせられたからだ。
あぁ、あの旨み・・・!
それからは、それとなく担当編集の稲垣に取り寄せてもらったりしていたのだが、他の商品も美味しかった。

その店の新商品!

「美味しかった?」
「うん。試食させてくれたんだけど、美味かったよ。でも高くもなくってさぁ」

か、買ったのかぁーーー!!
手提げ袋の中には、まだ入っているのか!
どうにか手の震えを抑え、コーヒーを口元に運ぶ。解るのは、熱い、ということだけだった。
一体どんなものなのか。
どんな味がするのか・・・!

「でも、カヌーねー。俺乗ったことないんですよ」
「そう?ラフティングもいいけど、のんびり下るのもいいけどね。静かでさぁ」

誰がそんな話しろとゆったーーーー!!!
「あぢっ!」
怒りの余り、がっ!とコーヒーをあおってしまい、あぢぢっ!と口元を抑えると、大丈夫ですかっ?と鍋友と木村が飛んでくる。
「あぁ、あぁ、子供じゃないんだから」
「黒いシャツだから、目立たないけど・・・」
「やけどしてない?」
「いや、そこまでは・・・っ」
タオルで、ぱんぱん、顔やら、胸元やらを叩かれて、いだ、いだっと仰け反る。アウトドア派の二人は、やたらと力が強かった。
作家にとっても、イラストレータにとっても、その力の強さは、無駄だろう!
黙って叩かれていた中居は、椅子まで零れてるから、立って、立って、と立たされる。

その瞬間だった。
今しかない!
中居は、めったにない身のこなしで、例の手提げ袋をひっつかみ、カフェからダッシュした!

<つづく>
短いわー(笑)!

 

その88

「恋愛小説家」その3

追いかけられないように、ダッシュで階段を駆け上がり、部屋に飛び込んだ。後ろ手に鍵をかけ、チェーンをかけ、荒い息をつきながら、鼓動が激しくなっている胸を押さえる。
とにかく、中に・・・。
靴を脱ぎ、リビングに入った中居は、テーブルの上に手提げを置き、自分はソファに座った。まだ、ドキドキしている。
何か飲まないと、その前にシャツを変えよう。コーヒーを零してしまった。あぁ、でも、まだドキドキしていて・・・!
中居は、なかなか手提げに手を出すことができなかった。
一体どんな新製品なのか。やはり酒に合うものだろうか。それなら、酒を用意しておいた方が。幸い、越後からいい酒を送ってもらったところだ(編集の稲垣が)
「どこに置いたかな・・・」
脱ごうとしたシャツをそのままに、中居は、日本酒を探し始める。キッチンにあるはずだと思ったのだが、なぜかCDラックの後ろにあったりして、やれやれと手提げ袋の隣に置いた。
もう。大丈夫だろうか。
ソファに座り、なんとなく、左右を見まわす。
「箸・・・」
美味しいものを、思わず手掴みで、というのは、人間として、とても素直な反応で、場合によっては微笑ましいとも思うが、やはり、あの店の新商品には、敬意を表したい。
中居は、箸も黒い。黒が好きなのだ。黒の塗り箸と、小皿を持って再度テーブルに座る。
いけない、いけない。酒を飲むなら、ぐい呑みも・・・。
現代作家によるガラスのぐい呑みは中居のお気に入りだ。泡の入ったガラスに、僅かにつけられて、青い色が美しい。
昼間から冷酒というのも、つまみがよければいいもんだな。
酒を注ぎ、中居は、おもむろに手提げの中を覗いた。

「そーいや、ワンちゃん元気ー?うち、ペットOKなのに、連れてきたらいいのに」
「元気、元気ー。そっか、ここいいんだ。今度連れてくるよ。四万十川でも泳いでたし」
「わー、可愛いー!写真とかないのー?」
「あるけど、まだフィルム」
「現像してよー!早くしてよー!早くー!早くー!あ、俺やってあげようか?」
「遠慮しときます」
「なーんーでぇー?」
「やだよ。なんか、変な合成とかされそーだもん」
「そこまでのテクないよぉ〜」
木村と鍋友は、和気藹々と会話を弾ませていた。そこに。

「木村ぁぁぁーーーーーーー!!!!」

「うわ!中居先生セクシィ!」
「うわ!なんだよ!昼間っから!」
「やばいよ、やばいよ、捕まっちゃうよ、通報されちゃうよ」

「なんだこれぇーーーー!!!!」

ボタン全開の中居は、手提げ袋を木村の顔面につきつける。勢いで、手提げ袋は、木村の鼻にばっしんばっしん当たっていた。
「いだいだいだ、何って、何が」
「これだこれ!これ!!」
ぎゅうぅ!と握っていた手提げを、はっ!と中居は離した。
汚らわしいもののように。
おっと、と受けとめた木村は中を見て、鍋友も中を見て。

「「水着」」

と答えた。

「なんで水着がそんなとこに入ってんだ!!」
「あ、そだ忘れてた。それ土産に買ってきてやった御礼に、洗濯機借りようと思ってたんだ」
「なんだぁ〜。お土産とか買ってきてくれてるからおかしいと思ったんだよなぁ〜」
鍋友は手提げを預かり、じゃあ、洗濯機にいれてきますー、とその場を離れた。
残されたのは、まだぜいぜいゆってる中居と、不思議そうにその中居を見ている木村。
「びっくりしましたよ。洗ってくれるのかと思って」
「ありえないだろ!」
「ありえないのは、そのスタイルもそうじゃないですかね。真昼間のカフェにその姿は・・・」
はっ!
なんということだ!
中居は我にかえって、せっせとボタンを留めた。一番上が段違いになったまま、最終的にボタンは余ってしまったけれど、そんなことを言ってる場合ではない。
とにかく!
土産は!
ないんだな!?
その木村を睨んだ時、カフェの外、マンションの方から声がした。

「中居せんせー!洗濯機借りてますー!」
「何ぃっ!?」
「後これ、めちゃ美味いですねぇ!」
「何がだ!!」

ボタンをずらせたままの姿で、うりゃ!とマンションのフロアに足をいれると、階段の上にいる鍋友が持っているのは、あのぐい呑み!
「何を勝手に!」
「だって、うちの洗濯機壊れてたんですよぉ〜。中居先生んとこの、乾燥機まで一体型の、おっされーなドラム型じゃないっすかぁ〜」
「だからって・・・!」
「え!ドラム型!あれだろ?乾燥までできる、本格的な全自動!」
「木村さん、見たことあります?」
「ないない!」
「こっちこっち!」
「俺のうちだぁ!!」
家主を差し置いて、とっとと二人は中居の部屋に入り、おぉ、これがドラム式乾燥機つき洗濯機!と盛りあがっている。
「なんで勝手にそんなことを!」
「そんで、これこれ!木村さん、この酒んまいの!」
「お!んまそー!中居先生、これどこの?」
「俺のだ!お・れ・の!」
「え。造り酒屋まで持ってんの?違うねー、一流作家は!」
「そーじゃなくってだなぁ!」
「中居先生グルメだからね、いいもん飲み食いしてるんですよねー」
2杯目だか、3杯目だか、4杯目だか解らない一杯を飲み干しながら、鍋友がにこやかに言う。あぁ、グラスの酒は確実に減っているじゃあないか!
「じゃあ、俺つまみ作ってあげますよ。料理得意だから任せてください」
「やめろ!勝手に人の台所に!」
「おっ!これまたうまそー!」
中居を振り切って冷蔵庫を開けた木村が声を上げる。
「な、何っ!?」
慌ててその背中にひっつくと、木村の手が!おばーちゃんの!おはぎを置いた皿に!
「や、やめろーーー!!」
「おはぎー!」
「おはぎ?うわ、なつかしー!んまそー!」
中居は、貧血を起こしそうだった。
いい頃合に頬を染めた鍋友が、おばーちゃんのおはぎ(あんこ)を一口で!
「あ!ずりっ!」
さらに、木村がきなこの方を二口で・・・!

あぁ。
おばーちゃん。
子供の頃、夏のあの日。
おせんべいの焼ける匂いの中で昼寝をしていたら、ちりん、と風鈴がなった。
目が覚めたら、麦茶があって、ガラスの細長いコップは汗をかいている。カルピスは、めったに飲めなかった。
そして、おはぎ。
アイスが食べたいと騒いだ自分と弟に、冷たいものは体に悪いからと出されたおはぎ。
その時、裏道を、通っていった女の子の、ひまわりの色のワンピースを覚えている。

「ん?」
軽く貧血を起こし、立ったままシンクに背中を預けた状態になっていた中居は、頭の隅を通っていった、何かの尻尾を捕まえた。
ひまわり色のワンピース・・・。
カルピスと、麦茶・・・。
「ん!これか!?」

ばたばたっ!と書斎に飛び込んだ中居は、万年筆で、その夏のことを原稿用紙に書き綴っていった。
暑さと、明るさと、冷たさ。
あのワンピースの女の子は、一体どんな女の子だったのか。
ワンピースと同じ色、ひまわりのようだった気もするし、逆に、とても白い肌をした、大人しい女の子だったような気もする。
そんな思いを書き綴り、まだ、物語にはならないまでも、一気に書き上げた。
「そう。夏は、そうだった・・・。あの夏は、もう・・・どこにも、なくて・・・」
うん、うん・・・。あの夏の眩しい感じは、今にして思えば、むしろSFのように思えるほど、非日常だったかもしれない。
そんなことを思いながら、何気なく書斎から出た中居は。

「ぎゃあ!!」

悲鳴を上げて飛びすさった。
ドアの前に、何かが寝ていて、それが転がってきたのだ。
「あぁ〜、中居せんせぇ〜・・・」
「何やってんだ!鍋友!」
「あ、起きた起きた」
「ぎゃあ!」
再び中居は叫ぶ。
「な、な、なにお!」
「大丈夫です。これは、鍋友の部屋から持ってきた酒ですから」
テーブルの上は、酒瓶で一杯だった。
木村は、本当に作ったらしいつまみを食べながら、ずーーっと飲んでいたらしい。
とっくに日は傾き、中居も腹は減っていたので、そのつまみでも、と思った。
「あ」
思わず嬉しそうな声が出たのは、カツオの佃煮の瓶があったから。
わーい。これたーべよっと手に取ったら。

「軽・・・っ」
「あ、それもうみんな食っちゃった」
「食・・・・・っ」

「出ていけぇーーーーー!!!!!」
ついに爆発中居火山!
未だ、その店の新製品が何かは不明のままである!

 

その89
「クイズ番組」

中居は、ふと考えた。
時は、プレイボーイアワーの収録中。なにはともあれ、武田真治は素晴らしい。そして草野仁さんは、エクセレントだ、と思う。
草野さんとはたまにお仕事をさせてもらうこともあるけれど、あの司会っぷりは見事としかいいようがない。そういえば、草野さん、世界ふしぎ発見で、今まで1度も答えを言ってしまったことがないって話だったよな。
自制心。
落ちつき。
上品さ。
ふっ、自分にないものばっかりか。
しかし、あのクイズ番組も、相当長いよな。出たことないけど。
うちのメンバーで誰が出たら面白いだろう。
と、シミュレーションしていたら。

「木村木村木村木村!!」
「な、なにっ!」
「世界ふしぎ発見でろ!世界ふしぎ発見!」
「はぁ!?」
木村は出会い頭にそんな事を言われ、大層驚愕した。
「な、何?世界ふしぎ発見?ガッテン、ガッテン?」
「それは、ためしてガッテンじゃねぇか。世界ふしぎ発見だよ!」
「ぼっしゅーと?」
あ。と中居は手を叩く。
「あの、ぼっしゅーとってさ、没収と、それの引っ込み方がダストシュートに似てるから、合わせてぼっしゅーとっていうの、知ってた?」
「え!しらね!マジで!?」
「マジマジ。だから出なって」
「だからって・・・」
何を言っているのかしら、この人は、と、まじまじと中居を見つめる木村。
「俺はなぁ〜、今、どんなテレビ番組より、映画より!おまえに、世界ふしぎ発見に出て欲しい。おまえに出て欲しい番組ナンバー1は世界ふしぎ発見だし、世界ふしぎ発見に出て欲しい人ナンバー1は、おまえだ!」
「えぇ〜・・・・・・・・・」

「俺には見えるんだよ・・・」

ほわんほわんほわん・・・。中居の脳裏には、その情景がまざまざと映し出されていた。

「では、まず最初に。今日、初登場です。木村拓哉さん」
「あ、どうも」
「どうですか?木村さん。クイズは」
「あー・・・、あんまり得意じゃないですねぇ〜。テレビで見てると解るような気がするんですけど」
「今日は、どうです?」
「今のも、なんだかさっぱり」
「その木村さんの解答は。・・・えー、サメ、ですか」
「さっき、草野さんが、海の動物って・・・」
「あ、いえいえ。さきほどのはですね、坂東さんの質問が、海の動物ですか?っておっしゃったもので」
「それはお考え下さいって言ってたやないか」
「あれっ?」
えっ!?と、自分の解答と、草野、坂東の顔を見比べる木村。
「あれ???」

「そーやってさー、ちゃんと人の話とか聞いてないんだよ、木村がさぁ〜。そんでさぁ〜、そんなことを繰り返してるうちにさ〜」

ほわんほわんほわん・・・。

「それでは、んー、そうですね。じゃあ、黒柳さんと、木村さんの解答を」
「えーー!」
「えーってなんですかぁー!黒柳さーん!」
「一緒なのー?木村さんとー?」
「そうですね」
微笑みながら二人の解答をオ−プンにする草野。
「黒柳さん、『空に飛ばせる』。その人形でどうやってお祈りをするか、ということですが、飛ばせる」
「えぇ。そうですね、あの、木村さん、それ、どういうこと?」
「えっ?」
内心、一緒じゃん、一緒じゃん、とワクワクしていた木村は驚いて振りかえる。
「え、一緒ですよ」
「一緒じゃないでしょー!落とすってー!」
「木村さんは、『落とす』ですが」
「だって、投げないと落ちないでしょう?」
「いや、手から離したって落ちるじゃない」
の、野々村真にまでつっこまれた!
「うーん、投げる。投げるんですか」
「え?あ、『飛ばし』!ます」
きっぱりと。じっと草野を見つめながら言う木村。しかし、恐ろしいことに、草野には、その木村の、『じっと見つめる熱い目線、軽く潤み付き』すら通用しないのだ!
草野はただ穏やかに微笑んで、でしたら、飛ばすと追加しておいてください、と告げる。
「そんなこと言ったってー」
木村は、飛ばす、ということばを付け加えながら呟く。
「どうせ当たってないんでしょー?」
「お、鋭いね」
坂東が言う。
「そうなんですよ。草野さんね、二つ答え書いてあって、じゃあどちらか消してくださいって言うんだけど、結局どっちもあってないんですよね。うちの中居が言ってました」
「じゃあ、あたくしのも当たってないってことになるじゃない?」
「・・・あ、じゃあ、これは。うーん・・・!」
黒柳さんが飛ばす。自分が落とす。飛ばすのが主眼か、落とすのが主眼かによって、大きく違う。
いや、まてよ。問題は、あのお祈りに使う布で出来たお人形をどうするかだ。お祈りするのに、いきなり落とすってのはおかしいか。じゃあ、やっぱり空に届けと、投げる、上に、上げる、ということが重要?飛ばすが正解!?
木村は、飛ばす、に大きく丸をつけた。

「そんでさー、結局、飛ばすでも、落とすでもなくってさー、全然はずれなんだけど、ここ重要!」
びしっ!と中居は、宙の一点を指差す。いつの間に持っていたのか、伸びる指し棒(先端ボールペンつきで)。
「『中居が言ってました』ここ!ここね。ここ赤線。これによって、あぁ、中居くんという人は、人の番組でもよく見てるんだなぁ、ということが世間に知れて、好感度アップ!」
「俺の好感度は下がるだろうがよ!」
「バーカ。何言ってんだよ、木村くんったら、あぁ見えておちゃめさんなのね、可愛い♪って新たなファン層を掴むんだろうがよ!ダメダメ、そんな、今時隙のない男なんて」
一部には、脇があまりにも甘すぎる!とも言われる隙だらけの男木村拓哉に、中居は浮かれた調子で告げた。

「あーー、楽しみだなぁ〜。木村と野々村真で最下位争い♪」
「えー!それかーー???」
「初ひとしくん人形に大喜びする木村♪しかも、全員正解の問題♪」
ほわんほわんと、その様子を想像しながら、うふうふと幸せそうな中居だった。

 

その90
「フィクションです」

ピンポンピンポンピンポン!!
せわしなくチャイムが鳴らされ、稲垣吾郎は顔を上げた。
宅急便だろうか。
彼は今、とある事情で、実家に帰ってきて、主夫のようなことをしている。もちろん、愛しの猫たちも一緒だ。
昼間の今はうちに一人きり。はいはい、と、玄関に向かった吾郎は、ついつい無防備にドアを開けてしまったところ。

「わるいごはいねがぁーーー!!!」

「きゃーーー!!!」
にゃーーーー!!!

その大声だけで、静かな日々を送っていた吾郎は悲鳴を上げ、猫たちは逃げ惑う。
「なっ!何!なんだよ!一体!」
「わるいごはいねが?」
「悪い子は、君たちでしょうが!」
ドアの外には、へっへっへっ、と悪人顔でほくそえんでいる中居・木村・草g・香取の、『悪ガキチーム』が立っていた。
あ。そうだ。
へっへっへっ、と肩を上下に揺らしながらほくそえんでいる4人の目の前で、吾郎は、がしゃんとドアを閉めた。がちゃん!と鍵もかけた。
「あっ!!」
外で非難する声が上がったけども、穏やかな午後に、あんなタチの悪い4人組とお付き合いするつもりはない。
だって、今まさに、ハーブティーを入れていたところだから。
「もう、出すぎちゃうじゃないか」
ポットから、薄手のティーカップにハーブティーを注ぎ出したところ。
「お、悪ぃな、お茶なんて」
「そんないいのに吾郎ちゃん、お茶なんて」
「なんでっ!?」
ひぃっ!とポットを取り落としそうになりつつ、目の前に座った、中居と慎吾に目をむく吾郎。
「でも、4人分は入ってないんじゃん?」
上からポットを取り上げた木村は言い、剛は、カップ1つしかないじゃん、と、残り3つを取りに行く。
「何!なんで入って来てんの!」
「はーい!」
慎吾がひらひらとヘアピンをかざす。
「習ったことありまーす!天声慎吾で!」
「それって犯罪ーーー!!」
「ばっかだなぁ」
にっこりと中居が微笑んだ。
「冗談に決まってんだろ?」
「そーだよぉ〜」
ニコニコと慎吾も微笑んでいる。
「そうそう」
木村も、吾郎の隣に座って、ぽんと肩を叩いた。
「吾郎ちゃん、おかしいねぇ」
剛も楽しそうに笑いながら、あくまでも3客のティーカップをテーブルに追加した。
「「「「単に合鍵持ってるだけじゃん」」」」

「だからなんで!!」

「そんなことより、吾郎」
勝手にハーブティーを注いで、勝手に飲んでいた中居が、眉間にしわを思いっきり寄せながら言う。
「これ、なんかすげえ変な匂いする」
「どれ?」
慎吾も匂って見て、うわあという顔をした。
「すっごー!何これ!漢方薬?」
「えっ?漢方薬?」
木村はポットを開けて中身を見て、あぁ、と頷く。
「漢方薬な」
「漢方薬じゃないよ!!」
「だってこれ変だろ!」
ポットの中身を回覧し、一同、いやーーな顔をして、カップを置く。
「・・・あのね・・・」
「おまえ、これはちょっとー・・・、どこの具合が悪いかしんねーけど・・・えっ・・・!?」
「だから、これはハーブティーで・・・!」

と文句を言おうとした吾郎は、4人が硬直したのを見て、ちょっときょどる。
「え、な、何・・・?」
確かにこのハーブティーは、ちょっと独特な香りがするけど、でも、このちょっとくせのある感じが、吾郎は気に入っていた。
だからって、そんなイヤそうな顔をしなくても・・・と4人の顔をそれぞれ眺める。
非常に厳しい顔をしていた。
「やっぱりだ・・・!」
慎吾が立ちあがる。
「な、何が・・・」
つられて吾郎も立ちあがった。中居たちも立ちあがり、5人がそう対して広くもない、稲垣実家のリビングに立ち尽くす。
「わるいごがいる・・・!」
「わるいごが!」
「わるいごはいねが!」
「わるいごどこだ!!」

「えぇ〜〜!!」
「にゃーーー!」
吾郎のへなへなした叫びに、猫の悲鳴のような鳴き声が重なる。
「わるいごはいねがぁ〜!」
「わるいごはいねがぁぁ〜〜!」
「なんなんだよぉーー!!」
わらわらと動き出した4人は、勝手きままに稲垣実家をのぞきまわる。
「わるいごはぁ〜」
「わるいごはどこだぁ〜〜」
「なんだよ、悪い子って!」
あぁ、感受性豊かな吾郎の目には、はっきりと見えた。全員がなまはげ化しているビジュアルが。
「あああーー!そこは、両親の寝室ーー!!ちょっとー!そこは、姉さんのーー!!」
プライベートってなんのこと!?というほど、なまはげたちは、家中を荒らしまわる。
「もー!やめてってばーーー!!」
もういい加減吾郎がキレかけた時、ベランダで慎吾の悲鳴が上がった。

「あったーーーー!!!!」

「何が!!」
自分の部屋も荒らされそうになって、剛と揉めていた吾郎が驚いたのだが、剛はダッシュで部屋を出る。
「なんだよいったい!!」
ベランダには、ささやかな緑がある。母親が丹精しているものだ。
そして、慎吾はその片隅にある、小さな可愛いグリーンを指差し、震えている。
「こ・・・!これ・・・!」
「これ?」
ベランダに出て、吾郎はその小さなポットを手にした。
小さな葉がちょっとハート型をしていて可愛い植物だ。
「うわわ!持ってるし!」
「うわ!こわーー!!吾郎、こわーー!!」
「何がぁ?」
慎吾は、ふぅ、と一度深呼吸をし、びしり、と吾郎と、プミラを指差した。

「その植物は、大凶です」

「・・・・・・・・・・・・はい?」

「この本に書いてあったからね!それ飾っとくと、自殺とかしたくなるんだよ!」
「何怪しい本読んでんだよーー!!」
慎吾の手には、変にキラキラしい装丁の怪しい本があった。
「やばいやばい」
「あー、危ない危ない」
「ちょ、ちょっと!」
木村・中居が、吾郎の手から、プミラを取り上げる。
「これは、ちゃんと供養しとくからな」
「供養って何!」
「よかったね吾郎ちゃん」
剛はニコニコ笑っている。
「やっぱりいたなー、わるいごなー」
「どうもおかしいおかしいと思ったら。これだ、吾郎。この大凶植物」
「ないだろ、植物に、大吉も、大凶も・・・」

こうして、なまはげたちは、わるいごを発見し、満足して帰って行った。
可愛いプミラを黙って強奪されるとは!と、吾郎は帰ってきた母親に起こられた。

おまえらがわるいごだ!!!
心の底から、吾郎は思っている。

(ものすご怪しい本に、プミラを持っていると、自殺したくなるって書いてあったんです(笑)ものすご怪しいでしょ(笑))

 

その91
「最後の・・・」

「あ」
中居は、使い捨てコンタクトの箱を覗いて小さく呟いた。
「どした?」
それっきり動こうとしない中居に、同じ楽屋にいた木村が声をかける。
「最後の一枚だ・・・」
「使い捨てコンタクト?」
「・・・これ」
中居の表情は暗かった。
「この、一枚が無くなる時」
「は?」
「この、最後の一枚がなくなる時」
「うん??」
中居の横顔は、厳しいものになる。
「俺の、命は終わる」

「は!?」

「解ってるんだ」
中居はきりっと顔を上げた。中空を見つめる。
「この最後の一枚が終わる時、俺の命は・・・」
そして、ふっと、木村に視線を向けた。
「今まで、ありがとな」
「もしもし??」
中居のその表情は、あくまでも透明だった。しかし、そんなことを言われた木村は、日本一の称号を与えられている困り顔で呼びかけるだけ。
「色んなこと、あったよなぁ〜・・・」
うっすらと微笑みながら、中居は視線を遠くにやる。
「木村、俺のこと、忘れないでくれな」
「いや、あの、中居さん?」
「ケンカとかもしたことあったけどさ」
「はぁ。え?あれ?ん?」
「でも、ずっと一緒にやってきたんじゃん、な」
「あ、あぁ・・・?」
中居は、もう一度コンタクトの箱に目をやる。
「・・・最後の、一枚か・・・」
ふふ、と微笑み、その箱を置いた中居は、コンタクトをいれるために席を外した。

木村が見てみると、確かに箱の中に、一つだけ、コンタクトが入っていた。

翌日、中居がコンタクトの箱を見ると、最後の一つだったはずのコンタクトが二つになっている。
ニヤリ。
次の日も、その次の日も。
コンタクトは、二つになり続ける。
一口分残しておけば、翌日には、チーズ一杯になる、あの魔法の器のように。
毎日、1つずつ金の卵を産むガチョウのように。
ポケットを叩くとビスケットが二つになるように。

こうして、それが当たり前になった頃。
中居は言い出した。
「最後の、一枚・・・」
「何が!!」
木村が怒鳴る。
「高速券が・・・」
「こぉそくけぇん!?」
中居は、財布を覗きながら呟いていた。
「この、一枚が無くなる時」
「は?」
「この、最後の一枚がなくなる時」
「うん??」
中居の横顔は、厳しいものになる。
「俺の、命は終わる」

「終わらないだろ!!」

木村だって解っている。コンタクトなんて、買えばいいだけの話だ。それが無くなったところで、中居の命が終わる訳なんてないことも十分に解っている。
しかしなぜ。
コンタクトと、高速券を勝手に追加してしまうのか・・・!
中居のコンタクトの箱と、中居の財布を勝手に上げて、勝手に追加しながら、己のお兄ちゃん体質を恨む木村だった。

「木村くーん!俺のパンツも、最後の一枚ー!」
「無いんだったら履くな!」

慎吾にはそのようにゆったりするけども。

 

その92
「メイクン」

たまたま、木村と中居が、それぞれに控え室でごそごそしている時、近くにいたスタッフたちの会話が、耳に入ってきた。
彼らは、常勝と不敗は、どっちが強いのか、なんて話をしている。
常勝と不敗・・・。
それはまた面白い設定だな、と木村は思った。
常勝と不敗かぁ。常勝ってゆったら・・・

「常勝ってゆったら、メイクンだよな」
と中居が呟いた。
「え?あ、そうだよな。名君だろうな」
木村が返事をして、中居が驚いたように顔を上げる。
「えっ?木村もそう思う!?」
「え、お、思うだろ、常勝ってことは、名君なんじゃないの?」
「そうだよなー、メイクンだよなー!」
その嬉しそうな言い方に、木村は小さく笑った。
「なんか、おまえそれおかしいよ」
「何が?」
「メイクンって、イントネーションおかしいって。名君だろ?」
「メイクンだよ」
「んー?おかしいって」
「おかしかねぇよ。おまえの方がおかしいって!コウコウつけてみたらおかしいだろ?」
「名君後攻?」
なんだ?名君後攻って??
「おかしいべ!」
「おかしいって、言葉自体がおかしいだろ!なんだよ、名君後攻って!」
「何ゆってんだよー!常勝だろー」
「常勝だろ?名君だよな?」
「だーかーらー、言い方おかしいって!」
「んー???」
木村は大きく首を傾げ、名君・・・と何度か頭の中で呟いてみる。ついでに、名君後攻も。
なんだろう。後攻めを得意にしてた武将とかいるのかな。
でも、それを中居が知ってるっておかしいよな(←失礼)
そもそも、後攻めって何?そんな、交互に攻めたりとかあったのかな。
でも、それを中居に聞いても、きっと知らないよな(←失礼2)
「あのー・・・上杉(謙信)とか・・・?」
「上杉?そんなのいたっけ」
「え?上杉は有名だろ」
「うそぉ〜。でもメイクンじゃないだろ?おまえ、かなりマニアックだな」
「えー!?マニアックかぁ〜??」
「あ、それともプロ?」
「プロの名君!?」
ってゆーか、アマチュアの名君って何!?どゆこと?プロとかアマとかあんの、名君に!
「常勝メイクンなー、俺も入りたかったよー、メイクン〜」
名君に入る?入るっ!?
今、確実にお互いの言語が通じ合っていないことを感じ、木村はまじまじと中居を見詰めるばかり・・・。

「いい言葉だよな、常勝明訓って・・・。明訓ってさ、神奈川なんだよ。そりゃ入りたいだろ?Y校か明訓って真剣に思ってたよなー、俺なぁ〜」
そんな木村に気付かぬまま、山田太郎や、里中智のいた、今もって日本最強の野球部と言われている常勝明訓高校に思いを馳せる中居だった。

<声に出してゆってみてください。「明訓高校」「明君後攻」。あぁん!違和感(笑)>

 

その93
「なんじゃこりゃ」

ある日、大阪の街を赤い怪獣と走っていた私。
道を教えるため、赤い怪獣がゆった。
赤「その四天王寺高校のところを・・・」
元「四天王寺高校、と言うからには、・・・四天王がおるね?」
赤「そりゃあおりますね。決まってますね」
元「転校生もくるね?」
赤「来ますね。そりゃもちろん、来ますね。転校生の中ちゃんが来ます」
元「双子とかもおるね」
赤「お約束ですからね」
元「しかし、双子というと誰を双子にするかが・・・!じゃあ、4月産まれと、3月生まれの兄弟にしよう」
赤「じゃあ、吾郎と剛れつね」
元「いいところは全部吾郎が持っていったんだね」
赤「弟には何も残らなかった」
元「なので、稲垣上澄み、稲垣カスと呼ばれている」
赤「四天王なのに(笑)!」
元「四天王なのに、『四天王って・・・』っていうノーマルな精神を持った生徒たちからは、稲垣上澄みと稲垣カスと呼ばれている(笑)」
赤「吾郎ちゃんもそれはそれで気に入っていたんだけど、転校生の中ちゃんに『上澄みって変だろ』って言われて」
元「『上澄みって!』ってね」
赤「そこで初めて、『はっ・・・!上澄みって、美しくない・・・!』って気がつく吾郎ちゃん!」
元「ええとこの子が行く学校やけど、転校生、家に近いからゆーて来てるだけの庶民やしね!」
赤「あの、稲垣上澄みを黙らせた転校生として、一躍有名に!!」
元「でも、カスはカスで、別に気にしてないのよね」
赤「気にしてませんね。なにか当たり前のように受け入れてますね」
元「言う方で気にして、一部では、稲垣沈殿と呼ばれていたりするんだけど、それに関しては辞めて欲しいと」
赤「沈殿よりカスの方がいいと(笑)」

四天王には、木村と慎吾もいるはずなのに、私たちの会話は、稲垣上澄み&カス兄弟に終始した。

そして、この話を、たまたまその後あった、Jun.様、ひろひろ様にしたところ。

ひ「生徒会なんですよね?」
元「そりゃお約束だからね・・・。ん?いや・・・!あえてそうではないというのも!」
赤「生徒会でもなんでもない、ただ、目立ってる4人!」
J「じゃあ、生徒会は」
元「生徒会は、地味やねん」
赤「ゲルとかやってますね」
元「あ!ゲル!ゲル(城島茂)が生徒会長!地味(笑)!」
ひ「有能なんですけどね」
J「地味なんですね(笑)」
赤「ええなぁ、あいつら・・・って四天王を見ながら、地道ーーに活動してるんですね」
ひ「太一と、山口が一緒に」
元「いい!!地味!」
赤「なんでもできそうですけどね!地味!」
J「あー、稲垣上澄みさんだぁ〜って言われてる横を」
ひ「雨漏りするとか言われて、大工道具抱えて通りすぎていく山口!」
元「いいなー!!有能で地味な生徒会(笑)!」
赤「生徒会室も地味ですね」
ひ「いい学校なのに?」
元「いい学校なのに、なんか、さむーい、すみっこの方の部屋で。生徒会室ってゆーか、使わなくなった教室に、ふるーい小さい机が3つだけあって、そこで3人が(笑)」
赤「花壇の花がしおれてます!とか言われてね」
J「あっ、理事長が」
元「理事長がいるね。若くて男前の森理事長だね」
ひ「お約束ですねー!」
元「3代目でね。若くて男前なだけが取り柄の(笑)」

四天王には、木村と慎吾もいるはずなのに、私たちの会話は、有能で地味な生徒会&理事長の話に終始した。

はぁ〜・・・好きだぁ〜、稲垣上澄みに、稲垣カス・・・!
ちなみに四天王の木村は、神出鬼没。香取は、挙動不審ってところかしら。

 

その94
「フィクションです2」

そうは言っても、稲垣吾郎は「社員」というカテゴリーに分類されるので、SMAPとしての仕事をしていない間に、ちょっと事務所で働いてみてはどうか、ということになった。
出社初日。
「それはダメだろお!」
心配と興味でやってきた、中居が言った。
「それは、サラリーマンのスーツじゃないだろ!」
「そう?」
意外そうに吾郎は自分の姿を見てみたが、それはもう、まったく、サラリーマンとは言えない鮮やかな色合いの素敵なスーツだった。
「おまえさぁ、なんかよく知んねーけど、書類作ったり、コピー取ったりするのに、汚れんじゃねぇの?」
こちらもサラリーマン経験はないため、仕事内容もそれくらいしか思いつかない木村が言うが、だから、と吾郎は答えた。
「だから、汚れてもいいように」
「「汚れてもいいスーツかい!それ!!」」
絶句する中居と木村だが、慎吾は、性根の底から心配そうな顔でオロオロしていた。
「だって、ごろちゃん、お茶くみとかできるの?」
「お茶くみはしないだろ!」
「お茶くらいいれられるだろ!」
え?とお互いの顔を見る木村と中居。
「・・・いくらなんでも、お茶くみはしねぇんじゃねぇの?」
「え、なんで?お茶くみは新人がやるだろ?」
「新人って、吾郎は別に新人って訳じゃ」
と、振り返った木村は、お茶ね、お茶、と、給湯室に向かっている吾郎を見た。
「入れるのかよ!」
「あのなぁ木村」
中居は苦労人の顔になる。
「今時な、即戦力にもならないようなヤツを雇ってくれるような職場、そうそうねんだよ。そゆとこにな、入れてもらったんだから、先輩にお茶を出したりするのは、あったり前じゃん」
「あ、あぁ・・・」
上下関係に敏感な男、木村が納得しようとしたところで、慎吾が大きく首を振った。体ごと振ったので、風が起きた。
「だって、ごろちゃんだよ!?」
「いやいや、お茶はいれられるって」
上二人の呆れたような言葉を、慎吾はなおも遮る。
「ごろちゃんの知ってるお茶ってのは、なんとか、なんとかフラッシュ!とかいう武器みたいなヤツだよ!?」「なんだよ、なんとかなんとかフラッシュってよ」
「そーゆー紅茶なんだよ!そんな紅茶とか、どーせ、なんだ、お抹茶とか、そんなのばっか飲んでんだって!こんな事務所のお茶なんて、番茶に決まってんじゃん!番茶に!入れ方知ってんの!?」

「あれ」

給湯室からは、ノンキな呟きが聞こえてきた。
「お茶っぱがない」
そんな訳ないだろと全員で覗いてみると。
「ないない・・・」
お徳用番茶の大袋を目の前にしながら、吾郎がごそごそしている。
「・・・ほら・・・」
「なんとかなんとかフラッシュ以外は見えてねぇ・・・」
「え?ダージリンファーストフラッシュとか、そういうこと?」
「いいから茶入れろ!それだ!その目の前にある、それがお茶だよ!」
「え!これ!?」
まじまじと番茶を見つめた吾郎は、ポン、と手を叩いた。
「漢方!」
「番茶だ!熱湯でぐらぐらいれろ!!」

「ねー?ホントに大丈夫だと、思うー?ごろちゃーん」
「・・・まぁまぁ。それは知らなかったってことで。大丈夫だろ。1回見れば」
木村はそう思いたかった。
「後なんだ。コピーか。取れるのか、コピー」
「取れるだろ」
「木村、取れる?」
「取れるよ、何言ってんの」
「ホントに?」
「ホントだって」
「慎吾は?」
「え?俺?取れるよ。コンビニとか行って取るもん。絵とか描いたりして、拡大とか縮小とか、するよ?」
中居は、キラリと光る目で、お茶を配っている吾郎を見つめた。
アツアツアツ!と大変なことになっている。
どうやら、湯のみをあらかじめ暖めて、というところから、ぐらぐら沸いた熱湯を使っているらしい。受け取った方も、アツアツアツアツ!と大慌てだ。
「吾郎!」
中居が呼ぶ。
「何」
指先を赤くした吾郎は不機嫌そうにやってきた。
「この台本、両面で、10部ずつ、コピーしろ」
「・・・・・・・・・・・・・・・」

言われた吾郎の顔を見て、中居も、木村も、慎吾も。軽い絶望を覚えた。
今、稲垣吾郎は、宇宙語で話しかけられた的な顔をしている・・・!

「と、とにかく、それ、やれ」
しかし、ここで助け舟を出しては彼のサラリーマン生活の為にならん!心を鬼にして、事務所を後にした4人だった。
4人?

「・・・でさぁ・・・、ここまで来といても、それでもやっぱり喋らないんだね」
「いやさ、俺もさ、両面コピーってどうやってとるのかなーと思ってさぁ〜」
こいつ、ほんっと!できなさそう!そんで、できないからってやらなさそう!!と思われている草g剛だった。

しかし、稲垣吾郎の前には、依然、拡大縮小コピー、同報FAX、受付の生け花など、いくつものハードルが用意されている。
がんばれ稲垣吾郎!
負けるな稲垣吾郎!
サラリーマン稲垣吾郎!!

がーがーがーがーがーがー・・・・・・・
「稲垣さーん!何枚っておしたんですかーー!!」
「ん?10枚を10人で、100。あれ?」
「あれじゃなくってー!とめてーーー!!」

 

その95
「あの時の秘密」

2001年、SMAPのコンサートツアーには、ちょっとおかしなことがあった。
草g剛である。
なぜ、今まで何度もやってきている立ち位置が覚えられないのか。
確かに彼は、立ち位置重視の男森且行から、本番中に、あっちいけ!あっち!と怒鳴られたことがある。
にしても!
にしても、裏スマツアーにおける、草g剛の立ち位置の間違え方は、異常といってもいいものだった。
しかし、それには、こんな訳があったのだ。

「んーー・・・、あれっ?」

虚空を見つめる陰陽師稲垣吾郎は首を傾げた。
「あ、間違えた」
手元にあるのは、スティックが2本ついた、マッシーン。
かつて、金田正太郎くんが、鉄人28号を操作していたものに似た、由緒正しいコントローラーだ。
ガチャガチャと、前後に動くだけのそのコントローラーを使って、陰陽師稲垣吾郎は、式神を操作している。
もちろん、烏帽子を被った陰陽師スタイルだ。
そんな彼の式神こそ!
草g剛だった!

『やーめーてーよーー!!』

たった2本の、しかも前後にしか動かないコントローラーを、稲垣吾郎が不器用に操作するため、式神の動きは、当然おぼつかなくなる。
『違うよ!違うって!吾郎ちゃん!こっちじゃないって!立ち位置違うって!』
『んー?だって、左右は難しいんだよ。えーっと、右に行くんだから、コントローラーAを、半分まで倒して、Bを・・・』
『違う!左!左だよ!お茶碗持つ方!』
『・・・だから、右?』
『違うってー!』
二人の気持ちは揃わないが、式神なため、剛の動きは吾郎の思うがままだ。

・・・いや、吾郎の思うがままが、うまくコントローラーに伝わらないため、剛の動きはおぼつかないまま。
しかも、部屋で虚空を見つめている吾郎の脳裏に映るのは、客席から見た剛。
当然、左右が逆。そこに、右利きと左利きの人間が、右だ、左だ、お碗だ、箸だというのだから、まともに動けるはずがない。
こうして、今日もまた、なんで立ち位置間違えるんだよ!!と剛が叱られる羽目に陥るのだ。

しかし、剛は式神。
今日もまた、式られている。
「えーと、足を前に出すのが、右だとー・・・」
「ごろちゃん・・・」
「ん?右足?は?Aを、向こうに倒しきってから?」
「ごろちゃん」
「そうそう、向こうに倒しきったら、右足が、前に!」
「うわあ!右ばっかり前に出させないでよっっ!」
「右!右!右っ!」
「だーかーらーー!!」
バレリーナのごとく、前後にぺったり開脚した剛を見て、陰陽師稲垣吾郎はつまらなさそうな顔をした。これなら、SMAPのリーダーを式神にした方が面白そうだ。
そんな命知らずの陰陽師は、今度は式神剛を立ち上がらせようと、Bコントローラを手前に引きつつ、Aスイッチを半分まで戻す。
ぎくしゃく、と、立ちあがった剛は、ちょっと涙目で訴える。いきなりの開脚は多少痛かったらしい。
「もう、辞めようよ、ごろちゃん」
「え、なんで」
「なんでって、ごろちゃん、もう別に必要ないじゃん!やっぱり参加したいから、式神やってとかって!そんでなんでそれが俺なんだよ!」
夏から、何百回と繰り返されてきたグチは、いつも同じ言葉で終わらされる。
「剛が一番言いやすかったから」
「言いやすいって!」
ケロリと言い切った吾郎は、がっちゃん、がっちゃん、コントローラーを操作し、また剛の体がぎこちなく動かされた。
式神やって、って言葉で、式神できてしまうほど、剛は変なところで素直だ。
うふふ、と微笑みながら吾郎も楽しそうにコントローラーを動かしていたのだが。

「いい加減、ビストロやるから、その変な帽子取れ」
背中から中居の声がしたので、吾郎はさっさと烏帽子を取り、狩衣を脱いで、コック帽を被りなおし、コックコートを着る。
そんな2002年1月9日。
そりゃ木村も、『ごろちゃん、自然じゃなかったな』ってゆーわな。

 

その96
「スマー・ポッター」

ゴロー・ポッター(稲垣吾郎)は、亡くなった母親の姉のうちに住んでいる。
そこには同い年の従兄弟がいて、ゴローはいつもいとこのカトリー(香取慎吾)にいじめられていた。
ゴローの部屋は階段の下の物置で、カトリーは2階の部屋から降りてくる時に、必ず階段で飛び跳ねては、ゴローの部屋にホコリを落としていく。
ゴ「まったく・・・」
ホコリだらけのベットから起きあがり、大きなメガネをかけて、前髪を直しつつ、ゴローは物置を出ていった。
「まぁ〜、カトリーちゃん!」
カトリーの母親(木村拓哉)は、可愛い一人息子を笑顔で迎え、ゴローには、ベーコン焦がすんじゃないよ!とキッチンに追いやる。
「今日はカトリーちゃんの誕生日よ!ほら!」
テーブルの上、周りには、プレゼントが山盛りになっていた。
「いくつあるの」
カトリーは、体も大きく乱暴な子供だったが、両親には宝物ように見えるらしい。
「31個だよ、カトリー」
父親(中居正広)も、新聞を広げながら満足そうだ。
「31個!?」
しかしカトリーは不機嫌に足を踏み鳴らす。
「去年は!32個!あったのに!!」
「あぁ、カトリーちゃん!」
あったのにあったのに!!と暴れるカトリーを、母親がなだめる。
「解ったわ!解ったから、カトリーちゃん!今日は、一緒にお出かけして、プレゼントを2つ買ってあげますから!」
もお、ほんとにカトリーちゃんったら、と、可愛くて仕方がないと言う顔をする母親と父親。
キッチンでベーコンを皿にとりわけているゴローには関係のない風景だったが、そこに、1通の手紙が落ちてきた。
手紙・・・?と、ゴローが拾おうとした時。

ドーン!
「いって!!」
「パパ!ママ!ゴローに手紙が!!」
すっとんできたカトリーに突き飛ばされ、ゴローの細い体が吹っ飛ぶ。
「手紙だとぉ!?」
「いたっ!痛いって!」
父親が、大きく外周りの末、わざわざゴローを踏んで、カトリーの元に走る。
手紙には、カトリー家、階段の下物置内、ゴロー・ポッター様と書かれていた。
「僕への手紙でしょう!?」
「いや!こいつに手紙なんか来るはずがない!」
「ていうより、その手紙はどこから来たの!?」
母親の声に、カトリー家のリビングが左右に分かれ、その奥がカトリー家の庭。
その庭にある木の枝には、郵便かばんを斜めがけしたふくろう、ツヨウィグ(草g剛:着ぐるみ)がとまっている。
「よぉーし!ゴロー!」
父親が言った。
「あのふくろうから手紙を受け取れたらおまえの勝ちだ!」

<ルール>
ツヨウィグは木の上からゴロー・ポッターあての手紙を投げる。ゴローが無事それを受け取れたら、ゴロー&ツヨウィグの勝ち。カトリーが先に取ったらカトリー家の勝ち。
カトリー家の庭なので、池、砂場、など、足元はよくない。

カ「よし!こぉーい!ふくろうーー!」
ゴ「ちゃんと投げろよっ!」
庭の端にスタンバイする二人。二人と、ツヨウィグの間には、ツヨウィグ側から、水槽、砂場(白い粉)と用意されている。
父「取れよー」
父、母は、高みの見物。
ツヨウィグ手紙を取りだし、紙飛行機の形に折って、まず投げる。
ダッシュ!
の前に、行きがけの駄賃!とばかりにゴローを突き飛ばしてから走るカトリー。
軽々と突き飛ばされたゴローも、慌てて後を追うが、砂場に足を入れる前に手紙は失速、水槽の中に。
カ「よえぇ!よぇえよ!!」
ゴ「ちょっと!ちゃんと折ってんの!?」
ツ「団地対応型ってのにしてんだよ!」
ゴ「してる!?ここ団地じゃないのに!?」
あ、そうか、と、スタジオ対応型に折りなおすツヨウィグ。カトリーは、足元が白くなっているのが気に入らない様子。
母「はいはい、次ー」
高みの見物チームからの声に、ツヨウィグは慎重に紙飛行機を構える。方向はばっちりゴローにあっているが・・・!
投げた瞬間、またカトリーがゴローを突き飛ばそうとするのを、奇跡的なフットワークで交わし、ゴローは紙飛行機に向かって走る。
ふらふらと飛ぶ紙飛行機は、どうにか水槽を越えそうだったが、ゴローは、水槽の手前で立ち止まったまま、ただ手を伸ばす。
彼は水が嫌いだ。
カ「ドーン!」
しかし、その背中は、カトリーによって突き飛ばされ、あ・あ・あ・・・!と伸ばした手も虚しくゴローは水槽の中に(水深80cm、幅100cm)!
カ「よっし!」
と、カトリーは紙飛行機に手を伸ばしたが、濡れたっ!となったとたん、ばね仕掛けで跳ね起きたゴローに邪魔される。
カ「つめてっ!」
ゴ「冷たいじゃないっ!なんだ、もぉー!これぇぇーー!!」
足元は粉まみれの状態で水に入っているので、衣装はどっろどろ。ゴローの機嫌はかなり悪い。
ゴ「なんで、剛が投げてんだよ!」
ツ「なんでって〜」
ゴ「木村くんとかでもよかったじゃん!」
母「木村くんとかゆーな!」
ゴ「それで、どこ!手紙!!」
手紙は、またもや、水槽に浮かんでいた。
ゴ「これいいじゃんっ!これひろっちゃダメなの?」
父「ダメー。濡れた手紙もらっても読めねーじゃん」
高みの見物は言いたい放題だ。
カ「もー、ごろちゃん、水くるからさぁ!髪ぶるぶるすんのやめてくんないー?」

今度こそ、と、ツヨウィグは紙飛行機を折る。
しかし、どんどん細かく折られていく飛行機を見ただけで、あれは手を離れたと同時に失速するということを、慎吾は直感で、吾郎は経験で判断した。
手を離れたと同時にダッシュだ!
そして、二人は理想的なスタートダッシュをした。
しかし、濡れネズミだったゴローは、砂場で足を取られ転倒。お約束の真っ白けな姿になり、やった!というカトリーの声を頭上で聞いた。
顔を上げなくても解る。
カトリーは、手紙を手に入れた。
しかし!
自分のこの姿はどうだ!!
意識を頭上に上げ、己の姿を見下ろした時、ゴローはぷちん、と何かが切れる音を聞いた。
カ「何これ!勝ったらなんかもらえんの!?」
わくわくしながら紙飛行機を開いて中を見ようとしているカトリー。そこに、粉まみれのゴローが突進、背中から水槽に落とすことに成功!
ツ「うわ!ごろちゃん、すげえ!」
相変わらず木の枝に座ったままのツヨウィグが驚いて声を上げたところで、足首をつかんで引きずりおろし、水槽に叩き込む。
父「うわー!吾郎すげーー!!」
母「おもしれぇーー!!」
そんな高みの見物チームにも、粉まみれのまま近づいていくゴロー。
母「え。え、何(笑)?」
ディレクターズチェアに座ったままの二人の前に行き、にこ、と微笑みつつ、前髪を直したゴローは。
父「ぎゃー!!」
母「つめてぇっ!!」
二人まとめて抱きついて、うりゃうりゃ!!と、水やら粉やらをこすりつけていく。
ゴ「ははははははははは!!!!」

ナレーション『残念ながら、カトリー家に敗れたゴロー・ポッター!彼が魔法学校への入学案内を手にする事はできるのか!!』

父「離せーー!!」
母「も、しんじらんねぇ!」

今回のコントから得られる教訓:魔法使いを怒らせるのはやめよう。

 

その97
「ラブ・サスペンス」

木村拓哉は、どこにでもいる普通のサラリーマンだ。
商社の営業マンとして、日々忙しく暮らしている。
男前だが、結構地味なのは、性格が生真面目だからだろう。
「お疲れ様でした」
彼が、挨拶をしてフロアを出たのは10時過ぎだったが、まだ半数くらいが残っていて、それぞれ忙しそうにしている。
木村は、『忙しそう』にするのが苦手だ。
元々生真面目なものだから、仕事のダンドリはちゃんとつける。要領が悪い訳でもないから、自分の仕事はキチンと済ませられるのだが、なにせ、『忙しそう』にするのが苦手なものだから、次々と仕事を押し付けられていく。
実際、木村の仕事量は、忙しそうに、賑やかに仕事をしている他の社員よりも、ずっと多いのだ。
いわゆる『美味しい』仕事ではないから目立たないけれど。
会社を出て、腹減ったなぁと思いながら、足は地下鉄の駅に向かう。会社の近くにも食事の出きる店はあるが、この時間だと、アルコールメインの店が多くなる。一人暮し暦の長い木村は、また生真面目に食事を作る方だから、帰って食べようと自然に思ってしまうのだ。
それでも、4、5年前なら、同僚と飲んで帰ることもあったし、なんなら学生時代の友達を呼び出すこともあった。
そういうことが減ったのは、仕事であったり、家庭であったり、それぞれの事情が変わってきてることが大きな要因ではあったけれど、木村自身も、無理をしなくなっていた。
外で食事をするよりも、早く帰って、家で落ちつきたいと思ってしまう。
家に、誰がいる訳でもないし、ペットがいる訳でもない、静かなだけの部屋だけど。
そんな風に落ちつくことを考えてしまうなんて、自分も年をとったなと、木村は思った。家に帰って、簡単に食事を作って、それを食べたら風呂に入って、寝る。
そして、朝が来たら、起きて、パンなんかの簡単な朝食を食べて、会社に向かい、仕事をして、また帰って・・・。

地下鉄の窓からは、外の風景が見えない。
天気がよくても、悪くても、早い時間でも、遅い時間でも、同じ暗い壁が見えるだけだ。
遅い時間でもそこそこ混んでいる電車の中で、何を食べようかなと考えていた木村は、その無機質な壁を暫く見つめ続けていた。
コンクリートジャングルを象徴するかのような、灰色の壁。
灰色の壁の中を走る、誰に見せる訳でもなく、鮮やかな色の電車。
その中で、ただ、飯のことを考えている自分。
若い世代なら、それを壊せ!と声を上げるだろうけれど、灰色の壁の中のほうが、なんだか落ちつくような気がしてしまう。
なんだか、マイナーな気分だな。
小さくため息をついた木村は、ため息をつくと、幸せが逃げるって、誰かが言ってたな、なんて思った。

木村は生真面目だが、考えこむタイプではない。
ガス抜きの仕方も知っている。
その夜は、大人しく家で寝たけれど、週末はでかけることにした。
小さい頃は、天文学者になりたいと思っていた木村は、個人で持つにしては、結構な規模の天体望遠鏡を持っている。金曜の夜、それを車に積んで木村は出かけた。
都会の夜は、すっかり明るくなっているけれど、それでも探せば星が見えるところはある。
何度か行ったことのある山頂の駐車場に車を止め、望遠鏡を下ろす。幸い、天気はよかった。
肉眼でもいくつか星が見えて、今日はそれなりに、いい観測日よりかもなと、小さく微笑む。
しかし、駐車場には、木村の車のほかに、もう1台止まっていた。
デートで来るには、夜景などは見える場所でもなく、一目をはばかるにはいいかもしれないが、それにしても地味すぎる場所だ。
なんか、エッチなこととかしちゃってたらどぉしよう〜。
そんな風に思いながら、歩き出そうとしていた木村は、車に戻ってきた人影に気がつく。
駐車場には明かりがついているから、帰ってきた人物が、どういう人かはよく見えた。伊達に天体観測を趣味にしていた訳じゃなく、木村の視力は、いまだに2.0だ。
「・・・杉本さん・・・・・・・・・?」
その人は、何度か仕事をしたことのある、取引先の課長に見えた。
黙っていれば、結構シャープな雰囲気で、しかし喋ると陽気で、木村にもよくしてくれた。
「でも、そんなはず・・・・・・」
杉本の顔の中で特徴的なのは、その歯だった。
出ている。
絵に描いたような出っ歯は、彼によく似合っていた。シャープな雰囲気を和らげていて、彼自身をとても特徴付けている。
だから、見間違えるはずはないのだが・・・!
木村は、その姿から目が離せなかった。
違う。
杉本さんのはずがない。
世の中には、似た人間が、3人はいるっていうんだ。
きっと、別人だ・・・!
木村はぎゅっと目を閉じて何度か首を振る。ともかく、この場を離れなくては・・・!
そっと、暗闇の中に入ろうとした木村は、焦りの余り、足元の段差に足をとられ、転んでしまった。かろうじて望遠鏡を守ったものの、立てた音の大きさに、車の人物が気がつく。

そして二人の視線は。
しっかりと合ってしまったのだ。

木村は、夜が来るのが恐ろしかった。
職場から、帰りたくないほどだったが、帰らないわけにはいかない。
周りの人間のように、忙しいふりをしながら残業もしたし、やたら飲みにも行った。
それでも、帰らなくてはいけない。
そしてどんなに遅く帰ったとしても。

ピンポーン。

チャイムは鳴る。
木村が帰ってくるのを待っていたかのように、チャイムがなる。
木村が出ない限り、そのチャイムは、いつまでも鳴った。
深く溜息をつき、木村はドアに向かう。
スコープで見なくても解っていた。
ドアの外にいるのは・・・!

「たくちゃん・・・、来ちゃった・・・♪」
「来ちゃったじゃないでしょうが!何やってんですか!杉本さん!」
「いやっ!タカコって呼んで♪」
大袈裟なロングのカツラをつけ、昔風のワンピースを身にまとっている。ついでに、くるくる回っていたりする。
「タカコじゃないでしょー!帰って下さい!」
「杉本の杉を松にして、松タカコって呼んでくれてもいいのよ?」
「松たかこ、歯ぁ、出てないでしょう」
「高橋ひとみだって出てるわ!!」
「久本雅美も出てますねぇ!」
「・・・ね、たくちゃん、いれてよぉ〜」
「イヤです!別に誰にも言いませんから、帰ってください!」
「運命やって思えへん・・・?」
「運命ちゃいます!」
「ほら、関西弁!やっぱり運命やわ!あんなとこで出会えるなんて、たくちゃん!」
「違います!」

杉本課長には女装趣味が!?
ピンチ!
がんばれ!つっぱね続けろ、木村拓哉!!

(いや、4月からの木村のドラマ、月9で、さんまが出てて、ラブ・サスペンスやってゆーから・・・(笑))

 

その98
「ラブ・サスペンス2」

その朝の目覚めは最悪だった。意識が戻っても、目が開けられない。
頭がガンガンしているせいもあったし、そもそも、上まぶたと下まぶたがくっついている。
おっさんか、俺は・・・!
両目をがっちり繋ぎとめている目やにらしきものをそのままに、木村は寝返りをうった。
昨日は呑みすぎた。
木村は、クラブの雇われマスターをしている。夜は遅いし、朝は当然遅い。仕事が仕事だから、毎日呑んでいるけけど、久々の二日酔い。
あー・・・・・・
身動きするたびに頭が痛む。こめかみを押えていたが、その手を上げていることさえ辛くなってきてぱたんと落とした。
その指先に覚えのない感触がある。
ん・・・・・・?
柔らかい感触。
起きたら隣に見知らぬ女性が、というシチュエーションは、そう珍しいものではなかった。
でも、そんなことあったかな・・・。ぼんやり思いながら、礼儀として、その体に手を伸ばす。
が。
・・・・・・・・・・・・冷たい・・・・・・・・・・・?
自分が布団を取ってしまっていたのか?
それは悪いことをしたと更に抱き寄せようとしたのだが、間違いようもなく、その体は冷たかった。

冷たい体って、一体?
冷たい体って、冷たいって、人間は、恒温動物だから、冷たい場所にいるからといってそうそう冷たくなるものじゃない。
人間の体が、本気で冷たくなる時っていうのは。

死んだ時・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・・!?

ばっ!と反対を向いた木村は、前夜の記憶を必死に思い返す。
昨日も店は混んでいた。イベントをやっていたせいもあって、一時は入場制限するほどの大入りだった。
木村も、奥の部屋から出てフロアに姿を見せ、それをまた客を喜ばせた。
イベントは大盛況のうちに終了したし、なんの問題もなかったはずだ。ちょっとしたケンカすらなかった。ちょっとないほどの成功で、3時前に全部の客が帰った後も、スタッフたちと一盛りあがりして、それから・・・。
それから、明日休みだし、片付けはいいから、呑みに行こうと、外へ出た。
よく行くバーだったけれど、そこにいた、女の子と言えば・・・・・・・・
ずきずきする頭で、記憶を辿っていく。
薄暗い店にいたのは、スタッフと、後、常連の子が何人かいて、それから・・・。
いや、でも、あの子たちじゃない。
彼女らの髪は、むしろ短い。今隣にいる、死んでいるやも知れない人物の髪は、柔らかい長さを持っているようだ。
・・・はっ!
木村は、いまだ開かない、いや、もう恐ろしさから開けることの出来ない閉じた目の奥に、ある映像を焼きつけた。
あのバーに、後から入ってきた、女性。長い、綺麗な栗色の髪をしていて、柔かなカールがふわふわと印象的だった。
綺麗な人だなと、木村は確かに思ったのだ。
それから?
それから、自分はどうした?
彼女に声をかけた?かけなかった??通常なら、まぁ、かけている。8・2でかけている。しかし声をかけたからと言って、お持ち帰りするかどうかは、半々。・・・いや、まぁ、6・4?
でも、あの時間だったら、もう四時とかになっていたはずだし・・・。
・・・そんな時間に、知る人ぞ知るといった隠れ家的なバーにくるにしては、ちょっと雰囲気が違ってた。上品なというか・・・。

ともかく、その女性?が、隣で、死んでいるとして・・・・・・。
じゃあ、ここはどこだ?どこで寝ている?
自分の部屋か?この女性の部屋だったら?隣に死体があって?
一体自分はどうすれば!?

「ええ加減に起きろや!!」

「えっ!?」
オーナーである杉本の関西弁に、木村は飛び起きる。
オーナーの女に手を出した挙句に殺したか!?

「なんやそれは!!」
目やにをものともせず勢いよくまぶたを開けた木村が見たのは。

アフガンハウンドの、大きなぬいぐるみだった。

「おまえなぁ、別に店で寝るのは構わへんけどなぁ、もう、バイトの子らも来て片付けしてるしやなぁ」

じゃあ、これは全部勘違い!?
でも、昨日確かに、木村の記憶は、あの女性を見てから途切れているのだ。
そもそも、なんでこんな大きな見たこともないアフガンハウンドのぬいぐるみが!?
取り戻せ木村!己の記憶を!!

・・・取り戻したからといって、幸せだとは限らないが・・・!

(いや、4月からの木村のドラマ、月9で、さんまが出てて、ラブ・サスペンスやってゆーから・・・(笑))

 

その99
「企画:mappy」

ここに1人の企画者がいる。
彼の名前がクレジットにあれば、そのドラマが面白くないはずがない、と言われている奇跡の企画者だ。
しかし、この話は、それよりも前。
彼が、最初の奇跡を起こした時の物語である。

mappyが、一番最初に企画に携わったドラマは、日本一の男前、Sというグループの、TKが主役のドラマだった。共演は、大物タレントのSA。
「サービスエリア」
「違います」
打ち合わせ中にも、笑いを忘れないmappyだったが、その顔ぶれには、表情を曇らせる。
mappyの、108あると言われている企画手法の中で、7番目くらいに重要視されているらしいのが、『情報操作』ということだ。
情報を制するものは、戦争すら制するのが、現代社会。
自分が関わる以上、情報戦には絶対負けたくない!とmappyは思っていたところに、内部から思わぬ伏兵が現れた格好だ。
SAは、喋らなければ死ぬ、多分、1人でも喋る、寝てる時も喋ってるとまことしやかに噂されるほどのお喋りだった。
こういう男をどうすればいいのか・・・。
mappyは考えた。
そして、「黙ってる方が面白いから黙ってよう」という言葉を本人から引き出すことにした。SAが言ったから、全員が黙っている、という形にすれば、本人も気持ちよく黙っているに違いない。
問題は、TKだった。
TKは、薄汚い芸能界で10年以上やってきたとは思えないほど、pureだった。ミドルネームにpureとつけてもいいとさえ思えるほど、pure。king of pure。
こんな男に、本当はこうだけど、黙ってろ、なんて言っても無駄だ。
こうやって言われてるけど、ホントは、こう、と自慢げに喋るに違いない。例えば取材で。例えば自分のラジオ番組で。
mappyはそんなマヌケな事態には耐えられそうもなかった。
なので、打ち合わせの最後に、mappyは宣言した。

「TKには、別情報を流す」

主演俳優に、嘘をつく、という宣言だった。
嘘も方便などというレベルではない。
しかし、mappyには、それでいいという自信があった。

「すでに別台本も用意してある」
「えぇっ!?」
テーブルの上に2冊置かれた台本にスタッフは仰け反った。タイトルまでキチンと入った台本は、本物と寸分違い無い。
「あ、あの・・・!」
中を見たスタッフたちは、再び仰け反った。
キチンとした、2話分の台本だ。キャスト、スタッフ名も、すべてのシーン、すべてのセリフも、間違いなく入っている。しかも。
「・・・これも面白いじゃないですか・・・!」
「はは。手慰みだよ」
軽く流すmappyだったが。

「じゃ、おまえ、2話分の台本書け」
「『じゃ』、『じゃ』って、なに?『じゃ』って」
TKと同じグループのGI
「ジョー?」
「違いますって」
は、とある理由で、しばらく仕事を休んでいた。実家でおさんどんをしながら日々を送っていたが、そこにmappyがやってきていきなりそう言ったのだ。
「だって、おまえ暇じゃん」
「暇って・・・、いや、暇だけど・・・」
「2話分な。1話目と、2話目。KタガワEリコみたいなヤツ。でも、今回サスペンスってことになってるから、それは忘れずに」
「Kタガワって言われても、よく知らないし・・・」
「だから、少女マンガみてーなヤツだって!常にラブが先行するね。愛のためなら、仕事なんぞはどーでもいいって感じのヤツ。下手すりゃ命もいらん、くらいのやつ。それ」
「少女マンガみたいなサスペンスって・・・何・・・!?」
「ヒロインにはキープの男を配置。主人公にも、思いを寄せる女が必要だが、これは、美人だが絶対同性の友達がいないタイプか、ひたすら控えめな女版「あの子って、いい人だよねー」みたいな恋愛対象になりにくい害のないヤツにしとけば間違いない」
「え、その人たちは1話目から出てくるの」
「面倒だったら匂わすだけでもOK。1話目、2話目だから、謎は広げるだけ広げといてくれ」
「Kくんは、どんな?」
「そーだなぁ〜。サスペンスってことにしてあるからなぁ〜・・・。犯人にでもしとくか」
「犯人・・・」
「あ、初回はさ、15分拡大、あー、うまくすりゃ、30分拡大だから、その分長めにな」
「えーーー!!そんなのってー!」

今、スタッフの間を感嘆の声とともに回っているのは、そうして出来た台本だった。
「行けますよ!mappyさん!これなら完璧です!」
「当たり前だ」
自信たっぷりにmappyは笑みを浮かべ、その台本をもらったTKは、さすがpure!自分のラジオ番組で嬉しそうに喋っていたのだった。

ちなみに。
本当に企画されているドラマは、おそろしく男前だが、それ以上にびっくりするほど無口な、人気クラブの副支配人が、この世にありうべからぬ様々な謎の現象を解決する!ような、しないような、そんなドラマだ。

大人気間違いなし!!

 

その100
「デリスマ」

デリバリーSMAPの店員、中居正広、香取慎吾に、新しい依頼がきた。
「今日は二人で行ってもらうデリ!」
動きの固さで、かつて二人が所属していた、サタスマのキャラクター、サタッペ、スマッペのキュートさに足元にも及ばないデリボーイが言う。
え、おまえ、ボーイかい、というつっこみもあり。
「二人ぃ〜?」
「そうデリ!早く行くデリ!すぐ行くデリ!」
依頼tが入る留守番電話には、住所だけが吹き込まれている。
「なんの依頼か解らないじゃん」
中居が面倒くさそうに言うと。
びしっ!
デリボーイチョップがでこに炸裂。
「いってー・・・!あのさぁ・・・それやるんだったら、こっちだろ・・・!」
帽子の上にやれ!見た目が派手で痛くねぇ!とダメ出しをして。
びししっ!
右チョップ!左チョップ!か全く同じ箇所にヒット。
「いってぇっての!」
「さっさく行くデリ!中居!気をつけてねデリ、慎吾ちゃん」
すっげー態度違う!ぶーぶーぶー!と中居は文句を言うが、これ以上いてもまたチョップをくらうだけだと店を出た。
「あー、面倒くせー」
「なんだろうね、仕事の内容も解らないし」
「どぉーせ、結婚式のなれ初めビデオを作れとかってゆー、所さんの笑ってこらえてのパクリとか、結婚記念日に子供の面倒見ろとか、こっそり朝飯作れとかさぁ」
「・・・最初のは、ゆっちゃいけないことじゃあ・・・?」
「にしても、この住所・・・」
なんか、馴染みがあると思っていたら。

「び、ビクター・・・!」
「なんでビクターがデリスマに仕事の依頼を!?」
「遅いデリ!」
「なんで先回りしてんだよ!」
中居とデリボーイの仲は悪い。デリボーイがあからさまに慎吾をヒイキするからだ。けっ、所詮日本は若いヤツをちやほやする国なんだよなっ!と中居は思っているが。
「いや、慎吾ちゃんの方が、素直で可愛いからデリ」
デリボーイは違う違うと固い手を動かして訂正した。
「それより、なんでビクターが俺たちを呼んだ訳?デリボーイ」
「あっ!慎吾ちゃん!それがデリね」

「遅い!」
そこに大きな声が響いた。
「あっ!依頼人デリ!」
「「依頼人っ?」」
はっ!とその声を方に振り向いた二人は、ああっ!と驚く。
「木村じゃん!」
「依頼人を呼び捨てとは失礼デリ!今回の依頼人、木村拓哉さん、29歳デリ!」
「木村拓哉、29歳だ」
「知ってるよ、俺だって、中居正広29歳だし」
「俺『だって』の、『だって』の意味が解んねーよ、中居くん・・・」
「そんでなんなんだよ、依頼って・・・」
「それはデリね・・・!」
デリボーイが、中居に詰めよってくる。
「でかいでかいでかい!顔でかい!怖い!」
「失礼デリ!」
逆光で、デリボーイが顔面10cmまで近寄ってくるという恐怖を感じていたら、さらに恐ろしいことを言われた。
「SMAPのCDを完成させるデリ!」
「えぇっ!?」
「今日中にな」
「えっ!」

こうして、中居、慎吾、デリボーイ、そして木村が、録音スタジオに入り、ええ加減、いつ出るねん!と思われている、SMAPのニューシングルの収録が行われることとなった。
期限は今日中。
スタジオ入りが、午後一時なので、そんなに時間がある訳ではないが、中居にとっては楽勝ペースだ。
毎回、数回しか歌っていない。
えへらえへらとテープを聞き、すぐ様録音しようとして。
「いでっ」
後から首根っこをつかまれた。
「おまえはまだ練習。慎吾行ける?」
「んー・・・、取りあえず・・・」
楽譜を見ながら、慎吾が先に録音ブースに入る。
「何、練習って!」
「歌えてないだろ!」
録音自体は、録音スタッフとデリボーイに任せ、木村は別室で中居に歌の練習をさせる。
んもー、面倒くせぇ〜〜!と思った中居だったが、木村の体質は解っている。真面目で一生懸命であれば、結果は問わない男、それが木村拓哉。
せいぜい、真面目に、一生懸命にと、やってみせた。
「んー・・・、じゃあ、一回録ってみるかぁ」
ふっ、ちょれぇな、木村と心で思った中居だったが。

「はい、もう1回」
「えっ!まだやるデリ!?」
鬼のデリボーイがびびるほどのテイク数になっていた。
『えーー!もぉ無理だってぇー』
ブースの中の中居も叫んでいる。
「いや!まだもっとできるはずだ!中居はやればできる子だ!俺はさっきの練習で確信した!」
しまったぁーーー!!指導者に根拠のない自信をつけてしまったぁぁぁーーー!!!
助けてくれ!慎吾!と目で合図しても、慎吾は気付かないフリをする。燃えてしまった木村拓哉を消火する方法はないのだ。
「ごめんね、デリボーイまで長居させることになっちゃうけど」
しかし、気遣いの人でもあるので、店員の仕事を見守らなくてはならないデリボーイにお詫びをする。
その微笑に。
「・・・ううん、いいデリ・・・」
どおしよお!慎吾ちゃんも可愛いけど、木村くんも素敵・・・!なぜか、ぽおっとなったデリボーイだった。

その後、慎吾も、デリボーイも、デリスマスタッフも帰ってしまった録音スタジオ。
SMAPのニューシングルが完成したかどうかは、録音スタッフだけが知っている。


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